モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載では、モーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションを加速させる情報をお届けします。
政府が経済安全保障と持続的成長の要として重要戦略分野への集中投資を進める中、モーニングピッチでは「日本成長戦略シリーズ」と題した特集を組んでいます。今回は、去る5 月21 日に開催した「半導体特集」から、市場の最前線と注目のスタートアップを紹介します。

2026年の世界市場は昨年末予測を55%も上回る見通し

半導体は企画・設計から製造、テストを経て最終製品に組み込まれるまで、非常に長く複雑なサプライチェーンで成り立っています。近年、生成AIの需要が爆発的に拡大し、情報を「処理する」ロジック半導体や「記録する」メモリー半導体を中心に、そのニーズはかつてない規模で急増しています。
市場も驚異的な成長を遂げています。世界半導体市場統計(WSTS)の最新予測によると、2026年の世界市場は前年比90%増の1兆5112億ドルに達する見通しです。市場規模が1兆ドルを突破するのは史上初で、日本円にして約240兆円という巨大市場が目前に迫っています。WSTSは2025年12月時点で26年の市場規模を9754億ドルと予測していましたが、わずか半年でその数値を55%も上方修正しました。これは、市場の拡大がいかに予測を上回るスピードで進んでいるかを物語っています。

 

国家レベルでのAI安全保障をめぐる競争が後押し

さらにこの流れを後押しするのが、国家レベルでのAI安全保障をめぐる競争です。最近、米アンソロピックが開発した超高性能AI「Claude Mythos(クロード・ミュトス)」が、システムの脆弱性を発見する能力が従来モデルより桁違いに高いとされ、悪用された場合のサイバー安全保障上の脅威から、いったんは一般公開が見送られました。この一件は、高性能AIの開発と利用が一企業の範疇を超え、国家の安全保障を左右する重要課題であることを示唆しています。高性能AIを動かすための計算資源、すなわち最先端半導体の確保と国内での安定供給体制の構築が各国の急務な課題となっており、この安全保障上の要請が半導体市場を強力に後押ししています。
このような状況下、直近3年間のスタートアップへの資金調達動向を見ると、AIおよび半導体領域に巨額の資金が流れ込んでいます。国別では米国と中国がその中心地となっていますが、半導体領域の資金調達額ランキングで、日本のラピダスが世界2位にランクインしていることは、日本でも強靭なサプライチェーンを構築しようという大きな動きの表れです。
日本政府は2040年に国内半導体関連産業の売上高を40兆円まで拡大するという「半導体新戦略」を打ち出しています。この高い目標を達成するために、私たちが注目しているのが「ラピダス」「素材・製造装置」「半導体スタートアップ」という3つのキーワードです。

 

材料系などでスタートアップが次々と台頭。日本の牙城をさらに強固に

ラピダスは、回路線幅が2ナノ(1ナノは10億分の1)メートルという次世代ロジック半導体の国産化を目指す、まさに日本の国家プロジェクトを担う企業です。政府から2兆円を超える支援を受け、北海道千歳市の製造拠点「IIM-1(イームワン)」と研究開発拠点「ラピダスチップレットソリューションズ(RCS)」が本格稼働。2ナノ半導体の試作にも成功し、2027年の量産開始に向けて準備を進めています。AIスタートアップと連携して設計業務も一部受託するなど、ラピダスの語源である「Rapidus(=迅速、ラテン語)」な製造の実現を目指します。
日本の伝統的な強みである素材・製造装置分野は、今もなお日本企業が世界的に高いシェアを誇っており、この競争力を維持・発展させることが不可欠です。近年では、新材料や新たな原理によって省エネ・高性能化に挑む材料系スタートアップや、製造・検査工程の生産性向上に貢献するスタートアップが次々と台頭し、日本の牙城をさらに強固なものにしています。

 

半導体スタートアップは、革新的な設計プロセスや計算資源の効率化、フロンティア領域の製造技術などで新規市場を切り拓いています。また、大企業の優れた技術をスピンアウトさせ、外部資本を得て急成長を目指す「カーブアウト」という手法が、この領域では特に活発です。半導体が大手電機メーカーの一部門であったことが国際競争で遅れをとる一因になったという反省を踏まえれば、このカーブアウトは極めて有効な戦略と言えます。

本日は、この巨大なエコシステムを構成する企画・設計、材料・製造、測定・評価、そして活用の各領域から、未来を切り拓く6社のスタートアップをご紹介します。

 

導体開発を、初期費用1000万円以下・数週間へと劇的に短縮
Chiptip Technology株式会社

Chiptip Technology(チップティップテクノロジー、東京都港区)は、クラウド上で書き換え可能な半導体(FPGA)を仮想化し、管理するソフトウェアを提供します。世界で初めて、オープンソースの「Kubernetes(クバネティス)」を用いてネットワーク上のFPGAを直接管理する技術を確立。これにより、従来は1000億円超・数年を要した半導体開発を、初期費用1000万円以下・数週間へと劇的に短縮し、その門戸をすべての挑戦者に開放します。最終的には、FPGAでの試作からカスタム半導体(ASIC)への移行までを支援するプラットフォームの構築を目指します。

次世代半導体材料「酸化ガリウム」を用いたパワーデバイス関連製品
株式会社ノベルクリスタルテクノロジー

ノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県狭山市)は、日本発の次世代半導体材料「酸化ガリウム」を用いたパワーデバイス関連製品を開発・販売しています。現在は、高品質な100㍉酸化ガリウム基板・エピウエハーを世界に供給し、材料開発から量産までを一気通貫で推進。AIサーバーや高圧直流送電、再生可能エネルギーなど、次世代電力インフラの省エネ化に大きく貢献しています。さらに大口径150㍉基板のサンプル提供も開始。今後はその量産供給体制を確立し、大手デバイスメーカーの製品化を材料面から支援することで、電力インフラ向け高耐圧デバイスの社会実装を加速させます。

重力の影響を排除して宇宙を「探査」から「究極の工場」へと変貌
株式会社BEAM Technologies

理化学研究所発のBEAM Technologies(東京都千代田区)は、宇宙の微小重力環境を活用した次世代製造プラットフォームを展開しています。「浮力」「沈降」「熱対流」という重力の影響を排除して宇宙を「探査」から「究極の工場」へと変貌。AIサーバーの劇的な省電力化や次世代通信の進化に不可欠で超高品質な化合物半導体ウエハーを供給し、日本発の半導体革命を牽引していく。今後は、2028年の国際宇宙ステーションでの軌道実証により、製品の信頼性を確立。その後、30年より民間宇宙ステーションでの利用を開始し、対象素材を横展開する考えです。

AIによる改善活動の自動化を標準化
株式会社BFAIセミコンダクタソリューションズ

BFAIセミコンダクタソリューションズ(名古屋市中村区)は、「AIによる改善活動の自動化(MLOps)」を標準化するプラットフォームを提供しています。AI導入の大半は部分最適に留まっており、真の事業価値が生まれない中、欠陥検出・分類、異常予兆の検知、因果推論、最適化までを網羅するAIプラットフォームを提供。半導体製造の全工程でMLOpsを実現します。柔軟なAIモデル運用と半導体表面組織から独自に特徴を抽出する技術を強みとし、大手ICパッケージメーカーや大手自動車会社への導入実績があります。単一工程のAIではなく、半導体工場全体の品質インテリジェンス基盤を目指します。

高価なGPUサーバーを無駄なく効率化するソフトを開発
モルゲンロット株式会社

モルゲンロット(東京都千代田区)は、AI開発に不可欠な高価な画像処理半導体(GPU)サーバーを無駄なく効率化するソフトウェアを開発しています。1台のサーバーを仮想分割し複数人で同時利用できる中核技術「TailorNode(テイラーノード)」を軸に、高性能サーバーを手軽に利用できるクラウド「Cloud Bouquet(クラウドブーケ)」や、稼働状況を可視化する管理ツール「Arthur(アーサー)」を展開。GPUの遊休時間をなくし、計算コストを劇的に削減します。今後はこの革新的なソリューションを武器に、北米や東南アジアへの事業拡大を目指します。

ノーベル賞受賞の最先端素材「グラフェン」を用いた次世代光デバイス
グラフェナリー株式会社

慶應義塾大学発のグラフェナリー(東京都千代田区)は、2010年のノーベル賞受賞で知られる最先端素材「グラフェン」を用いた次世代光デバイスを開発するスタートアップです。世界最高の電流密度や熱伝導率というグラフェンの驚異的な特性を最大限に引き出し、情報通信の未来を拓く「光電融合」技術などの事業化を推進。現在は赤外光源や分析センサーへの応用も進めています。今後は、確立した独自の量産プラットフォームを武器に、情報通信分野への展開を加速させ、革新的な次世代半導体デバイス市場の創出に挑みます。

 

かつて日本の半導体産業は世界シェアの5割超を握っていました。その復活に向け政府は、最先端半導体の研究・開発拠点の整備に力を入れ、民間企業が投資しやすい環境をつくる方針を掲げています。「ラピダス」を旗艦とする国家プロジェクトと世界に冠たる「素材・製造装置」が次世代半導体の技術基盤を支え、「半導体スタートアップ」が新風を吹き込む。この三位一体の戦略こそが、40兆円という目標達成の原動力となるでしょう。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部
ディープテック・イノベーションユニット

荒谷 直子

 

青森県八戸市出身
半導体製造装置向け化学工業品メーカーにて研究開発・オープンイノベーションに従事、その後現職

化学工業品メーカー
次世代半導体向け材料・製品開発等に従事
外部技術導入等オープンイノベーションを推進

デロイトトーマツベンチャーサポート
NEDO:戦略策定調査「マテリアル新規領域」
NEDO:JOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造
協議会)運営事務局
NEDO:カーブアウト実証事業
大企業/ディープテックスタートアップの連携支援

 

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