モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載では、モーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションを加速させる情報をお届けします。
政府が経済安全保障と持続的成長の要として重要戦略分野への集中投資を進める中、モーニングピッチでは「日本成長戦略シリーズ」と題した特集を組んでいます。今回は、去る5 月28 日に開催した「合成生物学・バイオ特集」から、市場の最前線と注目のスタートアップを紹介します。

 

世界各国はバイオエコノミー推進に向けた政策立案、投資を加速

まず、合成生物学・バイオの概観について共通認識を持っておきたいと思います。経済産業省は、「従来の化学工業プロセスを生物の力に置き換えることで産業構造を革新するテクノロジー」と定義しています。温室効果ガスや食物残渣といった未利用資源を活用し、細胞や微生物の働きで高機能なバイオ医薬品や新素材を生み出す技術のことを指し、その価値は、健康医療、食糧問題、経済安全保障、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、循環型社会の実現など社会課題の解決に留まらず、新たな経済成長のエンジンとしても期待されています。

 

世界各国はすでに合成生物学を国家戦略の核に据え、バイオエコノミー推進に向けた政策立案、規制整備、そして巨額の投資を加速させています。
この技術は医薬品から食品、化学品、エネルギーまで応用範囲が極めて広く、環境負荷の低減と革新的な製品開発を両立させます。例えば、生産工程の代替によるCO2の排出削減や、特定国への素材依存からの脱却、バイオベース成分による高い安全性、化学薬剤では対応できない薬剤耐性菌問題の回避など、その価値は多様です。
技術領域は大きく二つに分類できます。有用な微生物や細胞を探し、その機能をデザインする「合成生物学」と、その細胞を使って実際に物質を生産・製品化する「バイオものづくり」です。

 

年平均で15%以上の成長が見込まれている

最大の課題は、既存の化学プロセスに比べ生産コストが高く、社会実装へのハードルが高い点にあります。この課題に対する解決策として、革新的な微生物・細胞構築技術を持つスタートアップと、大規模な製造能力を持つ大企業の協業が不可欠となります。近年はバイオものづくりに特化した受託生産(ファウンドリー)型のスタートアップも登場し、産業エコシステムの拡大が期待されています。
市場規模は年平均15%以上の成長が見込まれ、研究開発から産業実装フェーズへの移行が本格化する見通しです。

 

スタートアップと大企業の協業で合成生物学・バイオ由来素材を製品化

海外ではスタートアップと大企業の協業が活発化しています。化粧品分野では、仏Abolis(アボリス)が開発した化粧品素材を生産する微生物株を、独Evonik(エボニック)が用いて素材を大規模生産し、その素材を使って仏ロレアルがバイオベース成分を含む美容製品を作るというサプライチェーンが構築されています。
また食品分野では、米Perfect Dayが開発した微生物による乳タンパク質の生産技術を米ネスレが採用。牛を介さず環境負荷を劇的に下げながら、本物と遜色ない味と風味を兼ね備えた精密発酵ミルクを製品化しました。

 

 

合成生物学・バイオが畜産を代替することで、食品領域でのサプライチェーンの変革が期待されます。
今回は、こうした潮流の中で、合成生物学・バイオ業界を牽引する要素技術の開発・サービスの提供に取り組むスタートアップ5社を紹介します。

 

 

沖縄の海を舞台とした海洋バイオファウンドリー
オーピーバイオファクトリー株式会社

オーピーバイオファクトリー(沖縄県うるま市)は、世界有数の生物多様性を誇る沖縄の海を舞台に、海洋生物資源の産業利用を「探索」から「事業化」まで一気通貫で実現する「海洋バイオファウンドリー」です。主な収益源は、微細藻類等の探索・培養・機能性評価に関する研究受託や共同開発。加えて、自社開発した有望な機能性素材は、原料供給やライセンスを通じて着実に事業化を進めています。その応用先は医薬・食品・化粧品・環境分野と多岐にわたり、業界の垣根を越えて継続的な需要の獲得を目指しています。

CO₂から代替タンパク質や高級アルコールを生産
株式会社CO2資源化研究所

CO2資源化研究所(東京都港区)は研究開発型の「バイオものづくり」企業です。事業の二本柱の一つが、CO₂を栄養に、水素をエネルギーにして高速で増殖する特殊な微生物「UCDI®水素菌」。 もう一つは、微生物を「増やす段階」と目的の物質を「作らせる段階」を分離し、生産効率を飛躍的に高める「増殖非依存型バイオプロセス」です。これらの技術を活用し、現在はCO₂から代替タンパク質や高級アルコールを、未利用の植物資源からバイオエタノールなどを生産する技術を開発。燃料・化学品・食品分野で国内外の企業と連携し、一日も早い社会実装を目指しています。

光照射だけで微生物の増殖と生産のモードを精密に切り替え
株式会社ミーバイオ

ミーバイオ(東京都港区)は、光で微生物を自在に操る「光スイッチ」技術で、バイオものづくりに革命を起こす東京大学発のディープテック企業です。独自開発の「光スイッチタンパク質」は、光照射だけで微生物の「増殖」と有用な物質を生み出す「生産」のモードを精密に切り替えることを可能にしました。これにより、バイオマス由来の化学品原料生産における最大の課題であった高コストを根本から解決します。現在ほぼナフサに依存する芳香族化合物市場を一変させる役割を果たし、脱炭素社会と経済安全保障の実現に貢献します。

AIを用いた創薬企業の予測精度向上にも貢献
株式会社Logomix

Logomix(東京都文京区)は独自のゲノム大規模構築プラットフォーム技術「Geno-Writing™」を活用し、高機能化された細胞や微生物の創出と生命情報ビッグデータ解析用AIの開発を行っています。同技術は特定の塩基配列のみを改変する既存技術とは異なり、広いゲノム領域全体を大規模かつ自由自在に改変できる点に優位性があります。これにより、一度に多重機能を細胞に搭載することや、開発期間の大幅な短縮が可能です。また、広範囲のゲノムを改変しノイズを減らした細胞データを提供できるため、AIを用いた創薬企業の予測精度向上にも貢献します。

廃棄物が最終的に野菜に生まれ変わる資源循環システムを構築
株式会社豊橋バイオマスソリューションズ

豊橋バイオマスソリューションズ(愛知県豊橋市)はバイオマス関連技術の開発と普及を目的に設立された豊橋技術科学大学発ベンチャーで、食品廃棄物を利用したメタン発酵システムのプラントメーカーとして、設計からコンサルティングまでを手掛けています。今後は、発酵後の「消化液」を液体肥料として活用する取り組みを強化。廃棄物が最終的に野菜に生まれ変わるという資源循環システムを、企業や自治体へ提案・展開していきます。将来的には、豊橋市内に自社の実証プラントを設置し、地域企業から出る廃棄物を収集。資源循環システムの運用を目指します。
政府が掲げる「バイオエコノミー戦略」は、GXや経済安全保障、新産業創出といった国家的課題を解決する成長戦略の柱です。スタートアップが生み出す多様な技術シーズが、大企業の生産能力や販売網と結びつき、社会実装へと繋がるエコシステムが形成されていく。それこそが、日本のバイオエコノミー戦略の強化につながり、新たな産業競争力を創造する道筋と言えるでしょう。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

インダストリー&ファンクション事業部 ヘルスケアビジネスユニット

宮本 尚樹

 

大阪府立大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 博士後期課程修了 博士(理学)
大韓民国の研究所にて、ライブセルイメージングの基礎研究に従事
日系大手化学メーカーにて、電子材料向け高分子ポリマー開発に従事
合成生物学・バイオ領域のスタートアップにて、遺伝子合成に関する研究開発に従事
現職では、合成生物学・バイオを中心としたヘルスケア・ライフサイエンスにおけるイノベーション創出に従事
大企業における新規事業創出支援、海外展開支援・調査 等

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