モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載では、モーニングピッチで取り上げたテーマと登壇したスタートアップを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信していきます。政府は経済安全保障や持続的成長の要となる17の戦略分野を定め、重点的に投資する方針を掲げています。この動きを踏まえ、2026年のモーニングピッチでは「日本成長戦略シリーズ」と題し、特集を組んでいます。今回は4月23日に開催した「フィジカルAI特集」です。

 

2033年の世界市場は25年の10倍以上に達する見通し

AIの進化は留まるところを知りません。2024年から25年にかけては、ソフトウエア上で自律的に作業する「AIエージェント」に注目が集まりましたが、2026年に入るとその関心は一気に現実世界へと向かい、AIが機械やロボットの知能となり、自律的に動作する「フィジカルAI」時代が到来しました。AIを搭載したロボットが、人間に代わってさまざまな作業をこなす未来が、すぐそこまで迫っています。
フィジカルAIの市場規模は爆発的な成長が見込まれています。世界市場は2025年の816.4億ドルから、2033年には9604億ドルへと10倍以上に達すると予測され、年平均成長率は36.1%にのぼる見通しです。内訳は、ロボット本体などのハードウェアが約半数を占めて市場を牽引し、ソフトウエアが約3割、関連サービスが約2割と続きます。
この巨大な成長領域は、日本の国家戦略においても最重要分野の一つと位置付けられています。特にAI・半導体は戦略17分野の中でも最も注目されており、その筆頭に「フィジカルAI」が明記されました。経済産業省はAIロボティクスを戦略領域と定め、人手不足が深刻な製造、造船、物流、建設、小売、介護といった分野で社会実装を先行させ、日本経済の新たな中核産業として育成する方針です。

政府のロードマップでは30年以降に精緻な組立作業への対応を目指す

その考えに基づき策定された「AIロボティクス実装ロードマップ」では、段階的な導入計画が示されています。短期では「見回る」「モノを動かす」といった、必ずしも高い精度を求められない作業から実装を進めます。そして2030年以降の中長期的には、より緻密な動きが求められる「指作業」など、精密な組立作業までを目標に据えています。
ヒューマノイドの進化は特に目覚ましく、その象徴が今年4月の北京ハーフマラソンで優勝した中国Honor社の「Lightning」です。時速25㌔の高速走行で生じる熱を高度な液冷システムで制御し、50分26秒という驚異的なタイムを記録。人間の世界記録を約7分も上回る身体能力を見せつけました。
産業現場での実用化も進んでいます。英Humanoid社の車輪型ヒューマノイド「HMND 01」は、シーメンスのドイツ工場で8時間の完全自律稼働に成功。従来は3〜4時間ごとのバッテリー交換が必須でしたが、そのロスタイムを克服し、1時間に60個の部品を90%の成功率で運ぶ作業を達成しました。

一社単独での技術開発が難しく産官学が連携する動きが活発化

ロボットの「脳」を鍛える領域では、米NVIDIAが業界をリードしています。人間の動作をデータとして取り込んだ後、AIで無数の「あり得る動き」を合成・増幅させ、質の高い学習データを大量に生成。これを実機に統合することで、ロボットが現実世界で賢く動くためのトレーニングシステムを構築しています。

この業界は一社単独での技術開発が難しく、日本では産官学が連携する動きが活発です。大手企業やスタートアップらが参加する「AIロボット協会」が主導し、膨大な実地データを収集してロボットの知能の基礎となる「基盤モデル」を開発。各企業はその基盤を元に、製造・清掃・調理・介護といった個別用途のモデルを開発し、社会実装を目指しています。関西では「京都ヒューマノイド協会」が多くの企業と連携し、「50kgの重量物を運搬できる災害対応モデル」と「建設現場向けの等身大モデル」という2種類のプロトタイプの開発を進めています。
フィジカルAIの概念は広範ですが、今回はロボットの頭脳にあたる「プラットフォーム動作生成」と身体となる「現場自動化実装ハード」、人間との接点となる「人機融合インターフェース」という3領域の機能に注目し、最新動向を紹介します。

 

 

最適な力加減で部品を組み付け精密な組立工程を完全自動化
株式会社CoLab

CoLab(コラボ、川崎市中原区)は、人にしかできないとされてきた精密な組立工程を完全自動化する、「フィジカルAI」搭載のロボットシステムを提供しています。画像と力覚センサーの情報からAIが状況をリアルタイムに判断。対象物の位置ズレや個体差に追従し、最適な力加減で部品を組み付けます。さらに、プログラミングを習熟していなくても直感的に操作できる制御ソフト「CoLab AI」により、海外工場でも短期間・低コストでの導入と運用が可能です。今後は、国内マザー工場での成功モデルを海外工場へ横展開し、グローバルでの「ものづくり」の革新を本格化させていきます。

学習により進化する汎用ロボットを低コストな月額課金型で提供
Muso Action株式会社

Muso Action(ムソウアクション、東京都千代田区)は、生成AIをロボットに適用した「ロボット基盤モデル」を搭載し、多様な軽作業をこなす汎用ロボットワーカー「Muso Roid」を提供します。深刻な労働力不足に悩む製造・物流・小売業に対し、高価な専用ロボットの導入ではなく、学習により進化する汎用ロボットを低コストの月額課金型で提供。現場実証で培った力制御・遠隔操作技術と、日本の現場に最適化された学習データを強みに、海外勢とは一線を画すポジションを確立します。今後は蓄積したデータを基盤とし、業界を横断して展開可能な汎用ロボットプラットフォームの構築を目指します。

スマート脳波計や電動義肢など医療・ウェルネス分野へ応用
OYMotion Technologies Co.,Ltd

OYMotion Technologies Co.,Ltd(オーワイモーション テクノロジーズ、中国上海市)は、独自の知的財産権を基盤に、筋肉を動かす微弱な神経信号を高精度に読み取るセンサーと、その意図をAIで解析する独自技術を開発。スマート脳波計や電動義肢、神経リハビリなど、医療・ウェルネス分野へ応用しています。今後は日本市場での展開を本格化。まず技術的な信頼を獲得し、次に日本企業との合弁会社を設立します。最終的には、医療・リハビリ領域における電動義手などの保険適用と販売拡大を実現し、日本を起点として、人と機械が自然に共生するエコシステムを東南アジア全域へと展開します。

日本の工場や建設現場、サービス産業では、現場を支える人材の不足が日に日に深刻化しています。政府の試算では2040年に260万人が不足し、その影響は地方ほど色濃くなると見られています。フィジカルAIは、この課題を解決する切り札です。日本がものづくりで培ってきた高い技術力と信頼性はこの分野で大きな強みとなり、人間に代わる新たな「労働力」として様々な現場で活躍することが期待され、国内市場も急成長期に入ろうとしています。

▼テーマリーダーProfile


デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部長

小池 俊光

 

大手不動産会社を経て、コンサル・IT企業での新事業立ち上げ・ 投資ファンドを巡り現在に至る

・デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
事業再生、M&Aに関するアドバイザリー業務に従事
・ベンチャー企業
東証上場2社(IT企業と不動産企業)の合弁企業取締役として、事業の立ち上げとスケールを推進
・投資ファンド
企業投資実行および投資企業の事業スケール、DX化、子会社M&Aにかかる事業戦略立案、経営企画部長/事業部長の立場でけん引

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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