この連載では、モーニングピッチで取り上げたテーマと登壇したスタートアップを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信していきます。政府は経済安全保障や持続的成長の要となる17の戦略分野を定め、重点的に投資する方針を掲げています。この動きを踏まえ、2026年のモーニングピッチでは「日本成長戦略シリーズ」と題し、特集を組んでいます。今回は3月26日に開催した「IP戦略 メディアエンタメ特集」から、日本のコンテンツ産業の最前線について紹介します。

映像、ゲーム、音楽、漫画、小説などで構成される日本のコンテンツ産業は今、急拡大の時を迎えています。2024年の市場規模は前年比3.9%増の15.2兆円と過去最大を記録。この成長を牽引しているのが、映像・音楽などの配信サービスです。特にコロナ禍において、Netflixをはじめとするグローバルなプラットフォームを通じて日本のコンテンツの魅力が海外で広く認知されたことは、大きな転機となりました。コンテンツは今や、関連産業の一つから、日本経済を支える「基幹産業」へと変貌を遂げているのです。
その勢いは海外の売り上げにも表れており、アニメがけん引役となって、過去10年で約3倍の6兆円規模にまで成長しました。これは石油化学や半導体をも上回る、一大輸出産業へと進化したことを意味します。
この潮流を受け、2025年には日本のコンテンツ企業がM&A(合併・買収)によってグローバル市場での勝負に挑むニュースが相次ぎました。自社でIP(知的財産)を創出するだけでなく、海外の有力プレイヤーを買収し、一気に世界展開を加速させる戦略です。例えば、バーチャルユーチューバー(Vtuber)事業を手がけるBrave Groupは、韓国の同業最大手VLASTを傘下に収め、現地法人を設立するなど、その動きは活発化しています。


政府もこの動きを強力に後押しします。コンテンツ産業の海外売り上げを2033年に20兆円規模まで拡大するという目標を掲げ、2025年度の補正予算では約350億円規模のコンテンツ支援を計上。コンテンツは、単なる文化振興の対象から、日本の成長を支える「戦略」へとその位置づけを明確に変えました。
日本のコンテンツ産業に対し、海外のトップ投資家からも熱い視線が注がれています。象徴的なのが、米VC最大手アンドリーセン・ホロウィッツによる、日本人創業のAIキャラクター開発企業「Shizuku AI」への出資です。世界的な投資会社が日本のコンテンツ関連企業へ投資するのは初めての事例です。これを機にグローバルな資金が本格的に流入し、日本のコンテンツが世界へ飛躍する大きなきっかけとなるでしょう。
こうした市場の拡大と並行して、産業の内部ではAIの台頭によって「価値の作り方」そのものが地殻変動を起こしています。日本ではすでに、講談社がPreferred Networksと組み、画像生成AI技術を用いて漫画制作工程の一部を自動化・高度化する共同開発に着手するなど、大手メディアとAIスタートアップの提携が始まっています。
海外ではさらに急進的な動きも見られます。米国のRunway社が開発する、簡単なテキスト指示だけで2時間程度の映画を生成できるサービスは、Netflixが試験導入するなど大きな注目を集めており、「ハリウッドのスタジオが不要になる日も近い」とまで言われています。
AIは、制作技術やキャラクター生成、流通、表現方法に至るまで、コンテンツ産業のあらゆる側面を飛躍的に高度化し、新たなクリエイティブの可能性を切り拓きます。今回は、このAIという強力な武器を手に、コンテンツ業界の未来を創り出す4社を紹介します。

Third Intelligence(サードインテリジェンス、東京都千代田区)は、「遍在型AGI(汎用人工知能)」を提唱しています。これは、基本的な能力を持つAIを土台に、使う人や組織がそれぞれの目的に合わせて学習・成長させていく、全く新しいAIモデルです。この技術が実現すれば、将来的には一人ひとりが「自分だけのAI」を、まるで信頼できるパートナーのように日常のあらゆる場面で活用できる未来が訪れます。同社はこの研究開発を推進し、人間のように考え、推論できるAIを誰もが当たり前に使える社会の実現を目指しています。
KaKa Creation(カカクリエーション、東京都目黒区)は、AIを駆使してアニメ制作に革命を起こす、次世代のアニメスタジオです。企画開発から仕上げまで、制作の全工程をカバーする約40種類の独自AI技術を開発。これにより、従来は数十人のチームと数億円の予算を要したアニメ制作を、少数精鋭で実現可能にしました。現在は、SNSで展開するショートアニメのIP開発から、大手企業との共同制作、AIによる着色サービスまで幅広く手がけ、アニメ産業の構造変革に挑んでいます。今後は自社オリジナルIPの量産体制を確立します。
OSHIAI(オシアイ、東京都港区)はアイドルやVTuber、さらには自分で創ったキャラクターといった、「推し」といつでも会話ができるAIコミュニケーションアプリです。AIは、ユーザーとの対話を重ねることで記憶を蓄積し、自分自身だけの存在へと成長します。これにより、まるで本当に心が通い合っているかのような、特別なコミュニケーション体験が生まれます。ファンと「推し」の間に、より深く温かい関係を育む、全く新しいエンターテインメントの形です。2025年2月のリリース以来、100組以上のアイドルグループや人気VTuberにも導入されています。
ai crew(エーアイクルー、東京都目黒区)は、AI技術による動画制作事業を展開しています。従来のCM制作と同等の品質を保ちながら、コストは10分の1以下、制作速度は10倍以上という圧倒的な効率化を実現。これにより企業は、マーケティング効果を最大化するための細かな効果検証を、同じ予算内で何度も行えるようになります。さらに、文字を打つだけで誰でもAI動画が作れるスキルを学べるeラーニングも提供し、企業の内製化を支援。また、地域の観光PRや障がい者の就労支援、不動産業界の新たな販売手法の開発など、さまざまな業界のアップデートに貢献しています。
世界のIP収入ランキングではポケモンやハローキティ、アンパンマンなど日本勢が上位を席巻しています。また、コンテンツ産業は映像・音楽をはじめとしてゲームやテーマパークに至るまで幅広く、有力IPを保有する企業が引き続き成長戦略を歩む可能性は高いとみられています。コンテンツ立国としてさらなる存在意義を発揮するためには、こうした既存の強力なIPと、AIを武器とするスタートアップの革新性を融合させることが不可欠といえるでしょう。
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デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
事業部 メディア・エンターテインメントユニット
木下 康太郎
・フジテレビジョンにて13年間報道・情報・スポーツ分野を担当
・米・コロンビア大学経営大学院卒(MBA)
・DTVSにおいて日本IPのグローバル展開・アライアンス構築・新規事業開発をリード
・グローバル市場を見据えた事業創出と実装支援に従事
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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