モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載では、モーニングピッチで取り上げたテーマと登壇したスタートアップを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信していきます。今回は3月19日に開催した「ネイチャーポジティブ・生物多様性特集」です。

世界のGDPの半分以上が自然に依存

私たちは、多種多様な生き物とそれらが織りなす「生物多様性」から、計り知れない恩恵を受けています。自然がもたらすこの恵みは「生態系サービス」と呼ばれ、食料や水の「供給」、気候の「調整」など、多岐にわたります。
この自然の恵みに、私たちの社会経済がどれほど依存しているかは、データが明確に示しています。生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)によると、陸や海の生態系は人類が排出する二酸化炭素の約6割を吸収してくれ、世界のGDPの半分以上が自然に依存しています。自然なくして、私たちの生活は成り立たないと言っても過言ではありません。
しかし、その基盤が今、急速に失われています。世界自然保護基金(WWF)では哺乳類や鳥類、両生類などの生息密度や巣の数などから一つ一つの群れの規模や個体数の変化の傾向を「生きている地球指数」として数値化しています。WWFによるとこの指数は、1970年から2020年にわたる50年で73%も減少しました。このまま自然破壊が続けば、2030年までに世界のGDPが約2.7兆ドルも失われる可能性があると試算されています。
この危機的な状況の背景には、深刻な資金の不均衡があります。自然に悪影響を与える事業へは世界で年間1000兆円超が投じられる一方、自然を守り育むための資金は、官民合わせてもわずか30兆円。この構造を根本から変えなければ、自然の損失は止まりません。

2030年までに国内で47兆円規模のビジネスチャンスが生まれる

こうした中、日本政府は「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を新たな成長機会と捉えています。2030年までに、エネルギー・採掘活動、インフラ・建設環境システム、食料・土地・海洋いった国内の領域で47兆円規模のビジネスチャンスが生まれると試算しています。自然保護・保全とネイチャーポジティブはもはやCSR(企業の社会的責任)の一環ではなく、巨大な事業としても有望でしょう。
この動きを加速させているのが、国際的なルール作りです。2022年の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を採択。「2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる」という世界共通の目標が採択されました。
30年までに海や陸の生態系の30%を保全することを目標に掲げた「30by30」なども、この辺りの議論を基に推進されています。また、企業にも自然関連のリスクや機会を開示する「TNFD」への対応が求められており、日本企業の取り組みは世界一の数となっています。

大企業とスタートアップの連携でTNFD開示関連の新サービスも登場

そして今、この新しい市場で主役として躍り出ようとしているのが、「NatureTech(ネイチャーテック)」と呼ばれるスタートアップです。AIや衛星データ、バイオ技術などを駆使して、これまで見えにくかった自然の価値を可視化し、企業の課題解決を支援します。スタートアップと国内大企業との協業も活発化しています。生物多様性の評価を行うサンリット・シードリングスは大手SIerと連携し、森林の保水力を高める計画策定に乗り出しています。大手損保グループのシンクタンクは欧州宇宙機関(ESA)の支援を受けて設立された、英国のスタートアップであるGentian(ジェンティアン)と提携、TNFD開示に向けた高精度な生物多様性評価サービスを提供しています。

今回はモニタリング分野など、6社のスタートアップを紹介します。

人権や生物多様性なども定量的に可視化
株式会社aiESG

九州大学発のaiESG(アイエスジー、福岡市博多区)は、AIと最先端の研究を融合させ、企業のESG(環境・社会・企業統治)評価に革新をもたらします。最大の特徴は、脱炭素といった指標に加え、人権や生物多様性など、これまで「見えにくいリスク」とされてきた企業価値を左右する要素まで定量的に可視化できる点です。3200以上の項目を網羅し、製品やサービス単位でサプライチェーン全体を遡って分析する、世界初のESG評価を実現。企業が自社の価値とリスクを正確に把握するための、客観的で詳細なデータを提供します。

カーボンクレジットの世界標準の格付けを提供
BeZero Carbon

英国発のBeZero Carbon(ビーゼロカーボン)は、カーボンクレジットの格付けにおける世界的トップランナーです。その強みは、特定のプロジェクトに依存しない独立した立場からの、質・量の高い分析力にあります。1000件を超える評価実績で蓄積した豊富なデータと、気候科学や地理空間分析、金融工学などを組み合わせた独自の手法により、クレジットの信頼性を左右するリスクを厳密に評価。世界標準の格付けを提供するため、日本拠点の設立も決定しています。

わずか一握りの土から生物の多様性を誰もが理解できる形で可視化
NatureMetrics ※リモート登壇

同じく英国発のNature Metrics(ネイチャーメトリックス)は、生物多様性分析の分野を世界的にリードするスタートアップです。水や土壌、空気などの環境中に存在する生物由来のDNAを分析することによって、目には見えない生態系をモニタリング。1㍑の川の水やわずか一握りの土から、そこに生息する魚類や哺乳類、細菌に至るまで、生物の多様性を誰もが理解できる形で可視化します。蓄積データを活用し、将来の生態系を予測するサービスの開発も進めています。

“リアルないきもの版ポケモンGo“のようなアプリを基に自然資本の価値を評価
株式会社バイオーム ※リモート登壇

京都大学発のバイオーム(京都市下京区)は生物多様性の保全をビジネスの力で加速させる、環境ビジネスのインフラ企業です。その基盤となるのが、まるで“リアルないきもの版ポケモンGo“のようなアプリ「Biome」。市民ユーザーがゲーム感覚で集めた膨大な生物データが、独自のプラットフォームを形成します。この市民参加型のデータ基盤と高度な解析技術を融合させることで、企業のTNFD開示支援や自然資本の価値評価などを一気通貫で提供できる点が、最大の強みです。

海藻の食文化や地域産業の創出を目指す
合同会社シーベジタブル

シーベジタブル(高知県室戸市)は、磯焼けにより減少しつつある海藻の基礎研究から、陸上・海面栽培、商品開発まで一貫して取り組んでおり、料理人や企業と共に新しい海藻の食文化や地域産業の創出を目指しています。これまで生産技術が確立されていなかったものを含め30種類以上の海藻の種苗育成技術を確立。2016年には地下海水を用いた青のりの陸上栽培を世界で初めて実現し、大手コンビニ会社はすじ青のりを活用した商品を開発、全国店舗で販売しました。

水害や渇水のリスクをプラットフォーム上で可視化
株式会社TerraInsight

京大発のTerraInsight(テラインサイト、京都市左京区)は、総合的な水資源管理サービスで企業の水リスク対策を支援します。強みは、30年以上の実績を誇る京大防災研究所の水循環シミュレーション技術。これを基盤に気象や地形データを統合し、水害や渇水のリスクをプラットフォーム上で可視化します。地球全体から特定の拠点まで、あらゆる規模で2100年までの気候変動の影響を予測。リアルタイム監視を組み合わせ、水リスクを企業の操業判断や財務、情報開示に直結させる実践的なソリューションを提供します。

これまで「コスト」や「リスク」と捉えられがちだった自然資本への対応を、NatureTechスタートアップは「価値」と「競争力」に変える力を持っています。その過程で提供される科学的データやソリューションは、持続可能な経営を実現するためのけん引役となり、日本経済にとっての新しい成長エンジンとなるでしょう。

▼テーマリーダーProfile

 

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部
気候変動ビジネスユニット  

畑仲 晃稀

 

・製造業系ベンチャー企業にて、toBマーケティングに従事。顧客・パートナー企業獲得の戦略策定および施策の実行、推進を一気通貫で担当
・デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に入社後、気候変動領域(NETs、カーボンクレジット、CCUS、サーキュラーエコノミー、生物多様性等)における市場・技術調査や新規事業立案、スタートアップスカウティング、スタートアップ伴走支援等に従事

 

 

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