モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。高市早苗首相は経済安全保障や持続的成長の要となる17の戦略分野に財政資源を集中投下します。こうした国の動きを踏まえ2026年のモーニングピッチでは「日本成長戦略シリーズ」と題し、特集を組んでいます。今回は2月19日に開催した生成AI特集です。

Googleの検索トレンドも5GやDXなどをしのぐ

生成AIの技術は、新たな進化の段階に入っています。テキストだけでなく、画像、音声、動画といった複数の異なる情報(モダリティ)を統合的に処理・分析する「マルチモーダルAI」が主流になりつつあり、AIはより複雑で幅広いタスクに対応できるようになっています。
この技術革新を背景に、生成AI市場は驚異的な成長を遂げています。総務省の「令和7年版 情報通信白書」によれば、世界の生成AI市場は2026年以降、年平均40%を超える成長を続け、2030年には50兆円規模に達する見通しです。
生成AIが社会の関心の中心にあることは、Googleの検索トレンドからも明らかです。かつて大きな注目を集めた「5G」や「DX」、「メタバース」といったキーワードをしのぎ、今年中には「生成AI」が上回る見通しとなっています。

今後数年で、民主化のフェーズに移行

この社会的な関心の高まりは、具体的な企業活動にも直結しています。米調査会社ガートナーは、今後2年から5年という短期間で生成AIが本格的な普及期、いわば「民主化」のフェーズに入り、企業の80%以上がAPIなどを通じて自社のアプリケーションや業務プロセスに深く組み込むことになると予測しています。
この急速な普及を支えているのが、技術自体の進化するスピードです。生成AIはここ数年で目覚ましい改善を繰り返し、次々と新しい機能が実装されてきました。この進化は今後さらに加速すると見られており、生成AIの需要を一段と喚起した次世代モデル「GPT-5」に続き、2026年以降には「GPT-7」や「GPT-8」といった、より高性能なバージョンへと進化する見通しで、技術革新が市場を力強く牽引するという構図が続きます。
こうした世界的な動きと並行し、日本国内でも利活用の促進と、その安全性や信頼性を確保するためのルール整備が活発に進められており、社会全体でAI導入に向けた環境が整いつつある状況です。
生成AIの導入は急速に進み、全社的に利用が定着しつつある企業が増える一方、多くの企業がその活用に二の足を踏んでいるのも事実です。その背景には、大きく分けて二つの「壁」が存在します。

ユーザー活用とセキュリティの壁

一つはユーザー活用の壁です。現場レベルでは「使い方がよく分からない」「関心はあるが継続できない」といった声が上がっています。これは、UI(ユーザーインターフェース)が必ずしも全ての業務に適しているわけではないからです。二つ目が「セキュリティの壁」です。業務で扱う機密情報や個人データを「本当にAIに入力してよいのか」という情報漏洩リスクへの懸念が、本格的な業務利用への最大の障壁となっています。これらの課題をいかに解決するかが、今後の普及における重要な鍵となります。
この状況は、数年前に多くの企業が経験したDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けた道のりと酷似しています。当時のDXには、そもそも何をDXの対象とすべきかというアイデアの壁と、そのアイデアに事業性があるのかをPoC(実証実験)で検証する事業性の壁という課題がありました。
これと全く同じ構造が、生成AIがもたらすAIトランスフォーメーション(AX)の世界でも起きると考えられます。この新たな変革の波を乗り越えるには①組織のリテラシー向上と意識改革②明確なルールの整備③業務効果の可視化―という三つの取り組みが不可欠となります。
生成AI活用の成否には、守りと攻めの戦略をいかに両立させるかという点が鍵を握ります。守りの戦略は、情報漏洩やコンプライアンス違反といったリスクから企業を守るためのセキュリティの壁を乗り越える取り組みです。自社の機密データや個人情報などを保護するための明確なルールを整備し、組織全体で遵守を徹底することが大前提となります。それを踏まえたのが攻めの戦略です。応用範囲は、コミュニケーション、IT開発、営業活動、バックオフィス業務など、特定の部門にとどまりません。あらゆる業務領域にAIを組み込むことで、生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。

今回は、こうした領域で未来を切り拓くスタートアップの中から、注目すべき5社を紹介します。

医師のカルテ作成業務を支援。手作業に比べ10分の1に短縮
株式会社pipon

Pipon(ピポン、東京都豊島区)が提供する「ボイスチャート」は、多忙な医師のカルテ作成業務をAIで支援するサービスです。診察中の医師と患者の会話を録音すると、AIが内容を解析。医療現場で患者の訴えや所見などの要点を整理した高精度なカルテ案を自動で作成します。これにより、これまで手入力していたカルテ作成時間を従来の10分の1にまで大幅に短縮。医師は事務作業の負担から解放され、患者と向き合う時間をより多く確保できるようになります。

保険の営業担当者を支える
OdysseyAI株式会社

OdysseyAI(オデッセイエーアイ、東京都渋谷区)が提供する「Hoken Budd-E」は、保険の営業担当者を支えるAIシステムです。顧客との商談中にAIが会話をリアルタイムで解析。「この説明が必要です」といったアドバイスをその場で画面に表示し、複雑な法令や社内ルールに沿った適切な案内をサポートします。また、重要な説明の履歴や顧客の要望をどう確認したかの記録も自動で作成。厳しくなるコンプライアンスの要求に応えながら、営業品質の向上と担当者の業務負担軽減を同時に実現します。

社内チャットからハラスメントの予兆を早期発見
バヅクリ株式会社

バヅクリ(東京都港区)が提供する「コンプラポリス」は、社内チャットをAIが分析し、ハラスメントの予兆を早期発見するSaaSツールです。強みは、日本語特有の曖昧な表現や文脈を理解する高度なAI技術。産業医や弁護士が監修した検知基準により、メンタルヘルスや法的リスクを多角的に判断します。さらに、1000社以上の組織開発で培った知見を活かし、検知後の予防研修や人事制度コンサルティングまで一気通貫で支援。リスク発見から根本的な組織改善までをトータルで実現します。

契約書や請求書といった紙の書類をデータ化し、業務活用を支援
Upstage AI株式会社

Upstage AI(アップステージエーアイ、東京都港区)は、契約書や請求書といった紙の書類をAIでデータ化し、業務活用を支援する生成AI企業です。日本語に特化した独自の大規模言語モデルを強みに、高精度な情報抽出を実現。文書の読み取りからデータ化、業務への応用までを一気通貫で支援します。これにより「紙の処理」に費やされていた時間を削減し、付加価値の高い業務への人材シフトを可能にします。日本企業や公共機関の働き方を革新し、AI導入に不可欠な国産基盤モデルとなることを目指します。

数クリックでデータに潜む「原因と結果」の関係を分析・可視化
株式会社hootfolio

NEC発のベンチャー企業hootfolio(フートフォリオ、東京都港区)は、ビジネスの意思決定をAIで加速するツール「causal analysis®(コーザル・アナリシス)」を提供しています。専門的な統計スキルがなくても、数クリックでデータに潜む「原因と結果」の関係をAIが分析・可視化。誰でもデータに基づいた、より正確で迅速な意思決定を行えるようになります。今後はSaaSとして因果AIの価値を広めつつ、データ収集から分析、効果検証まで、意思決定の全プロセスを網羅的にサポートするプラットフォームへの進化を目指します。

生成AI市場は今後、人間が指示を出す「対話型」から、AIが自らタスクを計画・実行する「自律的なAIエージェント」へと進化し、産業・業務への本格的な社会実装が加速することが予測されます。これは、AIが単なる業務効率化ツールから、生産活動を担うパートナーへと変わることを意味します。深刻な労働力不足に直面する日本にとって、この変革はまさに成長戦略の切り札となり得ます。AIエージェントが定型業務を担うことで、人間はより付加価値の高い創造的な領域に能力を集中させることが可能となり、社会全体の生産性を根本から引き上げることになるでしょう。

▼テーマリーダーProfile


デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部

磯部 尚志


・エンジニア歴:12年
・コンサルティング歴:13年目

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

—————————————————————————————————————————————-

Morning Pitchでは、上記のような各回テーマ概観の解説を

資料や動画にして有料会員様限定でお届けしています

 解説資料・・・Morning Pitch有料会員

 解説動画・・・Morning Pitch Innovation Community(MPIC)会員

—————————————————————————————————————————————-