＼イノベーショントレンド解説／

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年10 月6日に開催した「青山スタートアップアクセラレーションセンター（ASAC＝エーサック）特集」です。

成果にコミットするアクセラレーションプログラム

東京都が7年ほど前に、シード期を対象にしたアクセラレーションプログラムとして立ち上げたのがASACです。

ASACのビジョンは、東京から世界に誇るリーディングカンパニーを生み出すことです。

単に世界に進出するだけではなく、「このサービスが、こういった人たちに明らかに刺さっている」といった事業を創出できる企業を1社でも多く輩出することを目的として掲げています。そのために提供しているのが、成果にコミットするアクセラレーションプログラムです。具体的にはサービスの市場投入やシードラウンドの資金調達、ファーストユーザーの獲得などを目標として掲げています。

プログラムの期間は5カ月で（1）メンタリング（2）特別プログラム（3）コミュニティ形成（4）デモ―という4つのプログラムを提供しています。

メンタリングは週・月単位、スポットという３タイプを用意しており、このうちウィークリーは、アクセラレーターという支援者が2人就いて、起業家とディスカッションする形で毎週支援します。マンスリーとスポットでは約100人で構成された外部メンターの力をお借りしながら支援します。メンター陣は大企業やテレビ局の社員、VC、起業家などバラエティーに富んでいます。

特別プログラムは、スタートアップの事業モデルを可視化するためのツールである「リーンキャンバス」のブラッシュアップで、期の最初に行います。後半に実施するのが10数名の投資家を招いたメンタリング。この数カ月間で作り上げてきた事業モデルを紹介し、投資家として興味があるプロジェクトなのか、投資したいと思えないのであれば理由は何かなどをフィードバックしてもらうのがねらいです。コミュニティは外部の講師を招き、ランチ・ディナーミーティングを通して形成します。その際には資金調達やマーケティングといったテーマを明確にしたうえで、ディスカッションします。

デモデイ（成果発表会）は、5カ月間にわたって磨いてきたプロダクトに対し、「こういった協力をいただきたい」というメッセージを伝える場です。

競争倍率は10数倍

ASACの施設は表参道駅の近く（東京都渋谷区神宮前５丁目５３−６７ コスモス青山コスモスサウス3-5階）にあり、コワーキングスペースなどを用意しています。ベッドルームもあり、ASACに採択されると寝泊りもできるため、集中して仕事に取り組むことができます。

人気は高く、ここ数年は140～180社の応募があり、成長産業やものづくり、環境エネルギー、ソーシャルなど幅広い領域の中から10社程度が選ばれます。卒業生を含めた資金調達累計額は360億円を超えており、外部からのファイナンスを得ながら事業成長する企業が増えています。

例えば介護ワークシェアリング「カイスケ」を運営するカイテクは、SMBCベンチャーキャピタルなどから3億7000万円の資金を調達しました。日本最大の産直通販サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデンは、シリーズCの資金調達ラウンドで約13憶円を調達。生産者の販路拡大をサポートしています。

大企業や自治体との連携も進んでいます。エイターリンクは無線給電システムを竹中工務店に納入したほか、タイムリープの遠隔接客サービス「RURA」は玉川高島屋S・Cに導入されました。東京都墨田区は、エーテンラボの高齢者向け習慣化アプリ「みんチャレ」を導入しました。

ASACはこれまで14期にわたって開催し139社がプログラムに参加していますが、この中から5社を紹介します。

企業向けの実践型サイバーセキュリティ訓練システム（AironWorks株式会社）

AironWorks（アイロンワークス、東京都港区）はイスラエル発のスタートアップで、企業向けの実践型サイバーセキュリティ訓練システムを提供します。AIが顧客企業を分析した後、従業員の会員情報を登録すると、メールやショートメッセージでハッカーを装い訓練攻撃してきます。訓練直後はレポートを発行。企業側は、結果をダッシュボードで確認でき、従業員のアンケート結果なども蓄積していきます。こうした情報を踏まえ、各従業員のレベルにあった訓練教育プログラムを配信、会社のセキュリティレベル向上につなげていきます。

お手伝い×旅のWebマッチングプラットフォーム（株式会社おてつたび）

おてつたび（東京都渋谷区）は、「お手伝い×旅」のWebマッチングプラットフォーム「おてつたび」を提供しています。地域の事業者が仕事の詳細、最低賃金以上の報酬、期間（2カ月以内）を自由に設定し、募集要項を掲載。旅行者は気に入った受け入れ先に応募するというのが仕組みで、おてつたびの後は相互レビューができます。報酬を得ながらの旅行や、電子による雇用契約の締結・労務管理など、お手伝いという経験・交流を通じたユニークなコト体験を実現できる点が特長です。

ドローンで夜空にニューメディア（株式会社レッドクリフ）

レッドクリフ（東京都新宿区）は、日本最大のドローンショーを提供します。夜空に3Dアニメーションや文字、QRコード、大型モニターを作り出し、夜空にニューメディアを作り上げます。10件以上の実績があり、すでに700機を超える大規模なドローンショーを行ったことがあります。屋外にドローンショー広告という新たな市場を創出することが目標です。今後は単発だけではなく花火大会や祭りなどの年次で行われるものや、テーマパーク、商業施設での常設開催も実施する考えです。

子どもたちと各界の専門家・第一人者をオンラインでつなげる（キッズウィークエンド株式会社）

キッズウィークエンド（東京都中央区）は子どもが社会を探究できるオンライン講座を開催しています。2021年は年間で約8000講座が開かれ、延べ約200万人が利用しました。キッザニアに行けないような人でも、オンラインで社会体験ができることを目指しています。子どもたちと各界の専門家・第一人者とをつなげ、子どもたちがオンライン上で直接質問できる、双方向コミュニケーションを取り入れた探究型オリジナルコンテンツを配信していきます。

2～3倍のリーチ数を確保する屋外広告マーケットプレイス（株式会社PalledAd）

PalledAd（パルダッド、東京都台東区）は運用型OOH広告（屋外広告）マーケットプレイス「AdVice（アドバイス）」を提供しています。Web広告と同じようにキャンペーンを立ちあげ、予算、期間、地域、ターゲットの年齢・性別を入力するだけで、自動的に予算内でターゲットのインプレッション数を最大化できる場所が提案されます。その媒体を確認し、カートにいれるだけで簡単に注文することができます。今まで代理店に依頼した場合と比較して、2～3倍のリーチ数の確保を実現します。

政府はスタートアップ育成計画を策定し、スタートアップへの投資額を2027年度までの今後5年間で、現在の8000億円規模の10倍以上となる10兆円規模に拡大させます。また、10万社のスタートアップの創出を目標に掲げ、日本を世界有数のスタートアップ集積地にすることを目指します。ASACの存在感はより大きくなることでしょう。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

スタートアップ事業部　副部長

會田 幸男（あいだ・ゆきお）

～イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ～

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