モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。


今回は、1月16日に開催した「子育て支援特集」で、子どもたちの保育や教育、育児サポートに関連するサービスや製品を提供する「Child care業界」にフォーカスしました。

2023年の世界市場規模は75兆円へ

Child care市場は①保育支援②教育関連③在宅育児支援④テクノロジー活用⑤製品市場-と、5つの領域に大別されます。

市場・ターゲットとなる国内の子供総数は下降の一途をたどっています。2024年の出生数見通しは68万5000人。2000年比では6割の水準を切っています。これは日本特有の問題ではなく主要先進国でも同様の傾向となっています。

一方、世界全体を見ると人口は確かに増加しています。しかし、人口増加率は1964年をピークに下がり続けており、2084年ごろにはマイナスに転じると言われています。つまり、それ以降は総人口自体が減少することになります。

こうした中、世界のchild care市場は成長し続けています。今後は年平均で5%近い伸びを示し、2033年には75兆円ほどに達する見込みです。

 

家庭・生活環境の変化と技術の進歩が市場を後押し

市場が成長する要因は、家庭・生活環境が変化し技術の進歩も著しい点です。具体的にはひとり親や共働き世帯の増加、核家族化の進行などにより、子育て支援サービスなどの需要が世界的に拡大しています。また、人工知能(AI)やIoTデバイスの進化など高度テクノロジーの発展が、保育・子育方法を大きく変えつつあります。市場への資金流入が増加している点も原動力となっており、企業等による投資やコラボレーションの増加が、子育て支援施設や新興企業の増加に繋がっています。

また、受験環境が過熱し子どもを幼少期から早期教育する考え方が社会的に浸透していることや、先進国による子育て支援政策だけではなく、発展途上国でも質の高い保育や教育サービスを提供するためのガイドラインやイニシアチブが整備されている点も要因となっています。

Childcare市場が急速に成長している地域の一つが、世界の子供の60%が居住していると言われているアジアです。特に中国、インド、インドネシアなど人口大国での成長が顕著となっています。都市部への移住も進んでおり、それに伴って共働き家庭が増加し、質の高い保育サービスへの需要が急増しています。また、早期教育が子供の成功のカギとされており、日本の幼稚園に相当するプリスクールや教育サービスが急成長を遂げています。

中国では三人っ子政策により、保育サービス需要が増加

アジア主要国の動向を見ると中国では、少子化対策政策として近年実施された「三人っ子政策」により、保育サービス需要が増加。保護者向けのアプリやモバイルプラットフォームの普及が進んでいます。インドは米国を除くと英語を話せる人が最も多い国です。このため早い段階から教育に関する新しい情報が入ってきやすい環境にあり、教育に対する感度が高い。また、最先端技術の基盤に厚みがあることもあって、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせたEdTech(エドテック)系のサービスが急速に普及しています。

韓国は晩婚化が進み、各家庭の出生数が平均0.77人と低下傾向にあり、両親や親戚だけでなく知人など10人が財布を開け、1人の子供のためにお金を使うことを意味する「10ポケット」という言葉が登場しています。また、保育の負担を大幅に軽減する革新的なベビー用品に注目が集まっています。代表的な商品がAI搭載型の揺りかごです。赤ちゃんの心拍数や呼吸数などの健康情報を検知するバイタルセンサーを内蔵。カメラで収集した顔などの画像と泣き声などの音声、周囲環境の情報から、赤ちゃんが欲していることを予測します。2023年に開かれたテクノロジー見本市のCESで、優秀製品が対象となる「イノベーションアワード」を受賞しました。

子育て支援制度が厚い日本は、BtoBのICT関連プレーヤーが増加

日本は政府による子育て支援制度が厚いこともあって、BtoBのICTツールなどにかかわるプレーヤーが増えています。特に保育園はまだまだアナログ的な環境が強いため、総合ICTサービスや午後の睡眠をチェックするアプリなど、DXサービスを開発するスタートアップの台頭が目立っています。

今回は子育ての各領域から5社を紹介します。

保育園の課題をIoTで解決するハードウェアSaaS(icuco株式会社

icuco(イクコ)は、保育園の課題をIoTで解決するハードウェアSaaS「icuco」を提供しています。具体的には乳幼児の睡眠中の安全を見守る午睡チェックセンサーやバス車内への通園時の園児置き去りを防止するシステムなど、保育現場の業務負担を省力化するICTを展開しています。柳瀬 陽一代表は自動車部品メーカーである武蔵精密工業で社内ベンチャーとして起業。精密機器の研究開発で培った経験を踏まえ、自社開発・製造・販売、サポートの一気通貫でプラダクトを手掛けています。

3~8歳の子どもを対象とした次世代型オンラインスクール(株式会社YOMY

YOMY(ヨミー)は、3~8歳の子どもを対象とした次世代型オンラインスクール「YOMY!」を展開しています。アメリカ発のダイアロジックリーディング(対話型読み聞かせ)を取り入れ、「自分の意見を伝える力」を育み、思考力、想像力、表現力を伸ばすレッスンを提供しています。親に対するレポートは「子供の成長を見ることができる」と高い評価を得ています。次世代型の習い事として、経済産業省のEdTech支援プログラムにも採択。今後はAI技術の導入やアジア市場への進出も目指します。

誰でも簡単に本当に買うべき商品が見つかるベビーグッズの口コミサイト(BEFFY株式会社

BEFFY(ベフィ―)は、誰でも簡単に、本当に買うべき商品が見つかるベビーグッズの口コミサイト「Babiew(ベビュー)」を展開しています。2023年9月のローンチ後、「ベビーグッズ 口コミ」の検索順位ではナンバーワンを獲得しています。ただの口コミサイトではなく、熱量の高いファンコミュニティも獲得しており、世帯年収が2000万円以上の比率を見るとベビュー会員は全国の児童世帯より2倍以上高い。サービスによって得られるデータを活用したビジネスも視野に入れています。

紙おむつとおしりふきのサブスクサービス(BABY JOB株式会社

BABY JOB(ベビージョブ)は保育施設向けに、紙おむつとおしりふきのサブスクサービス「手ぶら登園」を提供しています。2019年7月に本格的にサービスを開始し、24年末時点で7000カ所以上に導入。保護者の負担軽減と保育士の業務効率化を同時に達成しています。直接の相対取引先は保育施設でありながら、施設を利用するエンドユーザーの保護者からマネタイズをするというBtoBtoCモデルが特徴で、20年には日本サブスクリプションビジネス大賞のグランプリを受賞しています。

スタンフォード大学で開発した5歳から10歳の子供向け学習ツール(Tilli Kids Inc. 

米サンフランシスコに拠点を置くTilli Kids(ティリ キッズ) Incは、スタンフォード大学で開発した5歳から10歳の子供向け学習ツール「TiLLi」を提供しています。

米国では育児休暇制度がそんなに充実していないこともあって、出産前後から1年後までに活躍するデバイス系に対する関心が高い。一方で日本は、育児休暇をしっかりと取得できるので、米国のサービスを受け入れにくい面があります。そうした文化の違いによって、日本のChild care市場では、ローカルにしっかりと適用した国産ベンチャーが市場をけん引しています。逆の見方をすれば、日本の細やかで柔軟に設計されたサービスが海外で受け入れられる可能性は大です。

 

 

▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部 事業部長
イベント事業部 事業部長
パートナー

成田 大輔(Daisuke Narita)

・広告代理店で新規開拓専門営業、事業部新規立ち上げ
・事業会社で役員、新規事業立ち上げ
・新規事業専門VC・コンサル会社で複数事業会社の立ち上げ、売却
・新規事業専門コンサルティング

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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