この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、10月17日に開催した「Climate Tech特集」です。
海面水温は年々上昇しています。気象庁によると2023年の世界の年平均海面水温は平年値と比べ0.4度高く、統計を開始した1891年以降で過去最高を記録しました、24年も引き続き高水準で推移しました。
日本も着実に暑くなっています。24年の夏は歴史的な猛暑となり、6〜8月に全国の観測点で、35度以上の猛暑日を記録した延べ回数は、これまで最多だった23年を大きく上回りました。結果として24年の平均気温は23年を上回り2年連続で過去最高となりました。
こうした温暖化現象について国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、最新版となる第六次評価報告書で、二酸化炭素(CO2)やメタンなど温室効果ガスの濃度上昇が影響していると指摘しています。
温暖化を防ぐため気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える目標を掲げていますが、EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によると、24年は1.6度高くなりました。
実際に1.5度を超えてくると、ティッピングポイントという不可逆な変化が生じる可能性が高まってきます。具体的に懸念されるのはグリーンランドの氷床の融解や低緯度地域でのサンゴの死滅、永久凍土の融解など。そういった事態に直面すると、地球環境がまったく異なる段階に突入し、災害の頻度が急増、生物多様性喪失も一気に深刻になりかねません。こうした事象を防ぐためにも、気候変動や温暖化ガスの排出の対策となる技術、Climate Techが必要となります。
政府は2050年までのネットゼロ(温暖化ガスの実質排出ゼロ)を目指しています。その目標を実現するに当たっては、エネルギーやモビリティ、素材・製造関連の各システムや、未利用資源の活用といった領域で、まだ世の中で商用化されていないような新しい技術・ソリューションを積極的に活用することが必要だと言われています。
こうした動きを背景にClimate Tech領域には年々投資が増えています。同領域のスタートアップ投資額も右肩上がりで推移しています。
2006年から2011年にかけて米国では、エネルギー価格の変動や世界的な温室効果ガス排出量の削減を目的とした「クリーンテック1.0」ブームが巻き起こりました。しかし当時は、この分野のエコシステムに対する理解が不十分な投資家が多く、政府による経済的なインセンティブも抑制されたことなどにより、投資資金の半分以上が失われる結果となりました。
ただ、現在の「Climate Tech2.0」とは質的・量的にも異なります。2006年当時、排出削減を発表した国はありませんでしたが、23年時点では100カ国以上がネットゼロを宣言しています。対象セクターも次世代エネルギー関連から持続可能性に関するあらゆる産業へと広がり、再生可能エネルギーの普及や排出されたCO2を地中に埋めたり再利用したりするCCUS(回収・利用・貯留)の商用化が相次ぐなど、技術が大きく進化。世界を巻き込んだ大きなうねりとなっています。
Climate Techの領域は多岐にわたります。再生可能エネルギー由来のグリーン水素や核融合、大気中のCO2を直接回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)など新しいソリューションや技術が生まれており、数多くのスタートアップも輩出しています。また、エネルギーや金融系を中心とした大企業とスタートアップの連携も相次いでいます。
今回は緩和・レジリエンス(復元力)、水資源、未利用資源の活用、カーボンクレジット、消費者一人ひとりの行動変容という領域から5社を紹介します。
Gaia Vision(ガイア ビジョン)は東大発のスタートアップです。気候データの解析と地理情報システム(GIS)をコア技術とし、解像度が高いリスク分析プラットフォームを展開します。Climate Vision (気候リスク分析ソリューション)、Water Vision (リアルタイム洪水予測ソリューション)という2つのサービスを提供しており、Climate Visionは拠点情報を入力するだけで、財務影響の評価など将来の気候におけるリスク分析を可能にします。 Water Visionは、1.5日先の洪水範囲と浸水の深さを予測、適切な事前の避難誘導・資産保全を可能にします。
ENELL(エネル)は水道網を構築することなく、独立した分散型水源インフラによって、世界中のあらゆる水に関連する課題を解決できる水道インフラのイノベーションを目指しています。具体的には①空気から水を作る ②浄化殺菌によって、川の水や雨水などを塩素などの薬剤を使用せずに飲料水にする ③衛生的な状態で水を長期保存-という3つの技術を搭載した製品をサブスクとリリースで提供。災害時や水不足時の活用はもちろん、グリーン電力によるゼロカーボンに加え、温室効果ガスである水蒸気の削減にも貢献できます。
Green Carbon(グリーンカーボン)は国内と東南アジア、オセアニア、中南米でカーボンクレジットの創出販売事業を展開しています。具体的には水稲栽培の際に土壌を乾かす「中干し」期間を延長することで、水田のメタンガス削減に取り組んでいるほか、植林事業などを手掛けています。また、研究開発領域にも力を入れており、国内外の大学・研究機関と連携し、よりクレジットを創出できる植物の研究なども実施。国内排出量ランキングで上位20の企業とコネクションがあり、大手石油会社や製造会社からのクレジット購入のオファーも受けています。
スタジオスポビーは、人の行動変容を促進させ、脱炭素、健康、地域活性という3つの課題を解決するエコライフアプリ「SPOBY」の開発を行っています。環境負荷の小さい輸送手段に切り替えるモーダルシフトや廃食油回収、マイボトルの利用など、さまざまな環境アクションによるユーザーの脱炭素量をグラム単位で可視化。大阪府では官民連携でCO2排出抑制に取り組む「脱炭素エキデン」プロジェクトに着手、全国展開を計画しています。また、人流データをマップとして可視化すれば、交通整備やまちづくり、観光、防災、ヘルスケアといった観点でも活用可能です。
TOMUSHI(トムシ)は、カブトムシを使って地球にやさしい未来を目指しています。具体的には有機廃棄物をカブトムシの幼虫の餌として処理するほか、幼虫の糞も肥料として農業資材にしています。成虫に関しても夏の時期は全国各地で完全ふれあい型のイベントや生体販売を行い、死虫に関しても標本作りなどに活用し、何一つ無駄にしない取り組みを行っています。FC契約によって全国40カ所にプラントが存在。加盟者は外国産のカブトムシを育て、本部で買い取りを行うというビジネスモデルで、イニシャルとランニングの収益化に成功しています。
グローバル企業の間では、取引先も脱炭素の取り組みが不十分であれば、取引を打ち切るような動きが広がりつつあります。こうした動きに呼応する形で、大企業を中心に250社以上が加盟する「日本気候リーダーズ・パートナーシップ」は温室効果ガスの排出削減について、より高い目標を設定するように求めています。脱炭素を急がなければ日本企業が世界のマーケットで競争力を失う恐れもあるだけに、Climate Tech系ベンチャーが主導する技術革新のさらなる進化、社会実装の加速化が喫緊の課題です。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部長
気候変動ビジネスユニット長
宮澤 嘉章(Yoshiaki Miyazawa)
略歴
・‘03-’11 ボストン コンサルティング グループ
・’11-’21 三菱商事
・‘22- 現職
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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