この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、9月12日に開催した「宇宙特集」です。
宇宙ビジネスのグローバル市場は2022年で約56兆円でしたが、今後の年平均成長率は7%を超え、50年には400兆円に迫る規模まで拡大すると予測されています。世界のGDP(国内総生産)に占める割合は1.35%。コロナ禍で膨れ上がった2022年の医薬品市場(1.46%)にほぼ匹敵する、かなり大きな市場だと実感しています。
日本政府は23年に新たな宇宙基本計画を策定し、国内の宇宙産業市場を30年代早期に、20年比で倍増の8兆円規模にまで拡大する目標を掲げています。それに向けての主要施策が(1)JAXAに民間の技術開発を支援する「宇宙戦略基金(JAXAファンド)」(2)中小企業イノベーション創出推進事業(日本版SBIR)(3)安全保障領域との連携活用強化-です。
このうち宇宙戦略基金は、今後10年間で企業や大学などに総額1兆円規模の支援を行う方針です。技術開発の公募を行っているのは輸送・衛星・探査の3分野。例えば探査の場合、月探査の半永久電源システムに係る要素技術や再⽣型燃料電池システム、火星探査に必要な大気突入・空力原則にかかわる低コスト要素技術など、全9テーマで構成されています。衛星は多数の小型衛星を一体で運用して通信や画像データ収集などのビジネスに活用する「コンステレーション」領域や衛星データの高度化など8テーマが対象。これらを支える宇宙輸送でも、宇宙輸送機の革新的な軽量・高性能化およびコスト低減技術など4つのテーマが設定されています。
宇宙ビジネスは宇宙機器と人工衛星の利活用という2つのバリューチェーンによって構成されています。この中で最もお金を産み出しているのが、通信やデータ、画像を利活用するビジネスです。
宇宙機器ビジネスのバリューチェーンは人工衛星・探査機・ロケットの技術研究・計画から、開発・製造、打ち上げ、機器の運用・利活用です。海外では月面や小惑星の探査を行うスタートアップが活躍しています。
衛星利活用ビジネスでは衛星通信・データのプラットフォームや衛星活用ソリューションが、エンドユーザーに届けられます。宇宙ビジネスで特徴的なのは、エンドユーザーである宇宙機関や防衛・諜報機関の存在感が大きい点です。地政学リスクの高まりを踏まえ、こうした傾向が強くなる一方、気候変動対策が求められている大企業をはじめとした民間のエンドユーザーが伸びていくと予測しています。
今後の宇宙ビジネスで進んでいくのは打ち上げの低価格化です。具体的には数多くの衛星が打ち上げられ、IoTサービスや気候変動対策のソリューションが多様化し、衛星の燃料補給を行ったり修繕したりする軌道上サービスも活発になります。衛星が増えると衝突リスクが大きくなってくる。そのため、宇宙ごみ(デブリ)の除去や宇宙状況の監視が一段と必要になってきます。また、月面探査プロジェクトも活発化することでしょう。
海外のIoTサービス・気候変動領域ではスタートアップと大企業・組織との提携により、新たなソリューションの開発が進んでいます。米通信大手のVerizon(ベライゾン)は静止衛星のSkylo(スカイロー)とIoTサービスで提携しているほか、衛星データの提供を行うPlanet Labsは、海洋生物にCO2を吸収させるブルーカーボンのマッピングツールを開発しています。
今回は宇宙ビジネスのバリューチェーンの中から、射場、輸送、宇宙機器・施設監視・運用、衛星通信・データ利活用の領域にある5社が登壇します。
ONDO Space(オンドスペース) はモンゴルに拠点を置いており、超小型衛星コンステレーションと関連サービスを提供しています。具体的には鉱業や物流、農牧、製造、通信といった業界に向けて、リアルタイムデータのインサイトを提供するカスタムIoTセンサーなどを展開。24年3月にはアジアでは初めてとなる0.5U(1Uは10×10×10㌢の立方体)衛星を低軌道(LEO)に打ち上げることに成功し、26年までに176基の衛星からなるコンステレーションを展開する計画で、地球規模の衛星データ転送の最適化を目指します。
GLODAL(グローダル)は宇宙から得られるデータを活用し、エンドユーザーの能力を開発するプログラムを提供しています。宮﨑浩之代表は大学での研究教育活動と並行して国際機関で利活用を推進してきました。この経験を踏まえ、顧客の業務領域にカスタムした学習コンテンツを通じ、即戦力となる知識と技能の獲得を支援。また、課題解決を創発するアイデアソンで構成されたプログラムで、顧客自身によるソリューションの創造をサポートします。これによって顧客は学習コストを最小限にしながら、業務改革・事業創造の推進が可能となります。
Orbspace(オーブスペース)は、再使用が可能な小型ロケット「Infinity」の開発を目指しています。宇宙空間を数分間飛行して地球に帰還する有人宇宙旅行や、災害・安全保障向けに行うリアルタイムの撮像・追跡、宇宙ごみの除去、捜索救助や防衛向けの極超音速滑空ドローンとしての利用。こうした新しい市場を生み出しながら、第2世代では軌道打上げも可能にする予定です。また、開発過程で生み出される宇宙部品は、他の分野にも応用が可能であり、他産業のイノベーションにも貢献していきます。
Star Signal Solutions(スターシグナルソリューション) はJAXA発ベンチャーで、人工衛星の衝突を回避するナビサービスを提供します。宇宙ビジネスの発展により、30年までに5万8000機以上の商業衛星の打上げが予定されており、宇宙での交通事故を引き起こしかねない危険な接近が、毎年、約3700万回も発生すると言われています。このため私たちの日常を支えるGPS、天気予報などのさまざまなインフラサービスが、突然使えなくなってしまう重大なリスクをナビサービスで防ぎます。
アクセルスペースは、世界中の地域を高頻度で観測できる次世代光学地球観測プラットフォーム「 Axel Globe 」を提供している。具体的には衛星5機で一地点を2〜3日に一度観測し、希望のエリアを地上分解能が2.5㍍という高解像度で撮影。農業や都市計画事業、災害対策などに取り組む幅広い分野の企業に対して、衛星画像データを販売しています。宇宙や人工衛星を活用しサービスを提供・実証したい企業に対しては、小型人工衛星の開発から打ち上げ、運用までのワンストップサービス「AxelLiner」を展開しています。
30年ごろには民間宇宙ステーション(基地)の運用が始まり、コストの低下によって宇宙ビジネスが一気に広がると予測されています。また、基地の活用によって素材開発や創薬といった領域で技術革新が加速し、宇宙ホテルなどエンターテインメントの分野でも新しいサービスが誕生する見通し。こうした動きを背景に、数多くの宇宙ベンチャーが脚光を浴びるようになるとみています。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー & ファンクション事業部
ディープテックイノベーションユニット 宇宙領域担当
森 智司(Mori Satoshi)
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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