モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、8月29日に開催した「ベンチャークライアントモデル特集(VCM)特集です。

 

知的財産などをめぐる争いを心配せずに、安心して大企業と協業

VCMはドイツの大手自動車メーカー、BMWで開発され、ボッシュやシーメンス、エアバス、アクサ、ロレアル、トタルエナジーズなど、主に欧州に本社を置く世界のトップ企業が取り組んでいる新たなイノベーション手法です。VCMが広まりつつある理由は、スタートアップフレンドリーかつ大企業にとってもメリットのある手法であるからです。

具体的には大企業はスタートアップの顧客となり、売上拡大やコスト低減といった戦略的な利益を得ることができ、スタートアップにとっては知的財産や支配権などをめぐる争いを心配することなく、大企業と協業し、プロダクトへのフィードバックを得ることができるコーポレートベンチャリング手法となっています。

VCMはスタートアップエコシステムの参加者全てに好循環をもたらします。大企業はよりイノベーティブになり、スタートアップの売り上げはどんどん伸ばすことができ、結果として投資家にもしっかりとキャピタルゲインがフィードバックされるという構造を作ることができます。

VCMに加わるスタートアップは優秀で、それ自体が差別化に

VCMは大企業にとって差別化の源泉となるような非常に優秀で圧倒的な戦略的効果を創出するスタートアップを対象とします。この考え方は古くからあります。米アップルがマッキントッシュのシェアを大幅に拡大した時期があります。当時は、いろいろな形式のファイルをWeb上で鮮明に出すことができるかが差別化の源泉になっていました。この技術を保有していたのが米アドビです。3人で働いていたガレージにアップルのCEOだったスティーブ・ジョブズが足を運んだ時、「自社で開発している技術を大きく上回るレベル」という話になり、自社での開発を即座に中止。アドビとの提携を決めました。まさにスタートアップの顧客となることで大きな戦略的な利益を得た事例です。

いいと思ったら即座に購入、実証で成果が認められたら受け入れる

VCMを開発したのはグレゴール・ギミー氏です。BMWに在籍時、先進運転支援システムの技術を探索していたところ、イスラエルのスタートアップの技術がずば抜けていることを知りました。世界初の1台のカメラによる車線逸脱の警報・ビームコントロール・速度制御機能を備えており、BMW車に搭載することに成功。シェア拡大につながりました。

これを再現するために編み出した手法がVCMで、(1)DISCOVER-戦略的課題とスタートアップのソリューションの特定(2) ASSESS-提携の可能性のアセスメント(3)PURCHASE-検証可能な最小単位での購買(MVP)を実施(4)PILOT-現場での実証改善活動の実施(5)ADOPT-事業部等での本格受入れ-という5つのステップで構成されています。

具体的には経済的効果が大きくすぐに解決しなくてはならない課題に基づき、次世代の商品に搭載が不可欠な技術や、コストを10分の1程度に引き下げるような技術を持つスタートアップを特定。事前に定めた評価軸にもとづいて最も優れた企業を選定します。その後のMVPがポイントで、最良のスタートアップを特定したら即座に購入して活用し、製品の機能検証で期待どおりの性能が認められたら受け入れるという流れです。従来はスタートアップとの間で知的財産などの話をめぐり、お互いに構えてしまって取引はなかなか進みませんでした。しかしVCMでは、知的財産ひとつをとってもスタートアップのものという明快な考えに基づき技術をシンプルに購入するため、従来の障壁は取り除かれます。

VCMの1件当たりの購入金額は基本的に500万円以下ですので、大量に対応できます。一方で、1課題あたりを解決する効果は1億円以上を目安として取り組むため、経済効果が出やすい点も大きな特徴です。BMWはこの方法で毎年30件、ボッシュは20件、シーメンスは1年半で17件の提携を実現しました。VCMの導入先進企業では、数十億から数百億円の経済効果が報告されています。

次世代製品の開発やオペレーションの改善など短期的な対策にも有効

VCMは次世代製品の開発やオペレーションの改善などの短期的な課題解決に特に有効です。一方で、社会的な課題にもとづいて新規事業を立ち上げるベンチャービルディングに必要な技術をベンチャークライアントモデルの考え方で導入するケースもあります。大手産業機械メーカーは「自分たちでこういった事業を立ち上げたい」と思った際、自社アセットだけでなく他社アセットを組み合わせたほうが製品の技術力も高まり差別化要素も強まるため、VCMを適用しています。

BMWは工場・配送センター内の新車の搬送コストを削減するため、安全かつ効率的に、ドライバーを介さず自律的に移動させることを目指しました。このため韓国のソウルロボティクス、スイスのエンボテックと連携。センサーによる知覚で車両の位置特定と障害物検知を行い、最適なルートプランニングを実現しています。一台ずつにセンサーを装着するのではなく建屋に設置し車の移動をコントロールする仕組みのため、コストを大幅に削減。ドイツの工場での採用は成功しており、今後より多くの工場に展開する計画です。

今回はVCMに適合しやすい技術を保有する3社を紹介します。

幅広い業界からの引き合いが強まっている電力不要のアシストスーツ(株式会社イノフィス

イノフィスは、重いものを運ぶ際に負荷を軽減する、腰や腕に特化した電力不要のアシストスーツ「マッスルスーツ」を販売しています。滑らかで力強いサポート力を実現する人工筋肉を活用した技術に加え、ユーザーニーズに基づいて迅速に開発する体制と幅広い製品ラインナップが特長です。主なターゲットは、製造や物流、介護、農業、建設業界ですが、サポータータイプの製品を投入することで、漁業や林業、消防・レスキュー、防衛など幅広い産業へと顧客層が拡大しています。

複雑形状の金属製部品の外観をAIで自動検査(株式会社HACARUS

HACARUS(ハカルス)はロボットとAIの掛け合わせで製造業の目視検査を自動化するAI外観検査システム「HACARUS Check(ハカルスチェック)」を提供しています。自動車部品を中心に展開しており、これまでの検査装置では対応が難しかった複雑な形状の金属製部品が対象となります。エンドユーザー自身が手軽に現場で AI を更新し、その判定精度を保つことが簡単にできる点が特徴で、製造業で課題となっているDX化を実現します。

データ活用を促し、現場DXを支援(MODE, Inc

米シリコンバレー発のMODE, IncはGoogle MapsやTwitterの開発に取り組んでいた経験をもつ代表が、スタンフォード大学卒のCTOとともに立ち上げ、IoTプラットフォームソリューションビジネスを展開しています。具体的には、現場で計測されるあらゆるデータを収集し、自動で見える化、意思決定に活用することができるクラウド・プラットフォームを提供し、データ活用を促し現場DXを支援します。建設土木をはじめ幅広い業界で活用されており、日本・米国市場の強化に加えアジア市場への参入も検討しています。

 

VCMが普及し、スタートアップがより多くの成長機会に恵まれ、大企業がよりイノベーティブになり戦略的な利益を獲得し、日本のエコシステムがさらなる進化を遂げることを願っています。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 取締役COO
27pilots Japan代表 
筑波大学大学院及び早稲田大学ビジネススクール非常勤講師

木村 将之(Masayuki Kimura) 公認会計士

 

◯2010年 トーマツベンチャーサポートを第2創業し、230名体制世界5拠点への拡大
◯オープンイノベーションによる新規事業開発、CVC設立運営支援コンサルティングなどを提供
◯2015年 シリコンバレー事務所を開設し、大企業とシリコンバレースタートアップとの協業推進を支援
◯2023年 ベンチャークライアントモデルに出会い普及促進を開始
◯事業開発コミュニティSUKIYAKI、経済産業省D-Lab、CES発信(テレビ出演)など多様化活動を行う

 

 

 

 

 

 

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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