モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、4月25日に開催した「ゼブラ特集です。

ユニコーン企業と対比する形で提唱された概念

ゼブラ企業はユニコーン企業と対比する形で提唱された概念です。ユニコーン企業は加速度的な成長を志していることから、短期間で独占的に成長することを目標に掲げています。それに対してゼブラ企業は、長期的かつ包括的な経営姿勢を目指しており、社会課題の解決と利益確保の両立を志向。大切にしているのが、他者と共存・協調して協力し、公共やコミュニティが受益者となる相利共生主義です。

また、社会的に複雑な課題に挑戦しているほか、短期的な成長を必ずしも志していないことから、新たなお金の流れを求めているという特徴を持っています。

ゼブラの語源は白黒のストライプ模様です。相反しているように見える目標の両立を、ストライプ模様になぞらえて名付けられており、ゼブラ企業は地域、環境、発展途上国、インクルーシブ、女性、子供、教育、社会と英知の分断といった社会的課題が多い領域の課題に取り組んでいます。

ゼブラ企業の周知・支援・投資の促進は、共同組合であるZebras Uniteという組織が主導となって行っています。ゼブラ企業の提唱者である米国の4人の女性起業家により設立され、今では70以上の支部、7000人以上のメンバーにまで拡大しています。例えばロンドンでは、ゼブラ起業家のコミュニティ、投資家を集めたインタラクティブなパネルなど、ムーブメントの醸成に向けた取組が展開されています。東京では、Tokyo Zebras Uniteのメンバーがゼブラ企業への投資・経営支援、行政・金融機関との連携の実行を行う「Zebras & Company」を立ち上げ、活動を推進しています。

日本のインパクト投資残高は1年で倍増

日本では地域課題解決の担い手としてゼブラ企業が国家戦略に盛り込まれています。2023年の骨太の方針や新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画では、社会的課題の解決に資するインパクト投融資を呼び込む「ローカル・ゼブラ」の創出に向け、エコシステム構築の促進が示されました。これを受け、地域での中間支援や伴走支援の強化が基本方針として挙げられ、社会的インパクトの創出に向けた動きが一段と活性化していると言えるでしょう。

世界のインパクト投資残高は年々増加しており、2022年は1.1兆㌦を超えました。日本でも、社会的インパクトの創出に対するニーズは拡大しています。社会変革推進財団によると2023 年6 月末時点で日本のインパクト投資残高は11 兆 5414 億円。前年度に比べ約2倍へと急拡大しています。

上場企業はゼブラ企業との連携で社会的インパクトの創出が可能

一方、インパクト創出の情報開示ガイダンスやインパクトを適切に評価し投資判断に繋げるための視点・ツールは発展途上です。このため、資本市場の多様な投資家にとっては中長期的な企業価値向上への繋がりが見えにくく、上場企業にとってインパクトの創出のみで投資を呼び込むのは難しいのが現状です。一般的にインパクトと収益の確立に時間を要することから、上場企業単独でのプロジェクト組成・実施は難しいと考えられます。

こうした領域では、ゼブラ企業が良きパートナーとなります。具体的には資金や人材、技術、事業の連携などによって、収益性を圧迫しない事業運営が行え、上場企業も社会的インパクト創出に貢献でき、なおかつ中長期的な企業価値向上を実現できるようになります。

多様な手法で資金調達を実施

ゼブラ企業の資金調達は従来のベンチャー企業の調達に比べ、出資と融資の間であるメザニン、デット、補助金も含めた多様な手法で行われています。資金を供出する側からみると①合意した事業目標を達成時の自社株買いを織り込んだ上での出資②買い戻し条項付の種類株式の取得③投資型クラウドファンディングでの資金提供④融資⑤インパクトボンドの引き受け⑦助成金の拠出-などが挙げられます。

大企業との協業も進んでいます。ウニを除去することで藻場の再生に取り組むウニノミクスは、大手エネルギー会社と共同で藻場回復プロジェクトを実施。藻や海藻による二酸化炭素(CO2)吸収量を認証するJブルークレジットを発行しました。陽と人(ひとびと)は大手ベッド会社と組み、同社の睡眠に対する知見と陽と人のユーザーの声を合わせ、睡眠不調の改善に向けた提案を実施しています。今回は5社のゼブラ系ベンチャーを紹介します。

人口減少時代に応じた持続可能な地域モデル(株式会社NEWLOCAL

NEWLOCAL(ニューローカル)は、人口減少時代に持続可能な地域モデルを作る、まちづくり事業を行っています。具体的には地域のリーダーとビジョンを共にして会社を創設し、同社自身が地域にコミットして事業を行います。また、開発に必要な資金を多様な方法で集め、出口の仕組みも考えます。一連の仕組みを複数の地域で同時多発的に展開することで、人材や知見を共有します。現在は、長野の野沢温泉・御代田、秋田の男鹿の3つの地域で展開しており、今後5年で10地域を目指します。

研究知を社会に繋ぐメディア&データプラットフォーム(株式会社エッセンス

エッセンスは、研究知を社会に繋ぐメディア&データプラットフォームを提供します。一流の研究者やユニークな成果を誇る研究者群を、人文、自然科学、工学、社会科学と全領域にわたってネットワーク化。その成果を、メディア、カンファレンス、資金提供、データベースというプラットフォームにすることで、民間企業・市民が研究者とつながるコミュニケーションの窓口を提供します。今後は、研究者ビジネスカンファレンスや企業パートナーの拡充により、研究知を生かす企業の群を形成していきます。

難民がパソコンを再生(ピープルポート株式会社

ピープルポートはリユース・リサイクルを通じ、電子機器を再利用するサービスを提供しています。定期的にパソコンを入れ替える法人から、データ消去を含めて安価で回収。整備と共に一部を新たな部品に入れ替え、再生パソコンとして催事やEC(電子商取引)を通じて販売します。整備は難民の方々が行います。ウクライナ戦争やガザ地区の紛争などの影響などで、難民は増加傾向にあり、日本でもコロナ明けから難民申請者数が増えています。今後は避難先の言語を話せなくても働ける場所をつくり、日本以外にも在留拠点の設立を目指します。

カフェインのみを選択的に抽出したコーヒー(ストーリーライン株式会社

ストーリーラインは、超臨界二酸化炭素抽出法という手法を活用し、カフェインのみを選択的に抽出できるコーヒーを開発しています。東北大学と共同で開発した技術で、コーヒー生産地へ移転し作業を高付加価値化。中間コストやCO2排出量を削減し、フェアで追跡可能な独自のサプライチェーンを構築します。2026年には国内に量産実証の工場を設立予定で、実証後はルワンダで現地生産を行う計画です。廃棄物となっている果肉部分も利用できるように支援。持続可能性を実現させます。

子ども虐待対応の最前線に立つ機関をサポートするSaaS型システム(株式会社AiCAN

AiCAN(アイキャン)は自治体の児童相談所や子育て支援課・母子保健課など、子ども虐待対応の最前線に立つ機関をサポートするSaaS型システムを提供します。児童虐待に関する現場の専門知見を備え、ユーザーの説明責任を担保するためのAIなどを搭載。児童虐待の知見は子供の安全やDV・性暴力、犯罪予防、障害者や高齢者虐待などの近接領域にも活用が可能です。今後は、関係機関である学校や保育園・幼稚園、医療機関や警察、消防、NPOなどに向けた関係機関版のサービスもリリース予定です。

 

 

経済産業省は過疎化や産業衰退といった地域課題の解決を図るため、石川県の能登エリアや沖縄県の宮古島市など全国20地域で、ゼブラ企業のグループづくりに乗り出しました。横のつながりが広がれば広域的な課題解決を促進するのは確実。ゼブラ企業のさらなる活躍に期待が高まります。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

Innovation Solution事業部

菊地 泰生(きくち たいせい)

 

 

専門性・実績
・官公庁:社会起業家育成プログラムの運営、起業家海外派遣・育成プログラムの企画・運営
・スタートアップ:Morning Pitchにおける、化学・素材領域のスタートアップの支援
・大手化学メーカー:脱炭素領域の市場動向・スタートアップ調査
・大手金融機関:エネルギー業界の脱炭素領域投資動向調査
・大手金融機関:脱炭素領域のスタートアップスカウティング

 

 

 

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