この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年11月16日に開催した「美容・ビューティー特集」です。
「ビューティー・美」は英語1単語、漢字1文字ですが、その定義は人によって全く異なります。多様化が進むこの時代のBeautyについて、私としては「性別・年齢関係なく、全ての人々が、毎日を少しでも笑顔で過ごし、自信を持って年齢を重ねていくこと」と定義しています。
Beautyに関する商品・サービスを提供している領域は(1)美容商品(2)インナービューティー(3)美容医療(4)検査系やフィットネスクラブなど(5)美容サービス―と5つに分類されます。
最も大きい市場が美容商品で、国内の化粧品市場について説明します。コロナ禍によって2020年度は前年度比で15%減少しましたが、消費者の外出機会が徐々に増加しインバウンド(訪日外国人)需要も回復の兆しを見せたことから、22年度は2兆3700億円と2年連続で拡大しました。19年度の2兆6480億円には届かず復活途上という段階にありますが、円安傾向を背景にインバウンド向けの売り上げは拡大しており、24年は新型コロナウイルス前の市場規模に回復する見込みです。製品カテゴリー別ではスキンケア市場が約半分を占めています。
Beautyの分野では時代のニーズに合ったサービスの提供が求められており、現在は「BeautyTech(ビューティーテック)」「パーソナライズド(個別化)」「多様性の尊重」という3つのトレンドに注目が集まっています。
BeautyTechはビューティーとデジタルの融合で、ビューティーに新たな変革をもたらしつつあります。BeautyTechが誕生した背景には、テクノロジーやデジタルトランスフォーメーション(DX)の進化、ソーシャルメディアの普及、パーソナライズド需要の増加などがあります。また、効果が高い美容体験を効率的に行いたいというニーズの高まりに伴い、多くの企業が注目しています。例えば大手化粧品メーカーは、スタートアップであるセントメティックの香りを可視化する事業に着目し協業。顧客が感じた香りを言語化することで、開発途中の香りが顧客のイメージと合致しているかどうかを、開発とリアルタイムで確認する手段として活用しています。
パーソナライズド系サービスは、自分にとって最適な製品・サービスを知りたい、使いたいというニーズの高まりに応える形で拡大しています。トリコは、簡単な質問に答えるだけで、自分に最適なサプリメントなどのオリジナル商品を購入できるサービスを提供しています。Sparty(スパーティ)は公式サイトで30秒ほどの間に7つの質問に回答すると、30万人の個人診断データを基に、5万通りの組み合わせから自分の髪質に合ったヘアケアを提案してくれます。一連のサービスは両社の業績に貢献しています。
多様性を象徴するのは、男性のニーズにあった製品やサービスへの新規参入が進み、メンズビューティー市場が拡大傾向にある点です。この動きに象徴されるように「ビューティー」イコール「女性」の市場ではなく、年齢や性別に関係なく、新たな市場が開拓されています。
多様化の流れに沿って、これまでは女性が大半だった広告塔やアンバサダーに男性を起用する動きが進んでいます。また、多様性を意識して企業ブランドのイメージを変える企業も出てきました。大手エレクトロニクスメーカーは、世の中の動きに先駆けて、美しさの多様性を後押しするブランドへとアップデートを図っています。同社の美容家電では、女性をイメージしがちなピンク色からブランク(透明)へとロゴを刷新しています。メンズシェーバーでは「ビジネスパーソン」をうたって広告を打ち出していましたが、「ヒゲを剃る人すべて」にペルソナを変更しました。プロモーションには、僧侶やドラァグクイーンなどさまざまな職業・ライフスタイルの人物を起用し、反響を呼んでいます。
今回は美容製品やインナービューティーなどの領域から5社を紹介します。
Cogane studio(コガネ スタジオ)は、顔や体の洗いすぎにより、無意識に肌トラブルを抱えている人がいるのではという気付きから、セラミドオイルを使った洗い流さないメイク落とし洗顔料「セラクレンズ」を開発しました。洗顔料を肌に乗せメイクや汚れになじませた後、ティッシュで拭き取ります。肌ダメージが生じるクレンジングシートなどと異なり、浮かせた汚れを吸い取る方式のため摩擦が発生しない点が特徴です。洗い流さないという新たな市場を開拓できる点も強みで、病院や介護現場、アウトドア関連の使用にも適しています。
ドリコスは、データと連携したヘルスケア商材を生成するデバイスを提供しています。顧客のヘルスデータからその場で最適な成分を調合、多様なパーソナライズされた商品を提供することが可能です。ジム向けのデバイス「GRANDE」では体組成計との連動や、その日の運動状況に応じたサプリメントを提供することができ、サーバー機器をジムに設置。ジムとドリコス社がレベニューシェア(収益分配)する仕組みです。オーダーメイドで提供できるソリューションには、美容サプリやスキンケア、食品と幅が広くプロダクトは問いません。
Novera(ノベラ)は、プロ仕様のAI肌診断「skinsense」を提供しています。現場視察やヒアリング、アンケートなどの事前調査と、 400人以上の美容部員へのヒアリングを踏まえたAI開発を基盤としており、高スキル人材の勘や経験をAI化できる点が特徴です。しわや透明感、毛穴、うるおい、肌質、肌年齢など計9項目の評価を実現しており、同サービスで培った高スキル人材の定性情報をAI化するノウハウについては、他業界向けにも展開しています。
TRULY(トゥルーリー)は、男性ホルモンの数値や心身の不調要因などを10本の髪の毛で簡単にチェックできる、男性更年期の検査サービスを提供しています。結果通知や専門家のアドバイスはLINE上でも受けることが可能です。男性の更年期に該当する人は6人に1人と言われ、更年期が原因の離職となる「更年期ロス」は2100億円にも上り大きな問題となっています。それにも関わらず症状やリスクが知られていないだけに、今後は企業との実証実験を通じデータを蓄積しながら、男性社員の更年期や健康課題の可視化に向けた協業に取り組む方針です。
ユーブロームは、肌にいる菌(肌フローラ)の解析によって市販されている250種類の化粧品から最適な化粧品を提案するコンシェルジュサービス「コスメフィッター by 肌フローラカルテ」を提供しています。自社製品を提案・販売する従来のモデルとは異なり、肌フローラのバランスを整えることができる化粧品の中から選びます。このため真に顧客に寄り添ったサービスが可能となっており、今まで使っていた化粧品が合わなくなってきた30代女性をメインターゲットとしています。
国内の化粧品市場は海外メーカーの台頭によって、競争環境が厳しくなっています。国内勢が巻き返しを図るためにも、大手企業とスタートアップとの協業をいかに加速できるかが課題となります。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部 ヘルスケアユニット
中井 美奈(なかい・みな)
国内外の金融機関、民放報道機関(ロンドン支局)にて従事、英国でNGOを立ち上げ、ロンドン大学にて開発学博士号を取得後、2021年9月より現職。前職では、EU・アフリカ・中東における報道制作や、ジェンダー関連分野を中心とした発展途上国の開発事業プロジェクト等に従事。現職ではFemtech・ヘルスケアの新規事業創出支援を中心に担当
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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