この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年10月19日に開催した「Climate Tech (気候テック)特集」です。
2016年に発効した温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定では、今世紀末の気温
上昇を産業革命時期に比べ1.5度に抑えることを目標に掲げています。それには、さらなる気候変動対策が必要です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、追加的な削減対策を行わずに現在の水準が続いた場合、2025年以降も温暖化ガス(GHG)排出量が増加し、1.5度シナリオの達成は非常に厳しい状況となると指摘しているからです。
パリ協定以降、欧米では、必要電力を全て再生可能エネルギーに切り替えることを目指す「RE100」や、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などさまざまな気候変動イニシアチブが設立され、世界的に取り組みが進んでいます。
温暖化ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルをめぐる動きも活発化しています。EUと日本、米国では2050年までのカーボンニュートラルを目指していますが、中国は目標時期を2060年に設定しています。これらの国・地域で全世界のCO2排出量のうち約6割を占めており、カーボンニュートラルはグローバルな潮流へと進化しつつあります。
気候変動に対する動きは、経済的にも大きなインパクトを残すことは確かです。1.5度に近づけるための技術やビジネスモデルへの投資、政策的なアプロ―チを講じることによって、2021年から70年の50年間で、43兆ドルもの経済的利益を享受すると言われています。ただ、こうした行動を起こさない場合、地球温暖化に伴う世界経済の損失は、178兆ドルに上るとの試算もあります。
2023年は「Era of Global Bolling has arrived(地球沸騰化の時代が到来)」とも言われました。実際、世界気象機関の報告書によると、23年の世界の平均気温は産業革命前と同程度とされる1850~1900年の平均より約1.45度高く、パリ協定の数値に迫りました。高い海水温が長期間続く海洋熱波もさまざまな海域で発生しています。CO2の排出量も年々増加しており、低減に向けた動きが急務となっています。
2050年のカーボンニュートラルに向けては、再生可能エネルギーの普及や省エネ、電化が重要となってきますが、一連の取り組みだけでは達成できません。既存のソリューションにはない革新的な技術によって、削減量の40%分をカバーする必要があります。けん引役を担うのがClimate Tech (気候テック)です。
Climate Techは「エネルギーを作る・貯める・運ぶ」「エネルギーを使う」「出たものを回収する」と大きく3つの領域に分かれており、技術・ソリューションの種類は非常に多岐にわたっています。また、核融合や大気中からCO2を回収するカーボンキャプチャーをはじめ、一つ一つがディープテックであるため、技術開発や事業展開が容易ではありません。「どこに注力するのか」や「いつ注力するのか」は、各企業を悩ませる要因だと認識しています。
米マーケットリサーチのHolonIQによると、2022年に世界でClimate Techに投資された金額は総額701億ドル。前年比で1.9倍という高い伸びを示しました。また、VCによる投資は10 年前と比較し約 40 倍にまで拡大。近年では蓄電池スタートアップのNorthbolt(スウェーデン)や、次世代リチウムイオン電池を開発する米TeraWattなどの大型の資金調達が注目を集めています。2023年までに、1回に1億ドル以上を調達するメガラウンドを完了させたClimate Techのスタートアップは、160社以上に及びます。
日本でもClimate Tech系スタートアップの技術開発が加速しており、大企業との提携事例も顕在化しています。農業分野の脱炭素化を後押しするフェイガーは大手金融機関と提携し、カーボンクレジットの創出支援を行っています。
今回は5社のスタートアップを紹介します。
Carbontribe Labs(カーボントライブ ラブス)は、カーボンクレジットの生成を簡単に行えるAIツールを提供しています。開発を進めているのは、衛星画像とAIで森林から効率的にカーボンクレジットを生み出す仕組み。特に通常の森林の5倍の吸収量を誇るマングローブは、クレジット単価が高いのに加え、成長が早い点から注目されています。今後はGHGの排出量の測定、報告・検証向けコンピュータービジョンの開発に焦点を当て、森林やマングローブからJクレジットを生成する実験を行います。
CBA(シービーエー)は廃棄物処理DXプラットフォームを提供しています。産業廃棄物の処理を委託する際、マニフェストという伝票を発行する必要がありますが、マニフェストの8割は電子化が進んでいます。廃棄物の発生、管理・集計分析までを一気通貫でサポートするのが、このプラットフォームで、関連業務を90%程度削減します。今後は廃棄物を資源とみなし、デジタル技術を駆使して、廃棄物ビッグデータを収集、分析、可視化し、資源化を実現する循環型社会のためのデジタルインフラを目指します。
enechain(エネチェイン)は、誰でも電力や環境価値を自由に売買できる日本最大のエネルギーマーケットプレイス「eSquare(イースクエア)」を提供しています。通常の電力取引のみでなく、非化石証書やJクレジット、海外ボランタリークレジットなどの環境価値取引や再エネ電力のマッチングサービスの取引が可能です。既に数百社の利用企業を抱えるなど確固たる地位を築いており、他の脱炭素サービスとの連携を通じて環境価値取引による企業価値向上や取引コストの低減など、エコシステムの構築を目指します。
ジカンテクノは、鉱物資源ではなくコメのもみ殻など再生可能な植物性廃棄物を、付加価値の高い工業分野で使われるシリカや、カーボンの材料となるグラフェンなどへ変える独自技術を保有しています。もみ殻から作られたシリカの需要は、化粧品、半導体、コンクリートやタイヤなどで需要が高まっています。また、グラフェンについては米国の特許も取得しており、土木・自動車・農業分野と共に開発に取り組んでいます。急激な需要増に対応するため、大量のもみ殻を調達できる農業生産者との協業を求めており、生産拠点も検討しています。
スペースエンターテインメントラボラトリーは、飛行艇型無人航空機「ハマドリ」の開発と海洋観測サービスを展開しています。水上滑走による発着や水中観測が可能であり、顧客から依頼を受けて実施した観測データを、クラウドを通じてリアルタイムで提供します。うねりのある外洋で自動離発着ができるほか、高精度な自動水上航行ができる点も特徴。気候を把握するために不可欠な海洋情報を、低コストかつ迅速に収集できる点が強みです。今後は科学・防衛分野や民間での活用を目指し、実証実験に力を入れていきます。
日本では2050年にかけて人口減少が加速する見通しですが、AI時代に本格突入することもあって、発電電力量は逆に大幅に増えるとの見方もあります。再生可能エネルギーと原発の脱炭素電源でカーボンニュートラルに近づけるシナリオはハードルが上がるだけに、Climate Tech系スタートアップが開発したディープテックの早期実用化に注目が集まります。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インタストリー&ファンクション事業部
気候変動ビジネスユニット
三矢 朋輝(みつや・ともき)
日系自動車Teir1部品メーカの経営企画部門にて全社のサステナビリティ推進の企画・立上げ。気候変動/CN領域では、CCUS技術を活用した新規事業の企画・推進。現職では、CCUS関係領域の市場調査、スタートアップ探索及び、新規事業創出 等
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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