モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

今回は、9月7日に開催した「Web3特集」です。

個人にフォーカスしたインターネット活動を展開

現在、従来のWeb2.0と呼ばれるネットワーク形態に代わりWeb3.0と呼ばれるブロックチェーンを基盤とした分散型ネットワークの活用が広まっています。Web2.0では個人情報などが管理され、セキュリティや表現の自由などが企業の裁量にかかっているという問題を抱えていました。これに対しWeb3.0では、企業が運営するプラットフォームに依存せず、より個人にフォーカスしたインターネット活動が行われています。こうした特性を踏まえ様々な分野において、GAFAのような世界的企業が保有する中央集権的なものに代わり、Web3.0型のプロダクトが多く出てきています。

Web3.0の代表的なプロジェクトについて、領域ごとに紹介します。ブロックチェーン基盤には、世界で最も活発的な開発が行われているイーサリアム(ETH)チェーンなどがあります。暗号資産領域はビットコインが知られています。

NFT領域は、デジタルアートとしての枠組みを超えた動きが活発化しており、日本人芸術家の作品をNFT化したプロジェクトなどが挙げられます。ゲームと金融を組み合わせたGameFi(ゲームファイ)市場では、実名のサッカー選手を用いたブロックチェーンゲームが盛り上がりを見せています。

DAOとよばれるブロックチェーンを基盤とした分散型自律組織では、NFTを一日一つずつ発行しコミュニティを盛り上げているDAOや、記事一つ一つをNFT化した記事投稿プラットフォームが存在感を発揮しています。メタバース(仮想空間)領域としては、土地やアバター、土地に置くアイテムに至るまですべてをNFT化するプロジェクトや、様々なアイテムをNFTとして販売する仮想商店が代表的な存在です。

SBTなど新技術の確立によって実用化フェーズに移行

次にWeb3.0領域の直近の動向について説明します。指標として暗号資産の取引高を見るために今回はDEXという、分散型管理の取引所の取引量推移をみていきます。NFTバブルの崩壊や米FTXトレーディングと米シリコンバレー銀行の経営破綻が引き金となって、現在の取引量は若干ではありますが下火となっています。

しかしながら、譲渡不可能なSBT(ソウルバウンドトークン)など新しい技術の確立やNFTの実用化の進行によって、投機としてのWeb3.0ではなく、実用化フェーズに入ってきていると予測できます。

NFT技術は2017年に確立され、NFT1.0、2.0、3.0という段階を経てデジタルアートだけではなく、様々な用途で利用されるようになってきました。一時のNFTバブルと比較すれば現在の取引量は下降傾向にありますが、今後は実用目的でのNFTの活用が進んでいくとみられます。

新潟・山古志村では住民の数を超えるデジタル村民を創出

国内ではWeb3.0を活用した町おこしプロジェクトが活発化しています。代表事例が限界集落として知られていた新潟県山古志村。名産品である錦鯉をモチーフにしたNFTを発行し関係人口の増加を図っていましたが、リリースから一年間で、山古志村の住民数800人を超える1037人ものデジタル村民が創出されました。

NFTの保有者たちはDAOを介して、山古志村の人口増加のための施策を出し合い、デジタル村民が集うためのメタバース空間が作られています。また、デジタル村民が山古志村を実際に訪れ、村のお祭りやイベントの手伝いなどに参加する事例も見られます。DAOにより、デジタル村民を1万人まで増やすのが目標です。

福岡県のスポーツクラブでは、ファントークンとDAOの組み合わせによって、クラブの人気を向上させるための対策やクラブ周辺地域の街づくり、関係人口の増加施策などを進めています。有名アイドルの限定ライブ画像などをNFT化したデジタルトレーディングカードは、保有するだけでなく、ゲームなどに取り込むことができます。

ベンチャーと大企業の協業事例も相次いでおり、大手旅行会社は地域活性化を目標に、NFTやブロックチェーンを活用して旅の新たな目的を創出します。

今回はGameFi、ウォレット、コンサルティングという3つの分野から5社を紹介します。

 

ヘルスケアエコシステムで健康増進モチベーションを維持・向上(株式会社HashPort

HashPort(ハッシュポート、東京都港区)はブロックチェーン領域のコンサルティング、プロダクトの企画・開発を行います。具体的にはSBTを活用したWeb3.0コンサルティングを実施。また、日本初となるIEO(仮想通貨による資金調達)の実績を活かした、トークン発行に関する戦略立案などでプロジェクトの成功を支援しており、Web3.0領域のサービスを一気通貫で提供できる点が強みです。トークンエコシステムを活用した健康増進モチベーションの維持・向上を目指すヘルスケアエコシステムの構築にも取り組む予定です。

非競争領域の課題を解消し事業の競争領域にリソースを集中(株式会社Ginco

Ginco(ギンコ、東京都中央区)は、Web3.0のインフラと、事業の川上から川下までパートナーとして伴走するソリューションを提供、Web3.0事業の創出を包括的に支援しています。Web3.0には①最先端領域での技術的な困難さ②金融事業相応のセキュリティ負担-といった非競争領域の課題があります。一連の課題をサービスによって効率的に解消し、広報・マーケティングやエコノミクス形成、デザイン、コミュニティ運営など、事業の競争領域にリソースを集中させるのが目的です。

著名ファッションブランドと協業、NFTコレクションの開発と販売を支援(株式会社Kyuzan

Kyuzan(キューザン)はユーザー体験をワンストップで実現するWeb3.0開発プラットフォームを提供しています。Web3.0は開発コストが高くリスクが大きいという側面があります。このためユースケースが増えず確立されたものが少なく、何を作っていいのか分かりにくいのが現状です。プラットフォームは、こうした課題を解決する役割を果たします。ゲームソフトの大手やアパレルEC支援企業など外部との連携も積極的に進めており、著名ファッションブランドとの協業ではNFTコレクションの開発と販売を支援しました。

ウォレットを保持してなくてもその場で作り、NFTの受け取りが可能(株式会社PBADAO

PBADAO(パバダオ、東京都渋谷区)はブロックチェーン活用の総合インフラ事業として、ウォレットからトークン発行、認証システムなどの企画・開発・運営を行います。提供サービスはブロックチェーン技術を活用したNFTソリューションで、ウォレット(電子財布)を保持していない人でもその場で簡単に作り、NFTを受け取ることができます。自社にアーティストやエンジニア、コミュニティマネージャー、マーケターを擁し、多種多様なNFTプロジェクトを展開。今後は自治体と連携し地域活性化に注力します。

コミュニティの構築をワンストップで支援するソリューション(株式会社SHINSEKAI Technologies

SHINSEKAI Technologies(シンセカイテクノロジーズ、東京都新宿区)は、Web3.0コミュニティの構築をワンストップで支援するソリューションを提供しています。Web3.0の実装がDAOの運営でとん挫するケースが多い点を踏まえ、独自のマネジメントモデルやデータ分析ツールを用いて熱量の高いファンコミュニティの形成を促しています。大手ゲーム会社を始め、多くの企業に対して支援した実績があります。

 

Web3.0はこれまで金融やゲームを中心に活用されてきました。今後は健康や温暖化ガスの削減効果を売買するカーボンクレジットなど幅広い領域での応用が見込まれ、市場規模も飛躍的に拡大する見通しです。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部

田所 丈(たどころ・じょう)

早稲田大学総合機械工学科卒。国内向け暗号資産メディアの運営・グロース。国内暗号資産交換業者で、NFTマーケットプレイスの立ち上げ・グロースに従事。
過去に新規通貨・NFTの上場業務、メタバース上の都市開発、独自NFTの発行企画を経験。現職では、行政様向けのNFT・DAOを用いた町おこしプロジェクト等を行う。

 

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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