モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年4月13日に開催した「エンタメ特集」です。

2023年の日本のコンテンツ市場は1037億㌦となる見通し

エンタメ産業では、アーティストやデザイナーなどが制作したクリエイティブな作品に著作性を持たせ、それをコンテンツにしたものが、メディアを通じて発信され、ユーザーに届きます。今回は特にコンテンツに注目してお話を進めていきます。

経済産業省によると、2023年の日本のコンテンツ市場は1037億㌦(約14.7兆円)、世界市場は1兆2995億㌦(約183.7兆円)となる見通しです。それぞれ映像とゲームが市場の半分以上を占めており、今後も拡大することが見込まれます。

コンテンツ分野では大型買収も顕在化しています。昨年には米マイクロソフト社が、世界的な大ヒットビデオゲームシリーズ「Call of duty」などを保有する米ゲーム大手、ActivisonBlizzard(アクティビジョン・ブリザード)を687億㌦(約9.7兆円)で買収することを発表、ゲーム業界最大規模の買収として注目を集めました。

キーワードは創、守、拡

エンタメでは、コンテンツを中心として(1)オリジナリティのある創作活動ができるか(2)クリエイターとファンを守りながらビジネスが展開できるか(3)コンテンツを拡げるエコスシステムを作れるか―という観点が重要になってきます。キーワードは「創る」「守る」「拡げる」です。

まず「創る」に関しては、ChatGPTをはじめとした生成AIへの注目が集まっています。また、3Dモデリング技術の発展により、ソフトウエア自体がコンテンツを作ることができる時代になっています。イスラエルのベンチャーの技術を活用すれば、顔の画像とトークスクリプトを入力することで、自己紹介の動画を制作できます。画像を取り込めばメタバースなどで活用できる3次元のデータを生成する技術もあります。こうしたベンチャーに対し、知的財産を所有する大企業が、教師データを提供するような動きが活発化する可能性があります。

コンテンツ制作・管理の商流がDX化

「守る」の領域では所有権利の透明性、煩雑性がテクノロジーによって解消され、コンテンツ制作・管理の商流がDX化しています。例えば、あるベンチャー企業は、アート・NFT作品の保有権を少額から購入できるシェアマーケットプレイスを提供。ユーザーはまとまった資金が手元になくとも作品を取得することが可能で、取得したNFTによってコミュニティに参加できます。ユーザーニーズを捉えたコミュニティ形成から、どのようにキャッシュポイントを増やしていくかといった観点から事業を進めていけば、協業のチャンスが生まれるかもしれません。

「拡げる」については、コンテンツの価値を最大限に高めるエコシステムの構築がカギとなります。VTuber(バーチャルユーチューバー)グループを運営するベンチャーの成長モデルを見てみましょう。同社はライブストリーミングを契機にファンを獲得。コマースの展開につなげグッズを販売したり、ライブイベントを通じリアルなコミュニケーションの深さを求め、構築したコミュニティをプロモーションに生かしていくという部分で、知的財産をキャッシュポイントに変えるという動きも顕在化しています。

将来のファンの囲い込みが協業に向けてのカギ

こうした動きを踏まえると、コンテンツのインフラを変えて既存ファンの体験をアップデートし、デジタルプラットホームを活用して将来のファンの囲い込みを進めていくことが、協業を行う際の注目ポイントだと認識しています。

エンタメ性を高めるためスタートアップに対して積極的な投資を行うことで有名な米ディズニーのアクセラレータープログラムも、2022年はXR分野を中心とした最先端テクノロジーへの投資が目立ちました。

今回は「創る」「守る」「拡げる」の領域を中心に5社を紹介します。

裸眼で3D映像を見ることができるホログラム(X-Gate株式会社

X-Gate(東京都新宿区)は、裸眼で3D映像を見ることができる省スペース型の3Dホログラムを提供しています。具体的にはXRとの組み合わせによる次世代空間デザインや、AR(拡張現実)を経由してバーチャルへつなげるゲートウェイ機能などを通じ、近未来の社会実装に取り組んでいます。5つのフェーズに分けた事業展開を想定しており現在はフェーズ1。空間演出の事例を積み重ねている段階で、最終的には、3D動画のマーケットプレイスを提供する計画です。

メタバース空間向け3Dアバター作成サービス(株式会社DENDOH

DENDOH(デンドー、東京都渋谷区)は、メタバース空間向け3Dアバター作成サービス「molz(モルツ) 」を提供しています。デジタル活動上で必要なアバターの制作には専門知識が不可欠。したがって技術的なハードルや制作コストは高いですが、さまざまなメタバースサービスで横断的に使えるアバターデータを、ゲーム感覚で簡単に作成できるようにしました。ジャパンデザインのかわいいデザインが特徴で、着せ替えも可能。大手芸能事務所とのタイアップも進んでおり、今後は企業向けサービスなど事業の拡大を目指します。

香りの情報通信インフラを創出(株式会社アロマジョイン

アロマジョイン(京都市伏見区)は、香りの情報通信インフラの創出を目指しており、香り制御装置「Aroma Shooter」の製造・販売を行うとともに、香り動画配信サービス「AromaPlayer」を運用しています。Aroma Shooterは、映像や音響コンテンツに合わせて指向性を持ったまま0.1秒で切り替え提示が可能であり、香りも残りません。AromaPlayerは映像や音響に合わせて香り信号の同期を可能とする、世界初の香り付き動画配信サービスとなっています。

謎解きで人を繋ぎ街の活性化を図る(AXELL株式会社

AXELL(アクセル、東京都世田谷区)は、謎解きで人を繋ぎ街の活性化を図るIoT×ARエンタメ「TRIAD(トライアド)謎解き」を展開しています。周遊型の謎解きイベントや、ルーム型脱出ゲームなどオリジナルのコンテンツを開発し、観光や企業研修、社会活動などで活用されています。特許も取得しており、通常の謎解きに比べ、テクノロジー性とストーリー性に優位性があります。大手電鉄会社や自治体との共同企画実績があり、今後、大企業や地方自治体との協業を推進し、会員数を増やしていきます。

NFTの所有者だけがコンテンツを見ることできる(合同会社暗号屋

暗号屋(福岡市中央区)はブロックチェーンに特化した事業を展開しており、NFTの所有者だけがコンテンツを見ることできる「VWBL」(ビュアブル)を開発・提供しています。DVDやBlu-rayなど記録媒体をイメージしてもらえると分かりやすく、記録メディアであるため、活用の可能性は無限大です。音楽や書籍、IPコンテンツのデジタルでの展開を考えている事業者だけではなく、個人情報の保護という観点から、医療データの管理としての活用も可能です。

 

日本のコンテンツ市場は右肩上がりで推移していますが、世界市場が拡大しているため、日本市場が占める割合は停滞しています。日本発コンテンツの存在感を世界で放つためにも、エンタメ系ベンチャーのさらなる台頭と大企業との連携が求められています。

 

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

ビジネスプロデュース事業部

木村 純(きむら・じゅん)

BtoB大手製造事業会社にてCVC部門の出資や提携に向けたスタートアップ企業のフィジビリティスタディや先端技術仕様の検証。SaaSモデル事業の立ち上げ責任者として事業開発に従事。中小企業や国内ベンチャー企業との協業により新事業領域における情報管理サービスを提供。デロイトトーマツベンチャーサポート参画後は、最適な協業相手簡単に見つけることができるオープンイノベーションプラットフォーム「sixbrain」の事業開発に従事。

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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