モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年1月12日に開催した「宇宙特集」です。

世界の宇宙市場は2040年に2.6倍の130兆円に

まずは世界の宇宙市場の規模です。2021年は50兆5000億円レベルと言われており、40年には2.6倍の約130兆円まで拡大すると予測されています。現在の消費者家電に匹敵する大きな市場です。

宇宙産業の構造も着実に変化しています。2000年代以前は米国を中心に、国主導の軍事・科学を目的とした宇宙開発が行われていましたが、2010年代以降は民間主導型でビジネス利用と経済性を目的とした宇宙利用に変わり、市場拡大に貢献しています。

国別にみると圧倒的な存在感を示しているのは米国で、その要因は政府・軍によるニーズが高いからです。また、ボーイングなど既存企業との新興企業との間で、民間宇宙輸送機分野の競争を促すことにより、イーロン・マスク氏が率いるSpaceXなどが成長。これによって、輸送サービスを安価に提供できるようになるなど、宇宙産業の強力な基盤を形成しています。

日本の宇宙ビジネスの市場規模は21年で約1兆2000億円にとどまっていますが、政府は2030年に2兆4000億円に倍増するとの目標を打ち出しています。主に宇宙利用産業と呼ばれる衛星データを使ったビジネスと、周辺ビジネスの拡大を目指しています。

国内の宇宙産業の構造は、大手通信企業のニーズを、大手重工メーカーが支える構図が支配的です。ベンチャーも台頭してきていますが、既存の大企業に対抗できるレベルにまでは育っていません。

衛星ビジネスの垂直統合が進む

今後の宇宙ビジネスは(1)衛星ビジネスの垂直統合(2)月面開発(3)宇宙への輸送手段の拡充と、それに付随した低軌道での民間開発の加速-がトレンドの主役となるでしょう。また、サステナビリティ分野の台頭も見込まれます。この分野では、衛星データを用いた炭素排出量、炭素貯蔵量の観測・算出についてのソリューションが本格的に出現すると予想されます。

ビジネストレンドを具体的に見ると米国では、SpaceXに代表される宇宙輸送サービスを手掛ける企業が、衛星の企画から打ち上げ手配、衛星の設計製造、利用に至るまでを1社でカバーする垂直統合の事例が出始めています。日本でもこうした動きが顕在化するとみられています。

月面については、米航空宇宙局(NASA)主導による月面探査計画「アルテミス計画」が2024年以降に本格始動。月面の長期滞在に向けた資源探査や、月軌道上の開発が進められます。

小型衛星向けを中心に宇宙へのアクセス手段が多様化

2023年には日本で、大型ロケットの「H3」と小型衛星向けロケットの「ZERO」、「カイロス」が打ち上げられる予定です。今後は小型衛星向けを中心に宇宙へのアクセス手段が多様化し、さまざまな宇宙サービスの基盤が醸成されることでしょう。

また、防衛という観点から宇宙領域を強化する動きが活発です。一連の動きに伴ってベンチャーが急成長。今後数年かけて日本の宇宙産業の活性化が期待されます。

本日は輸送、宇宙機器・施設運用、利用という3つの領域から5社を紹介します。

 

0.5㌔と超小型軽量タイプの月面探査車(株式会社ダイモン

ダイモン(東京都大田区)は月面探査車(月面ローバー) 「YAOKI(ヤオキ)」を提供します。七転び八起きに由来しており、その言葉通り、転倒しても「起き上がり小法師」のように自動的に起き上がります。また、20~30㍍の高さから落下しても稼働し続ける、月地下空間の探査が世界で唯一可能な探査車です。0.5㌔と超小型軽量のため、1台当たりの輸送費も抑えられる点も特長です。米国民間企業の輸送機に搭載され、2023年に月面に送り込むことが予定されています。

森林の炭素固定量を推定するデータ解析SaaS(株式会社Archeda

Archeda(アルケダ、東京都渋谷区)は、衛星画像や2次元の高性能センサー「LiDAR(ライダー)」を活用し、森林の炭素固定量を推定したり地盤変化を可視化する、自然環境のデータ解析SaaS「Green Insight(グリーンインサイト)」を提供します。解析機能を活用することで、森林の平均樹高や被覆率の推定、地盤変化の検知など、自然環境の変化の可視化やモニタリングが可能です。SaaSサービスのため、好きなときにクラウド上で森林の状況を把握できる点も強みです。

世界初の気球による宇宙遊覧(株式会社岩谷技研

岩谷技研(札幌市北区)は高硬度プラスチック気球の製造と気球打ち上げサービスで、世界初の気球による宇宙遊覧を目指しています。2時間かけて上昇し、宇宙空間で1時間遊覧飛行を行い、1時間をかけて海上に下降するもので、ロケットによる宇宙遊覧のように特別な訓練や言語習得が不要。費用も抑えられる点が特徴です。宇宙旅行に必要となるガス気球、気密キャビン、各種機器のすべてを自社工場で設計・開発・製造しており、2023年度中での実現を目指しています。

成層圏からロケットを空中発射して衛星軌道投入(AstroX株式会社

AstroX(アストロエックス、福島県南相馬市)は、Rockoon(ロックーン)方式での衛星打ち上げロケットを提供しています。気球によって成層圏までロケットを運び、そこからロケットを空中発射して衛星軌道投入を行います。日本は土地が小さく射場確保にコストを要するため、小型衛星ロケットの発射数が伸びていませんが、Rockoonであれば解消されます。2025年の宇宙空間到達、28年の衛星軌道投入を目指しており、今後は技術実証機の開発を加速させていきます。

ISSで小型ライフサイエンス実験(株式会社DigitalBlast

DigitalBlast(デジタルブラスト、東京都千代田区)は、小型ライフサイエンス実験装置「AMAZ(アマツ)」の提供と、新たな宇宙の経済圏の創出を行う日本国内初の「民間宇宙ステーション(CSS)構想」を掲げています。AMAZは生物の重力応答に関する基礎データを取得できます。このため、ライフサイエンス分野の科学発展や宇宙空間に人が居住できる環境を目指し、2024年に国際宇宙ステーション(ISS)での設置・運用を予定しています。

 

デロイト トーマツ グループでは宇宙産業の事業開発に特化したアクセラレーションプログラムを展開しています。大学や政府、自治体とベンチャー企業とをマッチングすることで、新しいビジネスを立ち上げるのが目的です。ベンチャーの活躍の場を広げることが、国内の宇宙ビジネス市場の活性化につながることは確かです。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部

森 智司(もり・さとし)

国立大学大学院にて航空宇宙分野の研究(流体解析・機械学習を用いた極超音速飛行体の形状設計)を行い、修士号を取得。
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社に入社後は、国内宇宙ベンチャー企業の支援や宇宙輸送システム動向の調査、宇宙ビジネスアクセラレーションプログラムの企画・運営に従事。
主な業務実績は、国内宇宙ベンチャーによるピッチイベントの企画・運営、官公庁向け宇宙輸送システム動向の調査、宇宙ビジネスアクセラレーションプログラムの企画・運営、モビリティ領域における海外ベンチャー企業・先端技術の動向調査、国内大企業におけるR&D起点のカーブアウト・業務提携支援等。
 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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