モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2022年10 月13日に開催した「文化・芸術特集」です。

 

2021年のNFTアート市場は前年比372倍に

日本では、ビジネスという観点から文化・芸術を重視しようという動きが顕在化しています。象徴的な事例が、2018年に文化庁で発足した「文化経済・国際課」。文化・芸術界と経済界との対話チャネルを設け、文化資源を生かした経済価値を創出するとともに、アート市場の活性化と、アートの持続的な発展を可能とするシステムの形成も重点課題として掲げています。

政府ではこうした方向性を踏まえ、文化・芸術のグローバル展開、DXの推進などに力を入れる方針を掲げています。それを実現するには新たなテクノロジーやイノベーティブなビジネスモデルがカギとなるため、スタートアップ企業の活躍に期待が高まります。

今回は、文化・芸術の中でも比較的市場が成熟している「美術(アート)」に焦点を当てます。

世界最大級の現代アートフェアを開催するアート・バーゼルなどによると、2021年度の世界のアート市場は651億㌦(約8兆9000億円)です。日本市場はその3%にも満たない規模ですが、文化・芸術の中では大きく、注目すべき分野です。

特に世界的に伸びているのが、ブロックチェーン技術によって作成される代替不可能なデジタルアート「NFTアート」です。社会のデジタル化の流れに沿って、美術市場でもデジタル作品への投資が重視されている点を背景に、2021年の市場は20年に比べ実に372倍へと拡大。アート市場に占める比率も17%となりました。

国内では協業によってイノベーションを創出する動きが顕在化しています。アーティストと鑑賞者の新しい関係性が生まれる場づくりに向けたアート・コミュニケーションプラットフォームを運営するThe Chain Museumは、住友商事、KDDI、TBSイノベーションパートナーズ等と資本業務提携を締結。アート領域での事業開発を目指します。

 

現代アートの情報に特化したプラットフォーマー

寺田倉庫と三菱地所、TSIホールディングス、東急はコンソーシアムを組成し、株式会社MAGUS(マグアス)を設立、2021年秋から本格始動しました。「アート」に関するメディアを通じて人や企業をつなぎ、日本国内における現代アートの情報に特化したプラットフォーマーを目指します。具体的にはビジネスにアートを活用するコンサルティングやオンライン・オフラインでのセミナー、世界中のアートに関わる情報を企業や人に届けるニュース事業を展開。富裕層の取り込みに力を入れています。

また、美術や音楽を中心に、文化・芸術領域に取り組むスタートアップは増えており、今回はプラットフォーム、プロデュース、サブスクリプションという3つの領域から5社を紹介します。

壁画を活用したプロデュース事業(WALL SHARE株式会社

WALL SHARE(ウォールシェア、大阪市北区)は、街に存在する巨大なアート、ミューラル(壁画)を活用したプロデュース事業を提供しています。描いている現場を見てもらうなど制作プロセスを体感できることに加え、挑戦しやすく、企業が直接的に関わることができる点が魅力です。同社はアーティストとクライアントとの間に立ち、双方の要望をすり合わせる役割を果たしています。プロデュースした作品数は全国で90以上に上り、2025年までに400作品を目指します。

 

文化体験をサブスクで(株式会社Sonoligo

Sonoligo(ソノリゴ、名古屋市中村区)は、文化体験のサブスクリプションサービスを展開しています。コンサート鑑賞やスポーツ観戦、美術館などで開催される文化イベントに、月額定額で何度でも参加できるサービスを提供。 学生や社会人、ファミリーやシニア世代などが、思い思いに外出・イベントを楽しむ新しいライフスタイルを広げます。特に伝統芸能やクラシック音楽など新規顧客の開拓が難しい分野で、ファンづくりをサポートします。

 

有名アート作品のオーナー権を1万円から購入(株式会社ANDART

ANDART(アンドアート、東京都港区)は、有名アート作品のオーナー権を1万円から購入できるアートの小口投資プラットフォーム「ANDART」を展開しています。作品の管理はANDART社が行い、基本的には専用の倉庫に保管されるという新しい所有の仕方となります。所有権を購入したアート作品はユーザー間での売買が可能なため、価値が上がった際に資金に変えることも可能です。現在の作品数は49作品。草間彌生や奈良美智、バンクシーなど、国内外の有名作家の作品を取りそろえています。

 

アジア最大級のグローバル・現代アート・マーケットプレイス(株式会社TRiCERA

TRiCERA(トライセラ、東京都港区)は、アジア最大級のグローバル・現代アート・マーケットプレイス「TRiCERA ART」を提供、世界中から約7万点の作品を売買しており、126カ国以上、7000人を超えるアーティストが参加。日々、数百点の作品が追加されています。アートアドバイザリーによる多言語対応(8か国語)の相談・提案に加え、額装と設置などの各種サービスによって、月間売り上げは昨年比で10倍に増えています。

 

ワインなどのオルタナティブ資産を投資、管理(株式会社between the arts

between the arts(東京都港区)は、オルタナティブ資産と呼ばれるアート、時計、ワインなどをコレクションとして投資し、管理するサービス「COLLET」を提供します。好きで集めているため売却のタイミングがつかめず、レバレッジが効かないといった課題をデータ化、リースバック、 Web3.0 という3つのフェーズに分けて解決します。現在はアイテムを査定・保管して現金化できるリースバックを活用したサービスを展開しています。

 

 

日本は世界に誇る数多くの文化的資産を保有していますが、文化・芸術は親しみにくいというイメージが先行し、有効活用されていません。ただ、さまざまなイノベーションやスタートアップの誕生により、誰もが気軽に文化・芸術にアクセスできる環境・インフラが整ってきました。ビジネスとしての裾野も広がってきています。スタートアップ企業によるイノベーティブなアイデアやテクノロジーの活用により、今後はより多くのビジネスチャンスが見込めることでしょう。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部 

梅村 里奈(うめむら・りな)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2021年4月、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に新卒入社。文化・芸術に関しては「人文科学(アメリカの文化と社会)」の副専攻の認定を修了しているほか、学生時代に文化芸術イノベーションファームであるYHIAISM株式会社にてYHIAISM Exhibitionの企画を経験。趣味はブロードウェイミュージカルの鑑賞。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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