モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。今回は、4 月17 日に開催した量子特集です。

金融ではポートフォリオの最適化に活用

次世代計算機として期待される量子コンピューターの世界市場は、2040年に100兆円を超えると言われています。現在のAI市場を上回るほどの規模で、経済的にもかなりのインパクトを残すと期待されています。日本市場は22年が195億円でしたが、30年には2940億円に達すると矢野経済研究所では予測しています。この間の年平均成長率は40.4%になる見通しです。

こうした国内外の流れに伴ってスタートアップへの出資も盛り上がっており、多くのユニコーンや上場企業が、まだ実用化前にもかかわらず存在しています。

量子コンピューターは光や原子、電子など量子と呼ばれる極めて小さな粒子を利用した計算機です。スーパーコンピューターで何年もかかる計算を瞬時に実行でき、さまざまな領域で使用される見通しです。

例えば製造業の素材化学分野では開発のための素材候補の探索に加え、温度・圧力などのプロセス制御やエネルギー消費の最適化といった応用事例が考えられます。金融ではポートフォリオの最適化や金融デリバティブの価格評価といった分野で重要な役割を果たし、経済インパクトは世界全体で3900億~7000億ドルに達すると想定しています。ライフサイエンスでは遺伝子・医療画像の解析や、新薬の開発を劇的に効率化するといったユースケースが考えられます。

 

実用化に向けた課題は量子ビット数を増大させること

量子コンピューターの実用化に向けた課題の一つが、計算の基本性能であり性能の目安となる量子ビット数をどんどん増大していくことです。ただ、量子は微小であるためノイズに弱いという特徴があり、ノイズを受けた時の誤りを検出・訂正するという機能が重要になってきます。こうした課題を克服するためにさまざまな開発が繰り広げられています。グローバルでGoogleやIBMといったビッグテックやスタートアップが活躍しており、原子を一つずつ制御する中性原子や超電導、原子が電気的性質を帯びているイオンを使って計算するイオントラップといった方式で実用化を競っています。

大企業とスタートアップの事業連携も積極的に行われており、量子技術の社会実装に向けた動きも加速しています。LQUOM(ルクオム、横浜市保土ヶ谷区)は大手通信会社と連携し、複数量子デバイスの実用環境下での接続実証に取り組む共同研究を開始。より拡張性の高い量子情報処理技術の実用化が期待されます。

 

ホームセンターと組み、刻々と変わる受注状況に追従する配送計画を策定

Quanmatic(クオンマティック、東京都新宿区)はホームセンター大手と概念実証(PoC)を行いました。このプロジェクトでは、近距離配送サービスの効率化を目的として、量子計算技術を活用することで刻々と変わる受注状況に追従する配送計画の立案技術を開発。配送エリアの拡大や配送車両の集約・削減、配送件数の増加につなげていきます。

Quemix(キューミックス、東京都中央区)は量子コンピューターの社会実装に向けた研究開発の加速と材料計算市場での事業拡大を目的に、大手SIerと資本提携を行っています。

量子業界は、量子コンピューティングのハード・ソフトやその制御装置だけではなく、量子技術を用いた通信・暗号やセンサーなどへの活用が行われており、各領域において国内外で多くのスタートアップが活躍しています。今回はその中から5社を紹介します。

量子ビットの誤り訂正技術でブレークスルー

QuEra Computing Inc.

米ボストン発のQuEra Computing Inc.(クエラ・コンピューティング)は、量子ビットの誤り訂正技術でブレークスルーを起こし、世界中で注目を集めています。迅速な大規模化を可能とする中性原子型量子コンピューターによって、オンプレミス(自社所有)対応の量子システムの提供や顧客との共創による量子アプリケーションの開発、先端技術を活用した共同研究の機会創出に取り組んでいます。マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学との協調的かつ強固な技術連携により、実用的な量子技術の活用を推進していきます。

 

ダイヤモンド基板の開発、量産化を目指す

株式会社VISION IV

VISION IV(ビジョンフォー、横浜市鶴見区)は量子、次世代半導体への応用が期待されており、最も注目されているマテリアルの一つであるダイヤモンド基板の開発、量産化を目指しています。高濃度のホウ素を添加することで、不純物が極めて少ない高品質な基板の試作に成功しており、ウエハーの安定生産を課題に掲げています。次世代パワー半導体市場で炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に次ぐ市場を創生し、将来的にはインチサイズのダイヤモンドウエハーを提供する考えです。

 

光量子接続型QPUネットワークの構築を目指す

株式会社Qubitcore

Qubitcore(キュービットコア、横浜市西区)は独自技術により、大規模な集積化を実現しながら十分な精度を保証できる、誤り耐性型汎用量子コンピューター(FTQC)の開発を行っています。複数の量子プロセッサー(QPU)モジュールを光接続することで、量子ビット数の拡張性とスケーラビリティを飛躍的に高める「光量子接続型QPUネットワーク」の構築を目指しています。現在は試作フェーズですが、2026年までに光接続型QPUモジュールのプロトタイプを構築する予定です。

 

研究と産業の橋渡しを担い、量子エコシステムの構築を牽引

株式会社QunaSys

QunaSys(キュナシス、東京都文京区)は、量子コンピューター向けアルゴリズムとソフトウェアの開発を専門に行っています。昨年には、高度な量子アルゴリズムを効率的に開発・実行できる開発者向けのソフトウェア開発キットをリリースしました。これに加え、産業界における量子技術実装を目指す共同研究や、業界横断型の量子コミュニティ「QPARC」の運営、さらには企業や大学を対象とした量子人材の育成も支援。研究と産業の橋渡しを担うことで、量子エコシステムの構築を牽引していきます。

 

ロンドン、東京、ニューヨークを連携するプラットフォームの確立

Oxford Quantum Circuits

Oxford Quantum Circuits(OQC、オックスフォード クオンタム サーキッツ)は、超伝導ゲート式の量子コンピューターを開発し、クラウドアクセスによる「Quantum Computing as a Service(サービスとしての量子計算)」を提供しています。ロンドン、東京で三世代目の量子コンピューターを2023年から運用しており、多くの研究者、企業が量子アルゴリズムの開発などで利用しています。今後は北米市場に進出。ロンドン、東京、ニューヨークの金融3拠点を連携するプラットフォームの確立を目指します。

2025年は量子物理学の基礎理論が構築されて100年となる節目の年です。5月には、量子コンピューターの実社会での応用や産業化を目指した新たな研究拠点が、産業技術総合研究所(茨城県つくば市)に完成しました。量子技術の産業化加速に向けて量子系スタートアップの台頭と大企業との連携の加速が予測されます。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
量子技術統括 

寺部 雅能

 

職歴

・デンソー
・住友商事
・デロイトトーマツコンサルティング合同会社

経歴

・車載システム開発
・量子プロジェクトリーダー
・量子プロジェクトリーダー
・スタートアップ投資支援
・(兼)東北大 特任准教授
・量子技術統括

その他

・著書:「量子コンピュータが変える未来」
・経産省・NEDO 量子・AI国プロ 技術推進委員長
・文科省・JST 量子人材育成プログラム Q-Quest 講師
・国内VCアドバイザー
・海外の量子アワード審査員

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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