この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。今回は4月3日に開催した地方創生2.0です。
地方の人口減少や経済停滞といった深刻な問題に一体的に取り組むことが地方創生の意義で、石破茂首相は「地方創生2.0」を看板政策に掲げています。
地方創生ビジネスの領域は、観光・インバウンドをはじめ、食・農林水産、医療福祉、公共インフラに至るまで幅広い。しかし、都市圏から地方都市への人口の移動が進んでいないことや、国からのお金が地域の中で還流せずに地域外に流れたままでいるなどの事象が、課題として山積しています。
こうした状況を踏まえ地方創生に取り組むにあたって、まず人材面では、強い意思を持ったキーマンと外部の知見を備えている人材がしっかり連携することが重要です。これと並行して、地域資源をしっかりと磨きこみ、ビジネスへと昇華させる作業が求められます。お金に関してはコンサルティング会社へ支払って終わるのではなく、しっかり地域の中で稼いで循環していくというモデルを作っていくことが重要だと認識しています。
地方創生×スタートアップの事例を見ると、地方創生1.0と言われていた10年前のころは、デジタル化やプラットフォーム型といったサービスが主流で、体験予約や人材のマッチングなどが脚光を浴びていました。これに対し地方創生2.0の現在は、地域特有の課題や資源を活用してビジネスに取り組んだり、地方に本社や主力拠点を置きながら、地域に根差した活動を展開しているケースが増えています。また、地域の中に、経済循環や持続可能なモデルを構築している点も特徴です。例えば街づくり会社のSHONAI(ショウナイ、山形県鶴岡市)は政経塾を運営し、次世代地域リーダーの育成に力を入れています。
今後については、地域の資源に基づいた事業の多角化を進めるスタートアップが増えていくと思っています。
大企業もさまざまな切り口で、地方創生スタートアップとの連携を進めています。大手通信会社は出資活動を積極的に行っているほか、豊橋市に本社を置く自動車部品メーカーはイノベーションラボを立ち上げています。
地方創生活動に積極的に取り組むVCも出現しています。名古屋に拠点を構えるCentral Japan Seed Fundは地域課題の解決に特化したファンドを組成。具体的には地域経済の基盤を担う地方豪族企業がリミテッドパートナー(LP)として参画し、地方創生に取り組むベンチャーと緊密に連携しながら地域の課題解決に取り組んでいます。浜松市はファンドサポート事業という形で全国のVC60数社と連携しながら浜松地域へのベンチャーの呼び込みや、地域課題の解決に取り組んでいます。
今後注目したい地方創生のオープンイノベーションのトレンドは、ジョイントベンチャーモデルです。従来はビジネスアイデアを導入して終わりというケースが少なくなかったが、最近は地域内外の企業が相互にリスクを取り合って、リソースを出し合いながら地域の課題解決に取り組むケースが増えているからです。
例えば日本全国で街づくり事業を展開しているNewLocal(ニューローカル、東京都中央区)は、酒造りを中心に事業を手掛ける「稲とアガベ」(秋田県男鹿市)と共同で、酒と食を基軸として男鹿市の地域活性化に取り組む新会社を設立しています。地方創生に特化した事業プロデュース会社である「さとゆめ」は、大手電鉄会社と連携し、無人駅や空き家を客室に改修し沿線全体をホテルに見立てる事業に取り組んでいます。
地域に根ざしたプロジェクトを通じ持続可能な社会の実現に取り組むNext Commons Lab(ネクストコモンズラボ、東京都渋谷区)は、エネルギー関連事業を手掛ける三ッ輪ホールディングス(東京都新宿区)と共同で、「Local Coop(ローカルコープ)」というシステムを三重県尾鷲市などで運営しています。コミュニティ内での互助・共助によって暮らしのインフラが維持し続けられるような仕組みをつくり、コミュニティや自然が豊かになっていく状態を目指します。
今回は観光・インバウンド、人材雇用、環境、モビリティなどの領域から5社を紹介します。
水田に囲まれたホテルとして話題を集めている「スイデンテラス」(山形県鶴岡市)を運営しているのがSHONAIです。観光・農業・人材事業を軸に、地方経済の成長を加速させる仕組みを構築。単なる事業運営ではなく、事業ごとに資本を戦略的に調達し、長期的な成長を見据えた経営を行っています。収益源はホテル運営、米流通、農業ロボ開発・資材販売、地方企業の採用・財務支援、教育事業など多岐にわたっており、今後は自社ブランドの新規ホテルや再生案件に力を入れます。
ジオフラ(東京都千代田区)は移動系ポイントアプリ「Prally(プラリー)」を提供しています。移動やチェックインでポイントが貯まる仕組みや、カプセルトイ「プラポン」との連携により、訪れた場所でしか手に入らない限定グッズを提供。人々が地域を訪れる動機を生み出し、地方創生に大きく貢献しています。今後、自治体や企業との連携を通じて、地域ならではのイベントやキャンペーンを実施することで、消費者の行動変容や観光促進など、地域課題解決型の取り組みを広げていきます。
このほし(秋田県五城目町)は、電気も水もないインフラゼロの森を旅の目的地に変えるキャビン型宿泊体験サービス「awake」を提供しています。オフグリッド型の宿泊ユニットのため、水道・電気などインフラ未整備の林地でも設置を可能とし、通常より低コストかつ迅速に観光地開発を始められるようにしました。地域住民の生業や特技(郷土料理や山案内)を滞在型観光のコンテンツとして編集・提供することで、地域での消費単価を高めるノウハウを保有しています。
ライトライト(宮崎市)は、事業を譲りたい事業者と事業を譲り受けたい個人・法人をつなぐオープンネーム事業承継 「relay(リレイ)」を提供しています。業界の常識だったノンネームではなく、会社名や企業情報を公開し想いや魅力をストーリーにして、事業承継のマッチングを全国で多数創出しています。今では全国約100の自治体や商工団体と連携しており、全国の各地域で事業承継を実現することで、移住者と雇用が増え、税収も増えるといった経済効果の創出を目指します。
ジェイキャスエアウェイズ(大阪市北区)はリージョナルエア「JCAS」を展開し、2026年に富山、米子と関西国際空港での就航を目指しており、2030年までに16路線へと拡大する計画です。地域創生事業にも取り組む予定で、食・体験・宿が一体となったツーリズムの企画を進めています。日本各地には十分に活用されていない空港が多数あり、そんな地域同士を航空路線で結んで人の流れを作る「一次交通」と、就航地や近隣エリアへも周遊効果が見込まれる「地域体験」を創出します。
地方創生2.0の基本構想の5本柱は(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生(2)東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散(3)付加価値創出型の新しい地方経済の創生(4)デジタル・新技術の徹底活用(5)「産学金労言」の連携など、国民的な機運の向上-です。これに基づき政府は、今後10年間にわたって集中的に取り組む課題を取りまとめる予定を表明しており、地方創生関連スタートアップの活躍の場はさらに広がるでしょう。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
スタートアップ事業部 東海オフィスリーダー
篠原 佑太郎(Yutaro Shinohara)
略歴
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
—————————————————————————————————————————————-
Morning Pitchでは、上記のような各回テーマ概観の解説を
資料や動画にして有料会員様限定でお届けしています
解説資料・・・Morning Pitch有料会員
解説動画・・・Morning Pitch Innovation Community(MPIC)会員
—————————————————————————————————————————————-