この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2月13日に開催した「物流特集」です。
世界の物流市場はコロナ禍やウクライナ戦争の影響を受けながらも、電子商取引(EC)の拡大やグローバルなサプライチェーンの強化を背景に伸び続けています。2028年には18年の約2.5倍に相当する14兆円に達するという予測もあります。
世界の資金調達においても、物流関連テックは年間で1000億円を超えており、調達額・取引件数ともに多く注目度が高い領域です。その中で投資額、件数ともに最も多いのがサプライチェーン技術です。件数ベースでみると、SaaSやAI関連を活用したスタートアップへの人気も高まっています。
直近3年間の資金調達状況を見ると、アメリカ、タイ、インド、中国など、複数の国に分散しており、物流テックの需要と期待はグローバル全体に広がっているのが特徴です。全般的に、レイトステージの企業がここにきて大型の資金調達を実現し成長を加速させています。
その一つが米国のZipline(ジップライン)です。ドローン宅配便の設計・製造を行っており、大手スーパーの米ウォルマートなども顧客の1社で、米国や日本の福江島(長崎県五島市)などで配送センターを運営しています。アフリカのルワンダ、ガーナでじゃ血液やワクチンなど医療関係の物流でも力を発揮しています。
ドイツのCargoBeamer(カーゴビーマー)は、トラック輸送の一部を鉄道に切り替えるモーダルシフト事業を展開しています。独自技術によって、あらゆるタイプのセミトレーラーを道路から鉄道まで簡単に移動し、長距離輸送することが可能です。鉄道への切り替え作業は自動化されており輸送会社の待ち時間はなく、わずか20分で同時に積み下ろしすることができます。
グローバルでも人手不足は課題となっており、今後の注目技術は「自動運転」です。ここ数年は優秀な技術者が立ち上げたスタートアップが着実な実績を残しています。Gatik(ガティック)は、北米の中距離輸送領域で自動運転物流サービスを提供。高度なAI技術を取り入れた小型・中型の自動運転トラックを使用して、主に物流倉庫や小売店間の物流サービスを展開しています。日本の大手トラックメーカーなども出資しています。
日本では改正物流法が2024年に施行され、時間外労働が960時間に制限されました。残業規制のなかった時は毎日512㌔走ることができていたトラックが、規制後は1日425㌔しか走れなくなり20%近く減少します。何も対策を講じなければ30年度には輸送力が34%不足するという指摘がありますが、人の採用は難しくコストも増大しているのが現状です。
こうした動きを踏まえ、物流施設の自動化・機械化の推進、効率化・省人化やドローンを用いた配送などにおいてスタートアップが開発した技術の活用が進んできています。
物流2024年問題を乗り越えるため、荷主側でも連携が進んでいます。キーワードは、積載率の向上やドライバーの待機時間の削減、共同運行、オフピーク輸送です。大手物流会社は複数の企業とともに、各社ごとに手配していた関東~関西間のトラック輸送を共同運行へ切り替え効率的な配送を実現し、運転時間は約38%削減できる見通しです。
また、「3K職場」というイメージからの脱皮を図り、人材の獲得に力を入れるため、最新鋭の設備・ソリューションを備えた次世代型物流施設を整備する動きも相次いでいます。単なる物流拠点ではなく、地域住民・入居企業の交流の場としても活用されています。
大企業がスタートアップの優れた技術を取り入れるケースも増えています。名古屋大発スタートアップのオプティマインドは酒類販売大手と連携し、6月から新たな配送システムを導入します。より消費者に近いラストワンマイル領域で配送業務の効率化を推進することは、物流業界全体の課題を解決するのに有効な事例だと言えるでしょう。
また、大手物流会社が進めるドローン活用のプロジェクトでは、山間地域の生活利便性向上を目指すため、日本気象協会や大手ドラッグストアも加わりました。
今回はドローン、国際物流、AI・DX、フルフィルメント、倉庫オートメーションの領域から物流テック5社を紹介します。
エアロネクストは大手物流会社と提携し、非効率的な陸上輸送をドローンとの混合配送で効率化する仕組みをパッケージ化しています。過疎地域や離島など全国10地域以上で定常的に配送サービスを提供しているほか、モンゴルなど海外でも展開しています。また、産業用ドローンを安心安全に飛行させるための重心制御技術をコアに、現在まで500件を超える知財を保有。複数の国内大手ドローンメーカーへ技術ライセンスを提供しており、最終的には、こうしたドローンの販売・運航サービスを展開します。
LOKIAR(ロキアー)は、食品物流の全体設計から実務(配送・保管)までをワンストップでサポートする新しい物流会社です。自社の物流管理システムを活用することで、複雑なサプライチェーンや収支・採算にかかわる状況を可視化し最適化します。また、メーカー側と中小運送会社を直接マッチングする仕組みにより、多重下請け構造を解消。高水準の配車効率と積載率向上を同時に実現し、大手にはない柔軟なサービス展開が可能です。さらに、AI予測を活用した需要予測などで迅速かつ低コストの物流網を構築します。
Guide Robotics(ガイドロボティクス)は屋内位置測位システムを提供しています。カメラやイメージセンサーを活用して自分がいる場所の推定と周辺の空間把握を同時に行う技術をベースにしたもので、工場や倉庫内の作業のDX化を支援。作業動線や滞留場所の可視化によりムダを発見し、工程の最適化を通じて作業効率の向上を図り、データ駆動型での運営をサポートします。また、クラウドAPIを通じて外部システムとの連携やデータ分析が可能となり、導入先のDX推進を加速させることも可能です。
knewit(ニューイット)は、複雑なサプライチェーンと古い管理手法がもたらす非効率性を解消するため、クラウド型管理プラットフォーム「ニューイット」を提供しています。直感的なUIや柔軟な拡張性、外部システムとの連携機能を実現し、従来型の受発注や物流管理業務を刷新します。これにより業務効率の向上や販管費削減、品質の維持を支援します。今後は、段階的に機能を拡充。ユーザー体験の向上によるデジタル変革を推進し、サプライチェーン全体を網羅する統合的なソリューションへの発展を目指します。
シンガポール発のLogipeace(ロジピース) Pte.Ltd.は、タスク管理のオールインワンプラットフォームを提供しています。社内外の情報共有を進め書類作成・保管業務をDX化し、非効率的な繰り返し作業を削減。人的ミスを最小限に抑えるとともに、情報の可視化と企業ガバナンスの強化を図ります。将来的にAIを活用して物流業界の人手不足を解決し安心感を提供。長期的には、グローバル企業をターゲットに、蓄積したデータを活用したAIの開発に力を入れ、人間と共存する物流オペレーションの実現を目指します。
改正物流法は2026年から義務化され、貨物取引の上位に位置する約3000社の特定事業者は物流効率化に対する取り組みや、その結果の定期報告を行う必要があります。国が示す判断基準に違反して勧告を受けた場合、違反した事業者は実名を公表されます。こうした事態を回避するにはDX化が重要な役割を果たすだけに、物流テック関連サービスに対するニーズは一段と高まりそうです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部
小池 俊光(Toshimitsu Koike)
大手不動産デベロッパーを経て、コンサル・IT企業・
投資ファンドを巡り現在に至る
・デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会
・事業再生、M&A、不動産/ホテル事業に関するアドバイザリー業務に従事
・不動産テック企業
・東証上場2社(IT企業と不動産企業)の合弁企業取締役として、事業の立ち上げとスケールを推進
・投資ファンド
・不動産会社への投資、および取締役として事業スケール、DX化、子会社M&Aにかかる事業戦略立案、経営企画部長/事業部長の立場でけん引
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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