この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2月27日に開催した「2030年の未来をつくるベンチャー特集」です。
日本は2004年以降、総人口と労働人口が減り続けており、物流・建設を筆頭にあらゆる業界で人手不足の問題が深刻化しています。大手人材派遣系のシンクタンクによると2030年には必要な労働人口から644万人が不足する見通しで、抜本的な対策が不可欠となります。その一つがAIの進化に伴う代替作業です。例えばコールセンターなどは、AIに置き換わる事例が増えていますが、2030年ごろは人間のように広範な知的活動を遂行できる汎用人工知能(AGI)の活躍の場が広がる可能性があります。
2030年代に向けて進化を遂げるのはデバイスです。拡張現実(AR)などクロスリアリティー(XR)技術をよりリアルに体感できる形へ進化していくと考えられ、高速通信規格の5Gから次世代通信規格の6Gへと移行する際に、新しいデバイスが登場するのではと推測しています。自動運転技術も着実に進化を遂げつつあります。また、現段階では一定状況下で運転操作や目視が不要なレベル3の開発が進められていますが、30年代には特定条件下で運転手が不要なレベル4が実装する見通しです。
一方、埼玉県八潮市での道路陥没事故で浮き彫りになったように、老朽化したインフラ対策は喫緊の課題です。1960~70年代に建設のピークを迎えた上下水道や高速道路や橋脚などは耐用年数が50~60年と言われ、2025年から2030年代にかけて大規模修繕が必要な時期に突入するからです。ドローンを活用した点検が進んでいますが、効率的な修繕につながる新しい技術へのニーズが高まっています。
こうした一連の流れを踏まえると2030年には大変革期に突入し、第4次産業革命が起きることが予測されます。それに伴い、特にイノベーションが進むとみられるエンターテインメント、食、モビリティ、地方創生、ヘルスケアという5つの領域に焦点を合わせて2030年に向けた動きを紹介します。
エンターテインメントは無料で楽しめるショート動画と、有料ながら身体で感じることができるコンテンツといった具合に二極化が進むと予測しています。視聴時間が短いショート動画は、何かをしながら視聴できる点が特徴で、隙間時間を埋めるような動画コンテンツへの人気が高まっています。また、フィジカルとデジタルを掛け合わせた「フィジタル」という造語が脚光を浴びているように、没入感を楽しめるテーマパークを整備する動きが国内外で相次いでいます。
食に関しては世界の人口増に伴う食糧不足と、温室効果ガスの抑制という既存の食システムが抱える二つの課題に対応していく必要があります。課題解決に取り組んでいるのがFoodTech系スタートアップで、微生物発酵やゲノム編集といった技術を活用して新しい食品の開発を進めています。
モビリティ領域では、利用者の減少や運転手不足によるバスの減便などの課題が山積する、地方の公共交通対策 が重要になってきます。また、既存の交通手段がもたらす負の解決につながるソリューションとして注目を集めているのが、マイクロモビリティです。電動キックボードや電動アシスト自転車に代表される、都市部での短距離移動に適した交通手段で、2030年にかけて市場も大きく拡大する見通しです。
地方創生については現在、内閣府が全国を7エリアに分けてスタートアップの拠点都市を作った上で、グローバルな観点を踏まえながら人を呼び込み地域活性化に乗り出しています。ただ、横並びで同じようなことに取り組む傾向が強いのも事実。①札幌(農業・海洋・宇宙)②仙台(医療・ロボット・素材)③名古屋(モビリティ・AI)④大阪・京都・神戸(バイオ・ヘルスケア・モノづくり)⑤広島(エネルギー)⑥福岡・北九州(ロボット・半導体・化学製品)―といったように、各地域が特性を十分に発揮しながら東京と切磋琢磨する形で戦い成長することが望ましいと思っています。
ヘルスケア領域では、皮膚表面に存在する菌のバランスを整え肌本来の力を引き出すマイクロバイオーム美容が注目されており、化粧品への展開が進むとみられます。今回は5つの領域で活躍する5社を紹介します。
CinemaLeapは、国内最大級のXRエンターテインメント施設「IMMERSIVE JOURNEY」を運営しています。広い空間を作って常時75名という多数の参加者が自由に歩き回きながら一つのコンテンツを同時に体験できるのが特徴で、すでに来場者は1万人を突破しています。同社はXRの映画製作にも携わっており、これまでベネチア国際映画祭に5年連続、カンヌ国際映画祭に2年連続でノミネートするなど、オリジナルコンテンツの開発においても強みを発揮しようとしています。
Kinish(キニッシュ)は、乳製品の中心的な成分である牛乳たんぱく質の一つ、カゼインを生成する稲の開発に取り組んでいます。乳牛は二酸化炭素の約28倍の温室効果があるメタンガスを排出するため、地球温暖化対策の一環として乳製品を完全に代替するソリューションとして注目を集めています。稲は高さ20㌢の品種で、植物工場での大量生産を実現することにより、場所を問わない安定生産を実現します。ブランドづくりの観点から、まずはアイスクリーム市場に参入し、認知度を高めたうえでミルク商品に参入する計画です。
おてつたびは、お手伝いと旅を掛け合わせた人材マッチングサイトを運営、旅をしながら行先でお手伝いをして働くことができるサービスを提供しています。すでに全国1700以上の事業者が活用し、登録ワーカー数は7万人に達しています。大学生を中心に10~20代が半数を占め、50代以上の層も拡大しつつあります。受け入れ企業の85%が「想像以上に良い方と出会えた」と評価し、関係人口の創出にも貢献。労働力不足の解消に加え、地域経済の活性化にも貢献するサービスとして今後の需要拡大が期待されます。
ICOMAは折りたためる電動バイクの「TATAMEL BIKE」事業を展開しています。開発中の「tatamo!」は、スーツケースサイズに折りたためる構造で、持ち運びやすさを重視した設計が特徴です。サイドパネルにはディスプレイを搭載、デザインのカスタマイズや広告利用など多用途展開が可能です。また、AI技術を活用した運転補助機能やドライブレコーダーにより、安全性の向上と利便性を追求。パーソナルロボットの概念を取り入れた次世代型モビリティを提供します。
KINS(キンズ)は、下川代表が前職であるクリニック時代に多くの重度の慢性疾患患者を診てきた原体験を踏まえ、菌(マイクロバイオーム)に着目した事業を展開しています。具体的には健康な人、疾患のある人のマイクロバイオームを比較研究し、慢性疾患の根本的な解決への貢献を目指しており、すでに約20億円の売り上げ実績があります。動物病院や製薬会社との協業を進めているほか、化粧品やサプリメント、食品の開発に取り組んでおり、新たな挑戦として治療領域にも進出しようとしています。
第3次産業革命はコンピューターやインターネットの発展に支えられたデジタル革命でもあり、スタートアップも主力プレイヤーとして名を連ねています。2030年にも到来するとみられる第4次産業革命では、スタートアップの存在感がさらに増すことになりそうです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部
川口 翔吾(Shogo Kawaguchi)
リアル・デジタルが融合した新しいシステム構築を得意とし、Morning PitchのDX推進にもPMとして従事。
大規模プロジェクトの立ち上げ経験
・生命保険(デジタル)
・損害保険(デジタル)
・通信(デジタル)
・インキュベーション施設(リアル)
新規事業
・AI voice botのコールセンターシステム(デジタルSaaS)
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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解説動画・・・Morning Pitch Innovation Community(MPIC)会員
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