この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、1月16日に開催した「InsurTech(インシュアテック)特集」です。
InsurTechは保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉で、保険会社が業務にテクノロジーを活用して、仕事の効率や収益性を高めたり、今までにないサービスを生み出したりすることを指しています。
ユーザー別に見ると、保険代理店向けには契約管理、業務効率化、マーケティング支援などの領域があります。保険会社を対象としたものについては、大企業の業務効率化や商品・保険金請求関連、アンダーライティング(引き受け)など、業務のコア部分のサービスが挙げられます。また、toCのサービスとしては、証券管理や新保険、プラットフォームなどがあります。
InsurTech市場は大きく成長する見通しで、世界市場は2031年までの年平均成長率が52.9%に達するという見方もあります。実際、海外のInsurTech企業は着実に増えてきており、大手企業との協業事例も相次いでいます。
日本市場の年平均成長率も36.2%と、大幅な伸びを示す見通しです。背景の一つが、顧客の保険加入の目的や保険会社を選択する際のポイントが変わってきている点です。具体的には、「万が一に備えるもの」という部分だけでなく、加入によって保険以外の付加価値があるものを選ぶといった顧客が増えています。また、「簡単にオンラインで契約を完結させたい」といったように、オンライン加入へのニーズが急増していることが挙げられます。
二つ目は、Fintech(フィンテック)の発展です。経済産業省が2017年に「Fintechビジョン」という構想を発表し、金融×テクノロジーの重要さを掲げたことをきっかけに、国内ではInsurTech系のスタートアップが増えました。これに伴い海外企業の日本市場への進出や、国内企業による海外InusrTech企業への投資活動が活発に行われるようになったのです。
保険会社や代理店の日常業務には、昨今のテクノロジーによって解決し、改善できる多くの課題があります。
マーケティング・営業では、集客アプローチや顧客管理を効率的に行えるようにすることが課題となっており、顧客体験の向上という観点では、シームレスな購入体験や問い合わせに関するデジタル化の普及が求められています。
申し込み手続きや引き受けなどについては、ペーパーレス化をはじめ、代理店と保険会社間でのやり取り・問い合わせの効率化や、保険会社の社内でのマニュアル検索に関する効率化ツール、AI活用など、さまざまな方策が考えられます。保険金支払いのフェーズでも、支払いの不正検知や自動化、カスタマーサービスのチャネル多様化などが挙げられています。
デジタルを通じ、こうした契約・業務フローの改善を図っていくには、大手のプロバイダーのサービスだけなく、さまざまなスタートアップのサービスを知ることが重要であると考えています。
InsurTech業界にかかわる国内のベンチャー業界の動きを見ると、業務効率化の部分は、保険業界だけでなくFintechとしてさまざまな領域で事業を展開している企業も多く手掛けるようになっています。保険会社向けでは、固有の業務に特化したスタートアップはまだまだ少なく、海外勢から日本に進出してきているような状況になっています。顧客向けという部分ではプラットフォームの提供や、証券管理、新保険サービスといったような形で、さまざまなサービスが展開されています。
国内の生損保関連会社と国内外のスタートアップの協業事例も顕在化しています。大手損保とフランスのShift Technologyは、人工知能(AI)を活用した保険金の不正検知システムの開発を共同で行っています。代理店という領域では、顧客管理システムを提供するhokan(ホカン)と保険ショップの大手運営会社が協業し、業務効率化と顧客満足度の向上を実現しています。
今回は保険業界だけではなく、さまざまな大企業、代理店と連携している5社を紹介します。
Sasuke Financial Lab(サスケ ファイナンシャル ラボ)は、オンライン保険の国内販売で第2位の保険代理店「コのほけん!」を展開しています。50社以上の保険会社の商品比較をはじめ、見積りから申し込みまですべてをデジタル化し「自分に合った保険を、自分で選べる世界」を実現します。また、イラストやインフォグラフィックスを取り入れることで、商品を見やすく分かりやすく掲載しています。口コミや専門家のコメントも充実しており、インターネットがあれば時と場所を選ばず、保険を検討できます。
Akur8 Japan(アキュレイトジャパン)は、保険会社が取り組む価格設定やアンダーライティング、リザービング(支払い備金算出)業務を高度化し、効率化を図るプラットフォームを開発・提供しています。独自の解釈が可能な機械学習アルゴリズムと保険数理の知見を組み合わせることで、高い予測精度と透明性を両立し、保険会社が直面する複雑な業務プロセスを革新。収支分析、保険料の算出、収益性予測プロセスにかかる時間を10分の1に短縮することが可能です。すでに世界40カ国以上でサービスを提供しています。
IB(アイビー)は保険の請求漏れを解決するサービスを提供しており、 主力の「保険簿」では、ユーザーが保険証券の写真をアップロードするだけで、300社以上の保険情報を自動でデータ化し一括管理できます。家族共有や請求診断、保険会社への問い合わせの円滑化など、ユーザーが「いざという時」に保険を適切に活用できるようサポートする機能を備えています。保険販売を行わないため中立で信頼できるプラットフォームを実現しており、将来的には行政機関との連携を強化し、公的申請プラットフォームへと発展させる計画です。
Finatext(フィナテキスト)は、SaaS型のデジタル保険システム「Inspire」を提供しています。ローコードによってデジタル保険を素早く立ち上げることが可能で、生成AIを活用して会議の自動文字起こしや営業日誌の作成をサポート。また、ライフプランのシミュレーションや商品のレコメンドなどを行うことで、保険会社・代理店の悩みに寄り添います。今後は、変額保険・団体保険の領域で基幹システムを開発するほか、個人保険の募集領域以外でデータ・生成AIサービスの開発なども進めていく予定です。
イスラエルが拠点のEasySend Ltd.(イージーセンド)は、欧米やイスラエルの金融業界を中心にノーコード・ローコードのデジタルプラットフォームを展開しています。保険業界などを中心に提供しているのが「EasySend」。直感的に操作でき、紙・PDFの帳票のWebフォームへの変換、顧客データの取り込みや業務フローの自動化が可能です。近年には日本法人を設立し、日本での展開を推進。大手、中堅SIerのシステムインテグレーション開発のパートナーとして、CX/DX推進サービスのデリバリー協業も検討中です。
昨今はライフスタイルや働き方の多様化が急速に進んでおり、顧客が保険に求めるものも大きく変化しています。こうした顧客ニーズに迅速な形で対応するには、顧客動向をリアルタイムで吸い上げる必要があります。その過程で重要な役割を果たすのが保険DX。InsurTech系スタートアップの活躍の場は広がりそうです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリーアンドファンクション事業部
齋藤 英里(Eri Saito)
・大手損害保険会社を経て、外資系コンサルティングファームにて、主に保険業界でIT・DX案件、経営戦略策定、新規事業立案、M&Aアドバイザリーなど幅広いプロジェクトを経験
・デロイトトーマツベンチャーサポートに参画後、民間企業やスタートアップに対する新規事業開発・海外戦略策定支援、官公庁スタートアップ支援案件(海外展開文脈)などに従事
・海外スタートアップビジネスモデルデータベースである「PMFBase」チームにて、民間企業のあらゆる新規事業支援を担当
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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