モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。


今回は、12月12日に開催した「サーキュラーエコノミー(循環経済)特集」です。

海洋でも生分解される植物由来のバイオマスプラスチック製ストロー

 

プラスチックごみの削減を目指す国際会議が、2024年12月に韓国で開かれました。しかし残念ながら、ロシアやサウジアラビアなどの原油産出国と、積極的な生産規制を望む欧州連合(EU)や島しょ国との間では意見の隔たりが大きく、合意形成には至りませんでした。こうした中、国内ではイノベーションを通じ、顧客体験を向上させながら既存のプラスチックごみの削減を目指す動きが顕在化しています。スターバックスコーヒージャパンは、これまで使用していた紙のストローに代えて、大手化学メーカーが世界で初めて開発した海洋でも生分解される植物由来のバイオマスプラスチック製ストローを、順次導入しています。

資源循環を後押しするエレンマッカーサー財団はサーキュラーエコノミーについて、二つの世界的なアジェンダに対処するためのシステムソリューションと位置づけています。その一つは気候変動対策。世界の平均気温が過去最高を更新し続けている点を踏まえ、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルをいかに解決できるかが、大きな課題となっているからです。二点目が緑地や海、河川などの自然資本と生物多様性の回復です。自然資本の崩壊によって2030年までに、世界のGDPが大きく減少するとの指摘もあり、自然の回復・保全に取り組む「ネイチャーポジティブ」が重要なテーマとなっています。経済産業省も成長志向型の資源自律経済戦略を打ち出しており、スタートアップ・ベンチャー企業への支援を含め、今後10年で2兆円以上を投資する方針を掲げています。

米国ではESG投資が減速

2022年の世界のESG(環境・社会・企業統治)投資は約3兆㌦。20年比で14%減少しました。日本は49%、欧州は16%の伸びを示しました。しかし米国は、持続可能性に貢献しているかのように見せかけるESGウォッシュ規制により41%も減少。結果として全体の減速につながりました。また、バイデン政権は電気自動車(EV)や再生可能エネルギー設備を支援するインフレ抑制法(IRA)を導入し、22年から24年にかけて気候変動対策に、2650億㌦という巨額の投資を行いました。これに対し第二次トランプ政権はIRAを縮小・撤廃する方針を掲げており、ESG投資がさらに後退する恐れがあります。

政策面という観点から世界の動きを見ると、プラスチック戦略をはじめとして欧州が先行しています。直近で採用が進んでいるのは、原料の産地・加工場所、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量、再生原料の利用率などの情報をデータとして管理・開示させる「デジタル製品パスポート」です。蓄電池や電子機器、衣料品や鉄鋼・セメント・化学薬品などの中間製品を優先品目と定めています。

欧州では企業間のデータの共有化が基盤となり戦略的な政策が可能に

欧州では「GAIA-X(ガイアエックス)」と呼ぶ取り組みを通じ、航空宇宙や農業、金融、モビリティーなどの分野でデータの共同利用を進めています。また、自動車業界ではデータを共有できる企業間のネットワークを形成し、サプライチェーン全体におけるデータのエコシステムを実現するため「Catena-X(カテナエックス)」というシステムを構築しています。一連のシステムが基盤としての役割を果たし、欧州ではサーキュラーエコノミーに関する戦略的な政策を講じることができているのです。日本でも経済産業省が主導する形で、類似したコンセプトのウラノス・エコシステムを展開。蓄電池や自動車分野で取り組みが先行しています。

サーキュラーエコノミーは環境配慮型の設計、製造(低炭素・低環境負荷ものづくり)、販売、利用(長期利用・長寿命化)、循環資源の広域回収、リサイクルという領域に分かれています。このうち製造については廃棄衣料を再生したポリエステルから作られたサステナブルファブリックの活用や、食品廃棄物のバイオガス化が事業モデルとなっています。販売ではサステナビリティパッケージ、リサイクルに関しては水やレアメタルの回収・再利用が代表的事例です。

製造や回収などの静脈物流を含めてスタートアップと大企業の連携が進む

国内では静脈物流でも、スタートアップと大企業の連携が進んでいます。大手飲料メーカーは、発酵技術に強みを持つファーメンステーションと連携。同社が提供する未利用果皮を、缶入りチューハイの原料として採用しています。プラスチックの回収・再資源化サービスを手掛けるレコテックは、ハンガーカバーなどをリサイクルしたPCR材を、自動車部品向け梱包資材の原料として大手商社に供給しています。

再生プラスチック・素材やリチウム電池などサーキュラーエコノミーを支える分野の技術は進展が著しく、市場もまだまだ成長する見通しです。今回は製造、販売、回収、リサイクルの4領域の中から、5社を紹介します。

 

ポリエステルの代替も可能な植物由来の繊維(Bioworks株式会社

Bioworks(バイオワークス)は生分解性機能を持つポリ乳酸を独自の技術で改質し、植物由来ながらポリエステルの代替も可能となる繊維「PlaX」を開発・製造しています。コットンなど植物由来の繊維だと化学合成繊維が得意とする長繊維の生産を行えませんが、PlaXは可能です。また、耐熱性と強度、染色のしやすさも特徴です。ポリステル繊維の年間生産量は6000万㌧。売上高が15兆円という巨大市場ですが、現実的に代替可能な素材がない中、最も可能性がある素材として注目されています。

100回以上にわたって繰り返し使えるエコな梱包材(株式会社comvey

comvey(コンベイ)は100回以上にわたって繰り返し使えるエコな梱包材「シェアバッグ」と、それを運用するオペレーションシステムを、主にアパレルEC(電子商取引)事業者に向けて提供しています。システムが導入されたECサイトでは、消費者は商品配送を通じシェアバッグを選択でき、商品を受け取った後、全国の郵便ポストに投函することで返却できます。将来的には、返品管理支援システムを提供する返品代行事業や、返品商品や売れ残った在庫品を再販売する領域へ参入していく考えです。

少ない工程で物質の分離精製を可能にする新しい溶媒抽出技術(株式会社エマルションフローテクノロジーズ

エマルションフローテクノロジーズは、少ない工程で物質の分離精製を可能にする新しい溶媒抽出技術「エマルションフロー」を提供しています。高い濃縮性と油水分離能力により溶媒抽出工程だけでなく、排水処理など後工程の設備全体をコンパクト化できます。エネルギー消費量やコスト削減も可能で、これまで困難とされてきたレアメタルの水平リサイクルの事業化や、工場排水等に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)の処理を小型プラントで実現できる可能性があります。当面は規制や制度助成が進む欧州などを中心に普及に力を入れます。

生ごみからエネルギーと肥料を生産し、新たな資源循環モデルを構築(アーキアエナジー株式会社

アーキアエナジーは生ごみからエネルギーと肥料を生産し、新たな資源循環モデルを構築することに成功しています。具体的には店舗で廃棄物を分別せずに最低限のトラック台数で回収し分別した後、大型車両で運ぶことにより運送の合理化を実現。古紙、廃プラ、食品残渣などはそれぞれのリサイクル施設・自治体に送り、高利益化も可能にしています。既存事業として、バイオガス発電所の事業開発およびオペレーションや食品廃棄物の中間処理業とバイオガス発電による売電事業も行っています。

ミカン箱サイズの海水淡水化装置(株式会社Waqua 

Waqua(ワクア)は、IoT化した小型分散型の海水淡水化装置を開発・販売しています。特許を取得したパーツで装置をミカン箱サイズまで小型化することに成功。海水だけでなく河川水や雨水を、水道法の基準をクリアする水準まで浄化すます。これによって災害時だけでなく、都市開発時の仮設水インフラや施設として活用。街づくりなどにも対応し、持続可能な水供給を実現します。また、低エネルギー設計により、家庭用100ボルト電源やソーラー電力でも稼働可能で、都市部から過疎地まで多様な環境に適応します。

トランプ政権が気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明するなど、脱炭素には逆風が吹き始めています。地球温暖化対策への機運を後退させないためにもサーキュラーエコノミー系スタートアップが果たす役割は、一段と重みを増すでしょう。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部  

奥村 剛史(Takefumi Okumura)

 

経歴
元大手精密機器メーカーで、中期事業戦略立案を担当。米国駐在し、経営のデジタル化を推進。現地にて、スタートアップと協業し、モバイルアプリ開発や、新規事業創出を実現。現職では、大企業社内起業制度の設計、新規事業創出や、起業家支援プロジェクトに従事

専門領域
事業戦略、商品戦略立案
新規事業立ち上げ
スタートアップ協業プロジェクトのマネジメント

 

 

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