モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。


今回は、11月21日に開催した「伝統イノベーション特集」です。

在庫管理システムを活用して売上原価を改善

文化財は、建造物や美術品などの「有形」、技術や慣習などの「無形」、自然や街並みなどの「景観」の3つに区分できます。今回は有形・無形を問わずに長年継承されてきた文化に、革新的な技術・アイデアによって非連続的な変革をもたらすことを伝統イノベーションと定義しました。

伝統工芸品は、経済産業相の指定を受けた工芸品のことを指し、技術が保護されています。①製造工程の主要部分が手工業的②伝統的な技術・技法によって製造される―など5つの項目を満たすことが必要で、京都・西陣織や滋賀・信楽焼、東京・江戸切子など、織物や陶磁器、工芸品を中心に2024年10月時点で243品目が指定されています。行政や組合の後ろ盾もあり品目数は増加していますが、その一方で、生産額・企業数・従業員数は軒並み減少し続けており、存続の危機にあります。例えば生産額。1998年度は2784億円でしたが、2020年度は927億円と22年間で約3分の1の水準まで落ち込んでいます。

最大の要因は売り上げと利益が伸び悩んでいる点です。その結果、人を雇用できず後継者の育成も難しくなり、業務効率化や事業拡大まで手が回らず売り上げが低迷するという負のスパイラルに陥っています。

こうした負の連鎖を断ち切るには、収益を拡大することが前提条件となります。

利益率の改善を図るため、調達・保管、開発・教育、販売・広報といった領域を中心にデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れる動きが活発です。例えば売上原価の改善に向けては、在庫管理システムによる精緻化やマーケティングツールを通じた需要の把握、デジタル保管を活用したリスクの低減が行われています。広告宣伝費関連では、SNSを使った国内外への認知度向上や顧客接点の確保による継続率の向上、マーケティングツールを通じた需要の把握が進んでいます。

 

鳥取県の伝統芸能をデジタル映像でアーカイブ

 

民間企業と自治体などとの連携によるイノベーション事例も顕在化しています。東大発スタートアップのスタートバーンが提供するブロックチェーンインフラは、文化庁の実証実験に活用されました。美術品・文化財の管理はアナログで行われてきましたが、施設同士で作品の貸し借りを行う場合、重要な作品の紛失防止などの観点から管理のDX化が課題となっていました。ブロックチェーンを活用することで、民間に所在する美術品の情報を同一のフォーマットでやり取りできるようにするのが目的です。

大手印刷会社は、鳥取県の伝統芸能をデジタル映像でアーカイブしました。対象となったのは同県東部で江戸時代から伝わり国の重要無形民俗文化財に指定された「麒麟獅子舞」。後継者が存在しなくなったことを想定し、体の動きをデジタルデータ化するモーションキャプチャー技術を活用して対応しました。

客室をショールーム化、eコマースが可能に

和紙に包まれた客室や窯元からセレクトされた茶器など、日本の伝統文化の粋が散りばめられた城崎温泉の名宿「小林屋」は、リニューアルを機に、客室をショールーム化。あめつちデザインと連携して体験eコマース(電子商取引)が可能なタブレットを導入しました。

行政の間でもDX化の動きが活発です。文化庁が取り組んでいるのはInnovate MUSEUM事業で、博物館資料のデジタル・アーカイブ化に取り組んでいます。

総務省は地域文化のデジタル化事業を推進しています。①「ためる」=デジタルで記録・蓄積することにより文化や自然遺産を永久に継承②「つなぐ」=ネットワークにより供給ソフトの交換・連携が可能になる③「いかす」=デジタル画像にして利活用の幅を広げる―という3つがキーワードとなります。

今回は調達・保管、開発・教育、販売・広報という領域から4社を紹介します。

年回忌に檀家に送るお便り発送の寺務管理サービス(株式会社TERA Tech Inc.

TERA Tech Inc.(テラテクインク)は寺のDXに取り組んでいます。提供サービス「テラテク帳」は、年回忌に檀家に送るお便り発送の寺務管理サービス。寺の業務負担軽減、収入改善に繋がる点が強みです。お寺は全国7万7000カ所に存在していますが、少子高齢化の進展などによって4割が消滅するとも言われています。しかしながらお寺は、地域社会との繋がりやシニア層との関わりが深く、経済に与える影響は少なくありません。サービスを通じ、お寺市場の活性化を図り、アクティブシニア市場の開拓につなげます。

思考やノウハウを可視化し熟練者の思考を次世代に伝承(株式会社LIGHTz

LIGHTz(ライツ)は、一般的なDXでは手が届かない、人の頭の中にある思考やノウハウを可視化する「汎知化(はんちか)」技術を活用。企業や伝統産業の熟練者の思考を次世代に伝承するソリューションを提供しています。具体的には製造業経験者であるコンサルタントがヒアリングを行い、熟達者の持つ思考やノウハウなどの技術を引き出し、整理したうえで、活用可能なデータとして可視化します。データはさまざまなソリューションに組み込み、ノウハウの利活用までを一気通貫で実現しています。

京都で1日1組限定の宿を運営(株式会社和える

和える(あえる)は伝統工芸品の企画販売を行っており、伝統×〇〇事業を10以上展開しています。これまでに培ってきたノウハウを踏まえ新たに着手したのが宿泊事業です。海と里山に囲まれ、絹織物「丹後ちりめん」の一大産地として知られる京都・与謝野町に、国内外の富裕層をメインターゲットとした「aeru time-stay」という1日1組限定の宿を運営しています。伝統的な日本家屋に職人が手がける美しい伝統工芸品でしつらえた空間で構成され、食事提供などは地域事業者と適宜連携し、地域への経済循環を目指しています。

ショートムービーを通じ隠れた伝統工芸品を世界に発信(物語運輸株式会社 

物語運輸は日本の隠れた伝統工芸品や地方特産品、地域の魅力ある場所、体験を発掘し、世界中の人々に独自のストーリーテリングを通じて届ける事業を展開しています。具体的には物語を通じて作家・作品と出会うeコマース「ナラティブ・プラットフォーム(ナラプラ)」を提供。そのうちの一つがショートムービーです。海外市場に精通したマーケティング能力と、日本文化を高価格帯で販売できる国際的なネットワークを有している点が強みです。今後は地域活性化を支援するプラットフォームを確立させます。

 

伝統工芸品「輪島塗」を生産する石川県輪島市は、2024年1月の能登半島地震と9月の記録的豪雨で大きな被害を受けました。これを受けて国や県は事業者支援、作り手育成に力を入れています。こうした取り組みだけではなくDX化をいかに加速できるかが、収益の拡大から始まる正のスパイラルの構築に向けた課題と言えるでしょう。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
スタートアップ事業部  

山本 大葵(Daiki Yamamoto)

 

 

略歴

・2023年4月新卒入社

・墨田区における、町工場×スタートアップのオープンイノベーション創出支援

・多摩地域内における実証実験支援

・シードアーリースタートアップの広報PR・ブランディング支援

・シードアーリースタートアップの資金調達支援

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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