モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。


今回は、10月31日に開催した「アグリ特集」です。

農産物のレジリエンス強化や収量向上に貢献する領域が伸びる

世界の食料・農業スタートアップへの投資額はコロナ禍を背景に、2020年から21年にかけて大幅に伸びましたが、その後は減少傾向にあります。特に食料不足の解決策として注目される培養肉や植物肉など代替食品の落ち込みが目立っています。しかしフードを除きアグリ領域に焦点を当ててみると、バイオエネルギーやバイオマテリアル、農業ロボティクス、IoT化、DX化などの分野は成長し続けている分野です。

事実、食糧安全保障やサステナビリティなどの世界的課題への関心の高まりを背景に、農業とテクノロジーを組み合わせたアグリテックスタートアップへのVC投資額は高水準で推移。米調査会社などのデータによると、2015年を100とした場合、全体の平均値は452.7だったのに対しアグリテックは922.9と倍以上の伸びを示しています。

投資家から追加資本を確保する前に、企業の価値を定義する重要な指標であるプレマネーバリエーションを見ると、投資数はそこまで飛躍していませんが、投資額は大きく上昇しています。特に金額ベースでは、農産物のレジリエンス強化や収量向上に貢献するバイオテック、室内・精密栽培の領域が世界中で伸びています。

 

VCの関心テーマはAIと自動化、健康と安全、脱炭素

農業関連に投資しているVCの関心テーマはAIと自動化、健康と安全、脱炭素です。ここでは一連の領域で実績を残している、海外の有力スタートアップを紹介します。

イスラエルのSupPlant(サプラント)は、農作物、土壌、気象センサーからライブデータを収集・分析し、高度なアルゴリズムで灌漑の提案などを行うIoTセンサーソリューションを展開。AIを活用した農学カウンセリングや気象予報、ストレスアラームなど、センサー以外の栽培提案サービスも提供しており、水の消費量の削減のほか、農作物の収量の増加も実証されています。

米国のSpringworks Farmは、農作物の水耕栽培と水産養殖を組み合わせた次世代型農業システム「アクアポニックス」を手掛けています。魚の排泄物を微生物が分解し、植物が栄養として吸収することで生育し、浄化された水が魚の水槽に循環する仕組みを活用。水の消費量が少なく、農薬不使用で農作物の生産が可能です。淡水白身魚のティラピアの糞を有機肥料として使用し、レタスを生産。寒冷地であるメイン州でも屋内環境下でレタスを長期間生育でき輸送距離の短縮化につなげることで、輸送に伴うCO2の排出を削減します。

アルゼンチンのSoil Health & Biodiversity Finalistsは、3.5億年前に存在した極限環境に生息する微生物を研究し、それらを利用して作物の成長を助けるバイオ肥料を開発。栄養不足や干ばつといった厳しい環境下でも、最大25%の収量改善が可能となります。結果として従来の肥料の使用量を減らすことができます。

学術機関、スタートアップ、投資・育成機関、大企業との連携がカギ

日本の農業はAIと自動化、健康と安全、脱炭素という3つの領域で世界基準に対応しながら、もうかるための農産業改革が進んでいます。日本の農業にとっての四本柱はスマート技術の活用による担い手の育成・輸出促進、農林水産業のグリーン化、食料安全保障の強化で、日本のアグリテックスタートアップを見る際の重要なキーワードになってきます。

四本柱をしっかりと伸ばすためにも、学術機関、スタートアップ、投資・育成機関、大企業との連携を進め、地域農家の課題に寄り添った形のマーケットインでの事業展開が必要になってきています。

連携がうまく進んでいるのは、施設園芸の発祥の地でもある豊橋市が主導する「豊橋アグリテックミートアップ」です。豊橋市の職員が主体となって現地の生産者や全国のスタートアップ、大企業などを巻き込んで、地域にソリューションを適用。地域の農業課題の解決につながる新製品・サービスの開発を目指す取組みです。マッチングプログラムや交流会、アグリテックコンテストなどで構成されており、農業という領域でイノベーションにかかわっている関係者の方には、ぜひとも豊橋に足を運んでいただきたいと思います。

国内ではアグリイノベーションに向けて、スタートアップと大企業の連携も進んでいます。京大発スタートアップのSymbiob(シンビオーブ)は大手石油会社と提携。光合成微生物の大量培養技術を確立し、CO2 などの温室効果ガス固定とグリーンバイオ資材の製造を目指しています。

今回は次世代ファーム、農業ロボット、経営・生産プラットフォーム、流通プラットフォームという領域から5社を紹介します。

 

無農薬米の生産に適した水田除草を自動化するロボット(株式会社ハタケホットケ

ハタケホットケは、無農薬米の生産に適した水田除草を自動化するロボット「ミズニゴール」の開発に取り組んでいます。稲を踏んでも大丈夫な軽量のロボットが水田を走り回り田んぼの水を濁らせ、稲の栄養を奪う雑草の光合成を遮る仕組みです。1台あたりの作業効率は高く1日で約3ヘクタールの除草・抑草が可能。また、自然農法センターと協力し、無農薬栽培を成功させるために必須となる土づくりの講習会の開催や、できた無農薬米を買取り流通させる出口作りなどにも取り組み、日本のコメの有機化を目指します。

オール電化とIoTを活用したオーガニック農法でキノコを生産(株式会社楽々

楽々(らら)は、オーガニック農法を活用してキノコを生産しています。これに伴い発生した有機堆肥は、再び農作物への堆肥として活用。循環型農業を体現しています。システムはオール電化とIoTによって制御・稼働。原料のミキシングから接種袋詰め作業まで1台の装置で行うほか、自動運転とクラウドを通した遠隔監視によって難易度の高い発酵処理を実施するため、稼働中に人が常駐する必要もありません。一連の取り組みによって、光熱費や原材料費を抑えることが可能です。

インドで高品質なコットンを生産・供給(シンコムアグリテック株式会社

シンコムアグリテックはインドに主戦場におき、持続可能な農業とテクノロジーの融合を目指し、高品質なコットンの生産・供給を行っています。独自の栽培技術とサプライチェーンの最適化により、環境負荷の低減と安定した生産を実現。また、エコフレンドリーな製品開発に注力し、持続可能なファッション業界に貢献しています。事業範囲は幅広く、農地と生産者の確保、品種選定、有機肥料の設計と製造、化学農薬の代替方法の開発、収穫から加工までの手配に至るまでを展開しています。

温度と湿度を独立して制御することで、果物や野菜の鮮度を延長(株式会社Cool Innovation 

Cool Innovationは生鮮品のロス削減や品質維持、経済価値向上を目標として掲げ、温度と湿度を独立して制御することで、化学薬品や特殊なパッケージを使用せずに果物や野菜の鮮度を延長する技術を開発。レタスは1カ月、イチゴ、枝豆、柿、ブロッコリーは1カ月半、梨は5カ月、栗は半年間にわたり、新鮮さを保つことができます。この技術の活用により、空輸商品を海上輸送に切り替えることで、コストを80%削減し、CO2排出量を97%削減することができます。

耕作放棄地の活用法など大規模な農地経営管理のノウハウを保有(株式会社日本農業

日本農業は農業に本格参入しようとする企業に対し、事業をサポートしています。青森県ではりんごの収量増につながる先進的な農法を取り入れることで、温室効果ガスの排出を半減。耕作放棄地の活用やコスト削減など、大規模な農地経営管理のノウハウを保有しています。また、自社で販売・流通を担い、りんごを中心に収益性の高い販路実績を残しています。静岡ではさつまいも、香川ではキウイ、栃木ではぶどうなど、多地域で展開し、地方活性化にも寄与しています。

 

 

昨年は記録的な猛暑の影響で地域によっては、コメの見た目の品質が低下するなどの被害が広がりました。温暖化で今後も猛暑が繰り返されるリスクがある中、暑さに強いコメ作りが喫緊の課題になっています。一方、農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加など、深刻な課題を抱えたまま。日本の食料安全保障を確かなものにするためにも、アグリテックのさらなる普及で一連の課題を解決することが求められています。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部 マネジャー 

青砥 優太郎(Yutaro Aoto)

 

略歴

・茨城県の約200年続いた林農家

・前職では国内外のスタートアップへのファイナンスとアライアンスによる新規事業の立ち上げと、既存事業の拡大に従事

・大企業の農業ビジネス進出支援、アグリスタートアップのバリューアップ・ファイナンス支援、官公庁自治体におけるアグリエコシステム創出のアドバイザー等を歴任

 

 

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