この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、10月24日に開催した「人的資本の最大化特集(システムチェンジシリーズ)」です。
より社会課題にフォーカスし、自社のビジネスモデルを適用した社会課題の解決が求められている大企業とスタートアップとの間で、具体的な課題の解決というゴールを共有・明確化し、さらなるオープンイノベーションを促したい。そんな思いを込めてシステムチェンジシリーズ企画しました。それによって新たな価値を生みだす社会システムの在り方を、発信していきたいと考えています。
システムチェンジ投資は2023年頃に欧米で生まれました。持続可能な社会実現に向けて社会システム全体の変容を促し、根本的な社会課題解決につなげるための新たな投資の概念です。
最初のステップは課題の構造解析で、課題を生み出す要因の因果関係を整理します。次のステップではレバレッジポイントを特定します。望ましい方向へ大きなインパクトを与えられる介入場所のことを指します。そして最後のステップでは、実現可能で全体への波及が大きいアプローチを検討します。
今回の「人的資本の最大化特集」では、一連の流れを踏まえて登壇スタートアップを選定いたしました。
人的資本の最大化をテーマにした理由は、日本の労働生産性が著しく低いためです。経済協力開発機構(OECD)に加盟する38ヵ国の中では30位に沈んでいます。少子高齢化で労働力が減少する中、我が国の国際競争力を維持するためには、人的資本の最大化を通じた労働者一人ひとりの生産性向上が不可欠となります。
そのような中、2023年度から上場区分に関わらず企業は有価証券報告書などで、人的資本における戦略とその実行により企業価値向上に向けてどのような成果が得られたのかという、アウトカム視点での開示が求められています。全ての企業において人的資本の最大化は目指すべき共通のゴールであることから、システムチェンジシリーズの第一回目のテーマとして選定しました。
今回はシステムチェンジの考え方に基づいて生成AIを活用し、登壇スタートアップを選定しました。そのプロセスを示します。
最初に、低い労働生産性を生み出している要因を抽出し、それら要因の因果関係を整理することで、人的資本の最大化に向けたレバレッジポイントを4つ特定しました。1つは、健康経営の推進です。人は健康でなければモチベーションや業務効率も上がらないからです。次に生産性を高めるための働き方改革です。3つ目は外部環境の変化に応じて人が学び続けるための教育システムの改善です。4つめが多様性の確保。異なるアイデアの組み合わせによって新しい価値を創出する必要があるからです。
これらのレバレッジポイントに対するアプローチとそれによって期待される成果やアウトカムも、生成AIで抽出しました。最終的には「従業員の健康増進と医療費削減」や「モチベーションや生産性の向上」「従業員スキルの向上による企業競争力の強化」「多様性推進によるイノベーションの創出」というアウトカムがコレクティブなインパクトとなって人的資本の最大化というシステムチェンジを実現します。
教育システムの改善に向けてスタートアップと大企業が連携することで、従業員のスキル向上というアウトカムを挙げている具体的な事例が、法人や個人向けに学習コンテンツの制作・配信を手がける企業と、米人材サービス大手であるコーナーストーンオンデマンドとの業務提携です。
国内の大手総合化学メーカーは従業員の成長を支援するため、コーナーストーン社のプラットフォームを導入しており、その中で提携先の学習コンテンツを活用。約2万人の社員を対象に学習機会を提供しています。アンケート結果によると、学習満足度の向上が成果に繋がった割合が、開始から3カ月後に回答者の約半数にまで至るというアウトカムが得られています。
今回は人的資本の最大化に向けて4つのレバレッジポイントに属するスタートアップをマッピングしました。この中から本日は、人的資本の最大化に向けて独自性の高いアプローチにより取り組んでいる5社を紹介します。
リバランスは健康リスクを見つけて解決するサービス「Dr.CHECK」を提供しています。各種健康データから、特許取得の独自判定システムと医師・保健師チームの連携でリスクを見える化し、オンライン診療などを活用。改善に至るまでをフォローします。現在は第一弾として企業向けに、1人あたり月100円からという手頃な価格で展開。個人の健康管理サービスとしての事業化も予定しています。生活習慣病を対象に個人の健康情報を統合して管理するパーソナル・ヘルス・レコードなどの領域で相乗効果が見込まれます。
MUSVI(ムスビ)は、遠隔でも自分がそこにいるかのように行動できるテレプレゼンスシステム「窓」を用いた空間接続ソリューション事業を提供しています。大手エレクトロニクスメーカーでの20年以上の研究開発を経て製品化。等身大対話を実現する高精細ディスプレイとカメラ、遅延感のない同時発話が可能な音響システムを組み合わせることで、これまでの遠隔コミュニケーション機器とは一線を画した双方向性を実現。創業2年にもかかわらず、500台を超える窓がオフィスや現場、金融、医療などの幅広い領域で導入されています。
グロースXは、組織のマーケティングパフォーマンスを向上させる人材育成サービスを法人向けに展開しています。特許技術を含むチャット小説型スマホUIをグループ学習に特化して独自開発してきたため、他社のeラーニングとは全く異なり、隙間時間を最適化して提供しています。また、カスタマーサクセスのノウハウ構築に注力してきた結果、他社のeラーニングにはないサポート品質を実現。設立4年で有名ブランドを展開する企業やマーケティング支援会社をはじめとして、500社以上との有料契約実績があります。
エールは、社外人材によるオンライン型の1対1サービスを活用。①聴く力を高める「聴くトレ」②キャリア思考力を伸ばす「キャリトレ」③座学の学びを現場で活かす「フィールド」―という3つのプロダクトを提供しています。一人ひとりの納得感が鍵となる上司・部下のコミュニケーション改革やキャリアの自律、従業員エンゲージメントの最大化などの課題に個別化して伴走することで、組織全体の変容を促します。聴く力を持つ人が、価値観や判断を押し付けることなく個に寄り添うことで従業員の納得感につなげるサポートが特徴です。
HRBrainは、戦略的な人事の意思決定を支えるクラウドサービス「HRBrainシリーズ」を提供しています。人事・労務業務の効率化と人材データの収集・管理・分析を行うタレントマネジメントシステムや、従業員のエンゲージメントを可視化し組織の課題を発見できる機能を持ちます。汎用性とカスタマイズ性を兼ね備え、企業の課題に合わせた組み合わせでサポートを行います。入社から退職までにさまざまな経験を通して成長するための「エンプロイージャーニー」 を示し、従業員の抱える課題に柔軟に対応することも可能です。
日本経済の本格的な回復に向けて、高水準の賃上げが求められています。賃上げには生産性を向上させ付加価値を高めるという前提要件が不可欠で、その原動力となるのが人的資本の最大化です。人的資本は継続投資しないと劣化するとも言われており、スタートアップによる関連サービスの活性化に期待が高まります。
▼テーマリーダーProfile
野村證券株式会社
サステナブル・ビジネス開発部 兼 IBビジネス開発部
林田 稔(Minoru Hyashida)
略歴
・独立行政法人理化学研究所入所後、民間企業を経て独立。
・その後、独立系VCに参画し、スタートアップに対するハンズオン投資に従事。
・金融機関に移り、上場企業を対象としたインパクトファイナンスやVC及びCVCの 投資先に対するインパクト評価・マネジメントを支援。
・2022年より現職、パブリックからプライベートまでを対象に企業の価値創造プロセスを支援。
・博士(理学)
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
—————————————————————————————————————————————-
Morning Pitchでは、上記のような各回テーマ概観の解説を
資料や動画にして有料会員様限定でお届けしています
解説資料・・・Morning Pitch有料会員
解説動画・・・Morning Pitch Innovation Community(MPIC)会員
—————————————————————————————————————————————-