モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。


今回は、11月7日に開催した「スマートシティ特集」です。

市民一人一人に寄り添ったサービスで都市が抱える諸課題に対処

都市や地域が抱える諸課題に対し、情報通信技術(ICT)やIoT、官民データなどを活用したサービスを通じ、住民や企業の従業員など街に関わるステークホルダーの生活の質を高める手法をスマートシティといいます。具体的には健康寿命の延伸や地域見守りの支援、リアルタイムでの災害情報の取得・発信など、市民一人一人に寄り添ったサービスを提供。社会、経済、環境という観点から、安全安心かつ持続的・創造的で、環境負荷が小さい空間の実現を追求します。

スマートシティの目的を達成するためにはまず、ビジョンや計画の策定といった戦略と、それに基づいた都市マネジメントが必要です。もう一方の軸がアセットで、政府・自治体、地域、民間、個人が所有している各種データを、都市OSと呼ぶデータ連携基盤に集約。交通や物流、エネルギーといったスマートシティ関連サービスに都市OSで集約した情報を連携することで、住民や訪問客、企業などに効率的で快適なサービスを還元していきます。また、他地域の都市マネジメントシステムと相互運用を図ることにより、一つの地域で成功した事例を他地域にも余分なシステム開発が必要なく広げることが可能になります。

 

OSの導入地域が大幅に増加

スマートシティの事業自体は収益を生みづらい構造となっています。例えば社会的に意義のあるサービスでも住民の支払いに対する意思は低いことが多く、事業開始の初期は民間企業の拠出金などの先行投資が必要になります。持続的な成長を果たすには、サービスの継続によるデータの蓄積や、収益を得やすい分野でのマネタイズ化が不可欠です。その中で重要になるのが情報連携や集約・可視化を行う都市OSです。導入傾向に拍車がかかっており、2024年3月時点で73地域が採用。約3年間で59地域も増加しており、今後は都市OSと連携したスマートシティサービスを収益化させる施策が必要になります。

スマートシティサービスの普及に向けた動きが活発化する中、直近で最も注目すべき取り組みとして「ウラノス・エコシステム」が挙げられます。ウラノスは、2023年に経済産業省が業界横断的なシステム連携への取り組みに命名したイニシアティブの1つです。民間企業から200名の出向を受け入れ、実装までのスピード感を持った過去にない官民連携スキームを構築しています。

先行して取り組んでいるプロジェクトの一つに「4次元時空間連携基盤」があります。地上、空中、地下という三次元情報に時間という次元を追加したデータ連携基盤のことを指します。(1)空間を数センチ単位に切り出すことができる高精度・高解像度の空間情報(2)リアルタイムの情報更新とデータ連携が可能―という点が特徴で、これらを組み合わせることによって、精緻で迅速性が求められるモビリティやインフラ・都市管理、産業・物流、防犯・防災といった分野での活用が期待されます。

 

ドローンでオンライン診療・服薬指導と組み合わせた医薬品配送を検証

この連携基盤では国の支援を通じて実証実験を通した先行事例が生まれてきています。その一つが浜松市でのドローンサービスの実装。オンライン診療・服薬指導と組み合わせた医薬品配送を検証したほか、この物流事業から得た映像データを解析し、河川管理者が実施する河川巡視・点検の一部を代替しました。自動運転については茨城県日立市の大甕(おおみか)駅周辺で実験を行いました。具体的には複数の運行者が同じインフラ機器にアクセス・連携できる環境を提供し、信号協調や死角情報の共有などを実施。自動運転車両の走行にも取り組んでいます。さいたま市ではインフラDXサービスを実装。通信、電力、ガス、水道などのインフラ各社が保有する設備の照会を自動的に行いました。

4次元のデータ連携基盤が構築されることは、空間データの質向上につながり、結果としてデータを利用したスマートシティサービスの提供価値が大きく高まる可能性を秘めています。スマートシティという言葉が先行してしまって実績が伴っていなかったという局面を大きく変化させると考えられます。

スマートシティにかかわるスタートアップが活躍する分野は幅広く、企業の数も増え続けています。今回は健康・医療、介護・福祉、防災・防犯、脱炭素・省エネルギー、都市OSにかかわる5社を紹介します。

ごみ処理場と発電所を1つにして廃棄物から生成した水素を活用(株式会社BIOTECHWORKS-H2

BIOTECHWORKS-H2(バイオテックワークスエイチツー)は、「廃棄物ごみZEROプロジェクト」に取り組んでいます。ごみ処理場と発電所を1つにして廃棄物から生成した水素を活用することで、廃棄物ゼロやCO2の削減、エネルギーの自社循環を実現。原材料の調達から生産、廃棄までに出るCO2の総排出量を示すカーボンフットプリントの低減を可能とします。廃棄物の最適化によって、大量の水素を安定的に供給。水素はマネタイズできないという常識を覆し、ユニークなサステナブルビジネスモデルを展開します。

脳の構造を模した技術でプライバシー保護などの諸課題を克服(TwinSense株式会社

TwinSense(ツインセンス)はスマートシティ向けのプラットフォームを展開しています。人間の脳などの構造を模すニューロモフィック技術を駆使することにより、既存技術では難しかった低消費電力やプライバシー保護などの諸課題を克服。昼夜間や、太陽の位置、天候など諸条件によって不安定となるデータを安定的に取得できるようになりました。これまで把握できなかった人流などの情報を把握することで、公共インフラや災害対策、ヘルスケア分野に至るさまざまな領域でイノベーションを起こすことができます。

ブラジルでは犯罪予測ソリューションで犯罪を7割減らした州も(株式会社Singular Perturbations

Singular Perturbations(シンギュラーパータベーションズ)は犯罪予測ソリューション「CRIME NABI」を提供しています。過去の犯罪データだけではなく、人口統計や衛星画像、建物の情報なども含め、独自アルゴリズムを複数開発することで実現したソリューションです。また、犯罪予測をするだけではなく、車両や監視カメラの警備計画の策定サービスにも対応しており、これを元に警備の犯罪抑止効果を測定することも可能です。ブラジルでは犯罪を7割減らすことに成功した州もあります。

世界中を3㍍四方に区切って、正確な位置情報の検索とシェアを可能に(what3words ltd

英国に拠点を持つwhat3words ltd(ワットスリーワーズ)世界中を3㍍四方に区切り、固有の3つの単語の組み合わせを割り当てることで正確な位置情報の検索とシェアを可能にするサービスを展開。建物の入口や公園の中の特定のエリアなど、より正確な目的地に案内することを可能としています。GPSと互換性があり物流や車両、緊急サービス業界にも適しており、今後はグローバルな住所標準として確立。日常の消費者向けアプリケーションへの統合と、政府や緊急サービスによる広範な採用を目指します。

マイナンバーカード・デジタルIDの活用推進で、自治体の課題解決を支援(xID株式会社

xID(クロスアイディ)はマイナンバーカード・デジタルIDの活用を推進することで、自治体や企業の課題解決の総合的な支援を行っています。日下代表はマイナンバーの先進国と言われ、ほぼすべての手続きがスマートフォンで完結するエストニアで、政府の仕事をしていました。展開しているプロダクト「xID」は、誰でも無料で使えるデジタルIDアプリで、本人確認、ログイン、手続きの手間を削減。多くの自治体に導入されています。今後は、行政・金融関連の通知物のデジタル化向上を目指します。

 

 

スイスの国際経営開発研究所(IMD)による世界の都市のスマートシティランキング(2024年)によると、東京は86位と低迷。マレーシアのクアラルンプール(73位)やタイ・バンコク(84位)の後塵を拝しており、人口や企業、学術機関が集積しているにもかかわらず、付加価値へと転換する力を十分に発揮できていません。東京をはじめとした都市の潜在力を引き出し、日本経済の活性化につなげるためにも、スマートシティ系スタートアップの活躍は不可欠だと言えるでしょう。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
Industry&Function事業部

石橋 裕(Yutaka Ishibashi)

 

略歴

・大学院で「自動運転タクシーが東京都の都市交通に与える影響」について研究し、開発したシミュレーションソフトウェアを某一部上場企業に売却

・新卒でDTVSに入社し、民間企業へのスタートアップ協業支援、民間企業の新規事業創出支援、某自治体の拠点施設基本構想策定支援業務等に従事

 

 

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