モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、9月19日に開催した「Web3.0特集です。

特定の管理者に依存しない情報の保有・発信が可能

Web2.0は一部の企業に依存するような中央集権的な仕組みで、個人情報などが管理され、セキュリティや表現の自由が企業の裁量に任されているという問題を抱えています。これに対し、より個人に焦点を当てた新しいインターネットの形を作っていこうというのがWeb3.0です。ブロックチェーンを基盤とし、分散型や、サーバーを介さずに端末同士で直接データのやり取りを行う P2P(ピアツーピア)ネットワークなどを指しており、特定の管理者に依存しない情報の保有・発信が可能です。

Web3.0の主な利点は(1)個人にフォーカスできる(2)ブロックチェーン技術を利用することで堅牢なセキュリティを得られる(3)インターネットを介した匿名活動によって国境や企業などの垣根を超えた活動が可能―の三点です。

Web2.0で開発されたさまざまなプロダクトが、Web3.0の形で代替されるケースも活発化しています。ブラウザでは情報の秘匿化により広告などがブロックされ、検索などの行動を通じ、「BAT」と呼ばれるトークンが付与されるようになりました。金融サービスの分野は個人情報と資産とのリンクが行われにくいため、プライバシー性が高くなったほか、SNSでは記事を書くことで著者に報酬が支払われるようになり、コンテンツ自体をデジタル資産の保有を証明できるNFTとし売買も可能です。

改ざんに強いブロックチェーンが技術の根幹

Web3.0の根幹を担うブロックチェーンは、データをブロックごとに格納して、チェーン上につなげていくデータベース技術です。過去のブロックを改ざん・修正する場合はかなりの手間を要し、現実的には困難という理由で、改ざんに強いと言われています。

ブロックチェーンが改ざんの恐れに対抗しながら運用し続けられるのは、新たなブロックを生成するに当たって「コンセンサスアルゴリズム」というルールに従っているからです。これによって正しいブロックを生成し、関与したユーザーは一定のインセンティブを「暗号資産」などの形で受け取ることができます。こうした報酬の受け取りをビットコインではマイニングと言われており、悪意のある行動を執るユーザーを限りなく少なくすることで、ブロックチェーンの堅牢性・信頼性を担保しています。

直近のWeb3.0市場を、暗号資産とNFTの取引量の視点で見ると、暗号資産は仮想通貨大手のFTXトレーディングが経営破綻したことを受けて2023年度は下火傾向にありました。しかし24年に入って、ビットコインの上場投資信託(ETF)などの影響もあって盛り上がりを見せています。

NFTは一時期のバブルに比べると落ち着いていますが、現在は譲渡不可のNFTであるSBT(ソウルバウンドトークン)といった新たな技術の登場もあり、投機ではなく実用目的での利用が進んでいるのではと推測しています。実際に国内でも、NFTを用いたプロジェクトは年々増加しています。

デジタル住民とリアル住民の交流の場に活用

代表的な事例がWeb3.0を用いた地方創生プロジェクトで、デジタル住民とリアル住民の交流の場として、メタバースの構築や地方創生を進めるためにDAO(分散型自立組織)が多く用いられています。具体的にはNFT購入者の特典として、DAOへの参加権や特産品の限定購入権、観光誘致との組み合わせ、リアル訪問による限定NFTの配布などのインセンティブが付与されます。

東京・渋谷では、大手鉄道会社の主導で、NFTを活用した新たな体験価値を提供。参加証となるNFTとカード型ハードウォレットのセット購入を通じた、新しいエンターテインメントや優待体験の提供、参加型・共創型のコミュニティ形成に取り組んでいます。

地方自治体を主導としたWeb3.0プロジェクトも活発に行われており、地域の名産品などをNFT化し、それらをふるさと納税の返礼品とするプロジェクトなどがあります。北海道の夕張市は、夕張メロンの「デジタルアンバサダー」になる権利を付与したNFTを発行。静岡県三島市は、NFTを購入・保有することで、同市で製造・熟成するウイスキーを優先的に購入できる権利を付与しました。

大企業とWeb3.0ベンチャーの協業事例も相次いでいますGinco(ギンコ)は大手銀行らと国産ステーブルコインの活用に向けた協業、HashPort(ハッシュポート)は大手電機メーカーと、生体認証を用いた本人確認の実現に向けた協業をそれぞれ実施。xID(クロスアイディー)は大手印刷会社と共同で、紙とデジタル双方の利点を活かした、通知業務のDXを支援するサービスを開発しています。

Web3.0の領域は既に実用化フェーズに進んでおり、各領域で代表的なベンチャー企業が現れております。その中から今回は4社を紹介します。

新たな個人情報管理手法を提供(株式会社 VESS Labs

VESS Labs(ベスラボズ)は、特定のプラットフォームに依存せず個々が分散して情報を保有するという、Web3.0の思想に基づく新たな個人情報管理手法「VESS Credentials」を提供しています。個人・経歴情報を必要とする団体は正確な情報を入手したいと考え、情報を提供するユーザーは、自身の情報は自身で守り必要最低限の情報開示に留めたいと願っており、こうした双方のニーズを満たします。金融、人材分野での実績を残しており、官民双方との連携を取りながら国内動向や法規制にも迅速な対応が可能です。

次世代の資産運用サービスを展開(株式会社Next Finance Tech

Next Finance Tech(ネクストファイナンステック)は、広告運用をサポートし収益を最大化するSSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)事業と、個人向けの運用サービスを展開しています。SSP事業では、ブロックチェーン上での取引を承認するバリデータ業務を担当することで、報酬を対価として得ています。個人向けサービスでは、国内の暗号資産保有者に代わってバリデータ業務に携わることで、その報酬をユーザーに分配するという「次世代の資産運用サービス」を展開します。

中小のゲーム会社による配信と収益化を支援(デジタル・ウィル株式会社

デジタル・ウィルは、中小のゲーム会社が行うゲーム配信と収益化を支援する コンテンツプラットフォーム「WORTAL」を提供します。AIがプレイヤー行動を解析し、最適な広告配置やパーソナライズされたゲーム体験を提供するため、収益の最大化を実現します。また、ゲームの開発者は一度の開発で世界中にある複数のプラットフォームへ容易に展開、配信の効率化を図ることができます。アプリストアに制約されないゲーム配信は収益化や管理が煩雑ですが、一連の課題を克服し普及につなげていきます。

簡単にAPI経由でブロックチェーンにアクセスし、データの取得が可能(Cabinet株式会社

Cabinet(キャビネット)はブロックチェーンの根幹を支えるノードを運用しています。開発者や企業が自身でノードを立ち上げることなく、簡単にAPI経由でブロックチェーンにアクセスし、データの取得やトランザクションの送信を行うことができます。ビジネスモデルはBtoBの SaaS型。ノード運用を代行することによる利用料を徴収します。運用代行の場合は、バリデータ報酬の配分による収入も想定しています。また、蓄積したブロックチェーンに関するノウハウをベースに、ブロックチェーンを活用した事業開発のサポートも行います。

 

Web3.0の特性は、これまで接点がなかった企業やユーザーが相互に関わり合うことで、今までにない形の経済活動や社会的相互作用が生まれることです。こうした現象が積み重なり、日本経済の新たな原動力となる産業へと発展することが期待されます。

 

 

▼テーマリーダーProfile


デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

インダストリーアンドファンクション事業部

田所 丈(Jo Tadokoro)

 

■略歴

・国内暗号資産交換業者にて、NFTマーケットプレイスの立ち上げ・グロースを推進し、新規通貨

・NFTの上場業務、メタバース上の都市開発、独自NFTの発行企画などに従事した後、現職・デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社に入社後は、Web3.0分野の他、社内新規事業やWeb周りの業務に従事

・Web3.0分野では、地方自治体のWeb3.0研究会の支援、地方建設業者のWeb3.0コミュニティ形成支援、大企業Web3.0新規事業立ち上げ支援の他各種セミナー・講演に登壇。

■業務実績

・地方自治体におけるWeb3.0研究会運営支援

・地方建設業者のWeb3.0コミュニティ形成支援

・大企業Web3.0新規事業立ち上げ支援

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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