この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、8月22日に開催した「Z世代マーケ特集」です。
Z世代とは、1990年代の半ばから2010年代の初頭に生まれた現在の若者世代を指しています。定義は色々とあり、数年ほど前後することもありますが、今の10~20代に相当します。大半がデジタルとSNSネイティブであり、タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)を重視する傾向が強いと言えるでしょう。
日本では2000年代の終わりごろから、スマートフォンの普及が本格的に進みました。これと連動するような形でFacebookやTwitter(X)、LINEなどのSNSが登場し、個人の情報発信が一般化。この期間を学生として送ってきたZ世代は、新たなツールや生活様式にうまく対応しています。デジタルネイティブ世代とたとえられる由縁です。
Z世代はすでに30代に差し掛かった層も存在しますが、基本的に10代から20代がボリュームゾーンです。現時点での生産年齢の人口に占める割合は17%ですが2040年には21%に拡大。1983年から94年の間に生まれたミレニアル世代を加えると全体に占める割合は、39%から47%へと8㌽増える見通しで、日本経済の発展を支える中心世代になることは間違いありません。
Z世代に訴求するには、4つのポイントを押さえたマーケティング戦略が不可欠となります。まずは「共感」。インフルエンサーやクリエイターの価値観・コンテンツに共感し、影響を受けやすい傾向があるからです。情報過多の時代では、いかにコンテンツを効率よく消費し情報を収集するかがカギを握るため、「効率性」もポイントとなります。大量生産・消費社会を経て、必要なものを必要なだけ、という考え方が好まれるため、「サスティナビリティ」の追求という視点も欠かせません。4つ目が「多様性」の尊重。人々の生き方が多様化する社会の中で、自分らしさを表現したいという思いを持っているからです。
大企業とベンチャーの協業事例も相次いでいます。老舗の製薬会社は、TikTokなどショート動画に特化したOASIZ(オアシス)と連携。公式Vtuberや女子高とのコラボレーション、ショートドラマなど「よく見たら同社だった」とユーザーが親近感を抱くような企画に対する評価は高く、TikTokアカウントの総再生回数を大幅に伸ばしています。大手銀行系の調査・コンサルティング会社はZ世代を代表とする企画・マーケティング会社である「僕と私と」と共同で、奥尻町や名寄市など北海道の6自治体に対し、各自治体の事業を紹介するオリジナルの縦型ショート動画を制作。総視聴回数は200万を優に超え、地方創生プロジェクトにZ世代を取り込むことに成功しています。
Z世代の購買モデルは、従来とは少し異なる特徴がみられます。これまでのイメージでは、自分が欲しいと思った商品に対して詳細を検索し、情報を収集していました。しかし現在は詳細な情報に素早くアクセスできるため、検索の結果次第では、自分にとって欲しいものなのかを問うという流れが主流となっています。また、購入してから共有するのではなく、SNS上にある製品の情報を事前に共有し、周りからの反応に基づき購入を再検討する傾向があります。
購買モデルを踏まえたZ世代マーケティングのベンチャーは、コンテンツ企画制作やツール、共有アプリ、SNSからマーケティング戦略、リサーチの総合的な支援に至るまで幅広い領域に存在します。今回はこの中から5社を紹介します。
LuaaZ(ルアーズ)はYouTubeやTikTokといった動画系SNS上で、バラエティーやドキュメンタリーに至るさまざまなコンテンツをプロデュースしています。HIKAKINをはじめとするトップクリエイターらに企画を提供し続けているYouTube作家が、事業の目的やクライアントの要望に合わせてバズるアカウントをゼロから創出。共感型コンテンツでZ世代のファンを育成する法人チャンネルの開発や、SNS発スポーツチームのプロデュースを行い、再生回数・登録者数をともに数百万となるようなコンテンツを生み出した実績もあります。
seamint.(シーミント)はZ世代に特化した企画・マーケティング会社で、メンバーの9割がZ世代で構成されています。Z世代の声を集め、分析することで若者の真のニーズや願望を深く理解し、企業のサービス作りに活かすための支援を行っています。競合他社は自社でインフルエンサーを抱えている場合が多いのに対し、弊社ではこれから伸びそうな人、好かれている人に直接声をかけています。常に等身大の目線で、トレンドを素早く認識し、分析することを強みとしています。
HA-LU(ハル)はショートドラマの制作を軸に事業を展開しています。若年層を中心として短時間のコンテンツに関心が集まる中、1~2分の長さで映像を展開。ショートドラマの中でも国内で王道カテゴリの一角を握る、学園モノ・恋愛系コンテンツに力を入れています。制作チームにはZ世代のインフルエンサーなどが所属しており、クリエイティブ面では若い世代の感性を最大限に生かしています。創業前の2023年11月から公開を開始したウブな高校生の恋愛ショートドラマ「ハル学園」は、多くのZ世代に支持されるコンテンツとなっています。
Coeto(コエト)は、音声のみで繋がることができる音声ソーシャルライブ配信アプリ「Wacha(ワチャ)」を提供しています。従来のSNSは一方的な承認欲求を得るためのものが多く、孤独を加速させているのではと感じたことが開発の背景にあります。このため孤独の解消には「相互に応援、自分に役割が存在する、仲間と共に成し遂げる」といった要素が不可欠と判断。他のライブ配信アプリとは一線を画し、ライバー同士を競争させるのではなくリスナーも含めたユーザー全体の共創をデザインし、みんなが主役になれるアプリとしました。
RelyonTrip(リリオントリップ)は日本語・英語・中国語・韓国語に対応した、観光・飲食関連のアプリ「SASSY(サッシ―)」を運営しています。インフルエンサーの知見とユーザーが作成したコンテンツを組み合わせ、多言語対応のデジタルマップと「行ったログ」機能により、旅行体験を包括的にサポートします。また、自治体、大学、企業との連携で、地域に根ざした独自のコンテンツを提供しています。コンテンツ開発の段階からZ世代を巻き込み、アプリの運用においても常にアップデートできる仕組みを構築、「Z世代No1おでかけプラットフォーム」を目指します。
ここ数年の間でアナログレコードの人気は急速に高まり、1970~80年代につくられたシティポップや昭和歌謡が流行するなど、゛温故知新゛ブームが広がっています。けん引役はZ世代。想定していなかった新たなブームが生まれ個人消費の促進につなげるためにも、Z世代を対象にしたマーケティング対策は、一段と重みを増すことにうなるでしょう。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
グローバル事業部
打越 まどか(Uchikoshi Madoka)
メタバースプラットフォームを開発するスタートアップにて事業開発、新規事業の立ち上げ等を経験。現職では、大企業向けに生成AIを活用した新規事業の企画・立案や、学生向け起業支援プログラムの企画、運営などを担当。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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