モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、7月18日に開催した「Fintech(フィンテック)特集です。

世界市場は2030年までに1兆5000億㌦へ

Fintechは金融とITから創出された新しい金融サービスのことで、Finance(ファイナンス)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語です。代表的なサービスであるモバイル決済は、決済とスマートフォンが融合して誕生しました。

世界市場は好調です。米調査会社は2022年時点で1651億7000万㌦の価値があると推定、27年までに4000億㌦を超えると予想しています。

成長率は予想を大きく上回っています。最新のレポートによると、世界市場は2030年までに1兆5000億㌦まで拡大すると予測しています。資金調達額も多く、23年の場合、東南アジアもインドでも過半数はFintech系スタートアップが調達している状況。イノベーションの領域で大きな存在感を示しています。

金融領域には融資、為替、預金という銀行の三大業務のほかにさまざまなサービスがあり、その領域ごとにFintechサービスが活躍しています。例えば売掛金を現金化するファクタリングの領域だと、イノベーションによってオンラインで対応できるサービスが誕生しました。為替であればモバイルやオンラインによる決済、個人間で直接やり取りするP2P(ピア・ツー・ピア)送金。投資ではロボアドバイザーやオンライン証券、株式投資型クラウドファンディングなどです。

日本は世界の中でも特異な歴史をたどってきた

日本は、世界の中でも特異なFintechの歴史をたどってきました。金融機関によるレガシーなサービスシステムはITとも非常に相性がよく、ホストコンピューターを導入して処理を行うという時代が続いていました。しかし2013、14年辺りからアンバウンドリング(分解)という流れでFintechベンチャーがどんどん誕生。金融の統合サービスが一気に分割化されて、特化型のサービスが提供されるようになりました。

2017年ごろからは、色々な事業会社や金融機関とFintechベンチャーが連携して新しい業態を作っていくリバンドリングという流れが表面化しています。直近の潮流はエンデベッド・ファイナンス(埋め込み型金融)。既存のサービスに加えて、ユーザーの意識しないところで便益を図り、顧客の利便性を向上するため、スピード化やメンテナンスの簡易化など、埋め込まれた金融サービスが提供されています。

最近のトレンドはシームレスです。銀行業が証券業、保険業が銀行業、鉄道会社が銀行業といったように業界の垣根を越えて金融サービスを提供しています。

テクノロジーで法令改革・コンプライアンスに対応

2025年に向けては、三つのトピックが注目されます。その一つが銀行、証券、保険間の垣根が消滅し、今まで分かれていたサービスが融合しあって統合的な金融サービスが提供されるようになることです。二つ目が法令改革への対応です。資金決済法などさまざまな業法が改正されているためで、こうした動きに伴いコンプライアンスへの対応も求められており、いかにテクノロジーが入っていけるかが重要な課題です。三つめが金融に関わる手続きのDX化によって効率化を図り、新たな顧客体験の獲得へつなげるDX金融サービスです。今まで金融サービスから遠かった高齢者や子供、若年層を対象としたサービスも顕在化しています。

国内には約200社のFintechベンチャーがあり、今回は5社を紹介します。

急成長ベンチャーに1口約10万円から投資が可能(株式会社FUNDINNO

FUNDINNO(ファンディーノ)は、急成長ベンチャーに1口約10万円から投資ができる株式投資型クラウドファンディングを展開しています。ベンチャー投資は一部のVCや機関投資家に限られ起業家を資金面で応援することが困難でしたが、このハードルをぐっと下げ、より多くの支援家から少額ずつ資金を集めることが可能となりました。また、主に上場準備段階に入ったスタートアップを対象に、プロ投資家から大口投資を募り1億円以上の資金調達を支援する「FUNDINNO PLUS+」も展開しています。

特許取得済みのクラウドで、補助金の前払いを一気通貫で提供(株式会社Stayway

Stayway(ステイウェイ)特許取得済みの「補助金クラウド」を活用し、日本では初となる補助金の前払い(ファクタリング)を一気通貫で提供しています。利用可能な補助金の自動通知や、Web相談の24時間体制、生成AIによる申請書類の自動作成といった各種機能で構成されており、中堅・中小企業の経営支援を担っています。複数の地銀や信用金庫への導入実績があるほか、直近では士業や商工会、年商1000億円以上の事業会社にも導入されており、展開エリアの拡大を図っていきます。

SaaS型保険システムで顧客要望に基づく機能を迅速に開発(株式会社justInCaseTechnologies

justInCaseTechnologies(ジャストインケーステクノロジーズ)は、SaaS型保険システム「joinsure(ジョインシュア)」を提供します。開発スピードが早く、コストが抑えられるというSaaS型システムの強みを活かし、顧客の要望を反映させながらさまざまな機能の開発を同時に進めていきます。各種企業への導入も進んでおり、顧客との接点のデジタル化と業務効率化を支援しています。大手損保会社はjoinsureを活用し、Web完結型の生損保一体型保険を提供しています。

Web3.0技術とコミュニティの力で空き家を民泊物件に再生(ANGO合同会社

ANGO(アンゴ)は空き家を活用し、Web3.0技術とコミュニティの力を活かして民泊物件として再生するサービスを提供しています。物件はDAO(分散型自立組織)コミュニティにより運営され、トークンエコノミーを活用して透明性の高い管理を実現しています。コミュニティメンバーはトークンを使って宿泊が可能であり、物件の開発や運営に参加するのが特徴です。大手電鉄会社と提携し、ホテルサブスクサービスの画面上で管理物件が宿泊施設としてリスティングされる事業も展開しています。

中堅・中小企業の生産性を引き上げるバックオフィスDXソリューション(株式会社スマイルワークス

スマイルワークスは、中堅・中小企業の生産性を引き上げるバックオフィスDXソリューションを提供しています。クラウドで販売・仕入管理などをリアルタイムに可視化し、案件管理、在庫管理、経費精算、給与計算も含め、全てを財務会計と資金繰り表に自動連動できるのが特徴で、経理の負担を6分の1程度に減らすことができます。大手銀行や地銀など10行以上の金融機関に向けてOEMで提供しています。債権債務のデータが蓄積されるため、今後は売掛債権の流動化ビジネスも加速する見通しです。

 

 

国内ではデジタルマネーによる給与の支払いがスタートしました。導入する企業も相次いでおり、社会インフラへと成長することが期待されます。これに伴い加速するとみられるのが統合的な金融サービスで、Fintech系ベンチャーの活躍の場はさらに広がることでしょう。

 

 

▼テーマリーダーProfile


デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

グローバル事業部

大平 貴久(Ohira Takahisa)

グローバル事業部の事業部長を務め、2024年よりインドのベンガルールへ駐在。特に、東南アジア、インドのStartupエコシステムに精通しており、Fintechスタートアップの支援をおこなう。

 

 

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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