この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、7月11 日に開催した「沖縄スタートアップ特集」です。
沖縄はコロナ禍で縮小したものの観光業が主要産業です。ITを含めた第三次産業の割合は2020年時点で85%。全国平均を12㌽上回っています。開業率は全国一位ですが、中小企業が多いこともあって最低賃金は全国最下位。こうした課題を解決する有効なソリューションが求められています。
地理的にはアジアと日本の中間地点に位置しているという点が大きなポイントです。
例えば東京のスタートアップがアジアに進出する際に、アジアに近い環境である沖縄を実証実験の場として活用できます。一方、アジアのスタートアップが日本市場に参入する場合は、いきなり東京に進出するのではなく、ソフトランディングの場として沖縄を活用できます。
具体的な取り組みを見ると、沖縄県庁は社会実装の実証実験をサポートする場として「テストベッド・アイランド沖縄」や、「Boost Up(ブーストアップ)」と呼ばれるアクセラレーションプログラムを運営しています。大学・研究機関の動きも活発です。沖縄科学技術大学院大学(OIST)は先端科学技術と産業の架け橋的な役割を担うことで、イノベーションの創出を加速しているほか、琉球大学はイノベーションに挑戦する人を対象とした「琉ラボ」という施設を運営しています。
政府や金融機関もスタートアップの支援に力を入れています。内閣府はデジタル技術を持つスタートアップの実証実験をサポートしているほか、地元の銀行はファンドを設立しスタートアップに投資しています。民間・コミュニティの動きも加速しています。うむさんラボは、沖縄初となる地域課題解決型インパクトファンドを設立。支援施設の「コザスタートアップ商店街」は、挑戦者とイノベーターが集結するカンファレンスを開催したほか、他の支援拠点も順次拡大しています。
沖縄を本社とするスタートアップの数は緩やかに増えており、およそ100社ほどです。2023年度にはヘリコプターバスを運営するBlue Mobility(ブルーモビリティ)が創業しました。
調達件数も徐々に増えており、年間30社ほどが調達しています。注目すべきは調達額です。2023年は全国的にスタートアップの調達社と数が減少しましたが、沖縄のスタートアップは39億円を調達。1年間で3倍以上の実績を残しました。100%オーガニック由来の吸水性ポリマーを開発するEF Polymer(EFポリマー)や遠隔点検向けのIoT・AIサービスを提供するLiLz(リルズ)が、5億円を超える資金を調達しました。農業残渣(ざんさ)を活用した商品の開発および販売に取り組むFOOD REBORN(フードリボン)の評価額は100億円に迫りつつあります。
Morning Pitchに登壇した沖縄スタートアップと大企業の間でも、連携事例が創出されています。HelloWorld(ハローワールド)は、大手電力会社が展開するテレワークオフィスと共同で、オールイングリッシュのホームステイプログラム「まちなか留学」を共同開催しました。訪日外国人向けサービスを提供するPayke(ペイク)はデータプラットフォームの事業会社と資本提携、大手家電量販店のタブレットで広告配信を行っています。
沖縄のスタートアップはバイオ・エネルギーやメディア・エンターテインメントなどさまざまな分野に点在しています。今回はモビリティ、ヘルスケア・Food領域から5社を紹介します。
AlgaleX(アルガレックス)は、泡盛の粕で育てた藻を発酵させたうま味原料「うま藻」と、派生調味料を販売しています。うま藻は、血液をサラサラにする効果があるといわれるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が、サバの13倍に相当するなど、植物性DHAサプリメントとしての機能性を持ちます。同時に、代表的なうま味成分であるグルタミン酸やコハク酸を豊富に含み、植物ながら魚介のような風味のうま味原料として注目を集めます。将来的には、さまざまな未利用資源の高付加価値化を目指します。
HerLifeLab(ハーライフラボ)は、「女性が自分の身体を正しく理解し、前向きにエイジングと付き合っていく」をミッションに、研究者と婦人科医が開発した更年期オンライン診療サービス「マイドクタービバエル」を提供しています。更年期専門の看護師や助産師が、患者の心と体の状態を丁寧にカウンセリングし、医師の診察、処方、処方薬の配達までを一貫して提供している点が特徴です。
KAFLIX CLOUD(カフリックスクラウド)は「旅行業の完全DX」をミッションに掲げ、レンタカー業界の完全なデジタル化に取り組んでいます。具体的には世界初となるレンタカーを基盤としたクラウドERPシステムや、煩わしいレンタカーの受け渡し手続きをスムーズにする非対面型キオスク端末を活用。また、車両の状態を瞬時に把握することで、顧客とのトラブルを未然に防ぐカースキャニング技術を取り入れることで、レンタカー事業者向けのDX推進事業を展開しています。
バタフライピー研究所 は、マメ科植物の「バタフライピー」を活用したサステナブルな事業共創に取り組んでいます。バタフライピーは高い抗酸化作用から健康素材としての活用が期待されており、医薬品の原料となる他、健康食品や化粧品等にも活用できる可能性が示唆されています。また、天然色素の抽出に成功し、天然着色料として流通を計画しています。独自の栽培方法により、沖縄県内で耕作放棄地を活用した無農薬栽培を行い、高齢農家や障碍者の雇用を実現するといった、副次効果も期待できます。
Alpaca.Lab(アルパカラボ)は運転代行配車のアプリ「AIRCLE(エアクル)」を展開しています。効率的なアルゴリズムによって配車は平均30秒、平均到着時間は9分となり、従来と比較すると約80%以上の時間短縮に成功。今までにない配車体験と業務改善を実現しています。2020年8月に一般利用者向けサービスを開始し、利用者は15万ダウンロード、300業者600台以上が登録されており、累計注文数は40万件を突破しています。
沖縄県には2023年度、外国人を含め853万2000人の観光客が訪れた。最多だった18年度の約85%の水準に回復している。こうした動きに呼応する形で新たなリゾート開発が進み、今後はサステナブルツーリズムなどでも投資が進むとみられています。日本全体でも訪日外国人客数は大幅に増えていますが、政府は人数だけではなく消費額(質)の追求に力を入れています。沖縄での観光をめぐる新たな動きは、観光関連の質の向上につながる新たなサービスを誘発する可能性があります。沖縄発スタートアップに対する注目度は一段と高まるはずで、結果として低賃金などの課題解決につながることが期待されます。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
スタートアップ事業部 ミドル・レイターユニット
伊達 貴徳(Date Takanori)
大手電機メーカーにてソフトウェア開発、ミドルウェア開発などを経験。その後、大手コンサルティングファームにて、テクノロジーコンサルティングやセキュリティーアドバイザリーを担当。現職では、スタートアップ エコシステム運営やAI領域におけるスタートアップ アクセラレータなどに従事。また、大学ピッチコンペ審査員や港区スタートアップメンターなども務める。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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