モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、7月4日に開催した「不動産テック特集です。

2030年度には22年度比で倍以上の約2.4兆円規模にまで拡大

日本国内の不動産テック市場は順調に伸びています。矢野経済研究所によると2022年度は1兆1115億円。30年度は倍以上2兆3780億円規模まで拡大すると予測しています。

グローバルでの住宅系テックスタートアップによる資金調達状況は、仲介効率化の分野が資金調達額で大きな割合を占めており、取引数としては不動産仲介や不動産投資、住宅用賃貸といったプラットフォーム系が多い状況です。特に仲介分野は、人に代わってテクノロジーが仕事を行うケースが増える兆しかもしれません。

2023年から24年前半にかけたグローバルの不動産テックの資金調達ランキングによると、不動産管理やエネルギー効率化、不動産投資にかかわるスタートアップが大型調達を行っています。

調達額が最も多かった米Metropolis(メトロポリス)は、駐車場の自動管理を実現し、ユーザーが現金やクレジットカード、チケット機を探す必要がなくなるサービスを提供。40以上の主要都市で500万人以上のドライバーが活用しています。Lesson(レッスン)は不動産管理と維持保全を簡素化するためのプラットフォームを展開。エネルギー効率や持続可能性の向上を通じた物件価値の最大化を目指しており、脱炭素という観点からも注目を集めています。また、両社とも、AIの活用を通じたさらなる成長も期待されています。

高度なAI技術を導入する動きが活発化

このほかの海外のスタートアップもAI技術を積極的に取り入れており、AIを活用した正確な画像認識、自動記述や自動見積りなどによって工数の大幅な削減につながる技術が注目されています。スペインのRestb(レステブ).aiは物件の画像を自動的に分析することで、不動産会社に実用的な物件情報を提供します。米PinPoint Analytics(ピンポイントアナリティクス)は高度なAIを用いて、数百万のデータポイントを分析し、土地の特性などにも応じて正確なプロジェクト見積もりを提供します。また、建築現場の人手不足解消に貢献するスタートアップも、グローバルベースで続々と誕生しつつあります。
不動産テック最大手の1社であるZillow(ジロー)は、AI活用に対するガイドラインをオープンソースとして提供を開始し、生成AIがもたらすリスクや差別予防のイニシアチブをとっています。
Zillow社は創業時から公平性や透明性を重視した経営を行っていますが、大手がこのような動きを見せることは、マーケットの方向性を示す上で意義深いと感じます。

神サイトと称される「不動産情報ライブラリ」

日本国内では国土交通省が、不動産テックの力を活用したさまざまな基盤整備に注力しています。特に不動産IDは不動産版のマイナンバーともいわれ、すべての不動産にIDを付与して管理する動きを加速しています。このシステムのAPIなども無償開放され、民間テクノロジーの推進を後押ししています。
また、国交省は今年4月から、一般ユーザーに向けて「不動産情報ライブラリ」を無料公開しています。SNS上では「神サイト」との評判もあり、6月末時点で既に700万PVを超えるなど話題を呼んでおります。
不動産IDを活用した官民連携の実証実験も進行中です。具体的には大手損保と共同で、不動産IDを活用した罹災証明書発行手続き支援サービスの高度化に着手。大手物流会社とはドローンやロボットによる配送と組み合わせることで、業務効率の向上を目指すほか、空き家解消にも取り組んでいます。

観光・レジャーなどの領域を舞台に、イノベーションが加速

不動産テック領域では大企業とスタートアップの連携事例は増えています。バカンは大手鉄道会社と共同で、窓口での待ち時間の可視化を推進。ライナフは大手管理会社が担当するマンションで、スマート置き配の導入を進めています。

このように不動産テックは、観光・レジャーや物流・モビリティ、環境・エネルギー、シニア、防災・安全など不動産業界以外の領域で、イノベーションが加速しつつあります。このため新規事業づくりや投資といった観点から、最新のトレンドやスタートアップを定期的に確認していく必要があります。

今回はIoT、修繕・リノベーション、業務支援、管理、シェアレンタルという5つの分野から5社を紹介します。

DeNA発ならではの強みを生かした大規模修繕工事事業を展開(株式会社スマート修繕

スマート修繕はディー・エヌ・エー(DeNA)発ベンチャーで、分譲マンションやオフィスなどの大規模修繕工事事業を展開、工事の見積もり・支援サービスを提供しています。DeNA発ならではの強みが、工事に使われる部材などのデータベース化。大型マンションにはざっと1000個以上の項目があり、例えば外壁とサッシ等の隙間をうめるシーリング工事については、幅や深さごとの単価を記していきます。こうしたデータに基づき適正価格の見積もりを実施。事業を回せば回すほど強くなる仕組みを構築しています。

インテリアや家電を自由に交換できる循環型サブスク事業(株式会社クラス

クラスは、インテリアや家電を始めとした耐久消費財を、自由に借りる・返せる・交換できる循環型サブスク事業の「CLAS」を運営しています。顧客としては、個人からスタートアップ、大手の法人企業まで存在し、自宅、オフィス、モデルルーム等で使用されています。大型・高額になりがちな耐久消費財の購入や所有にまつわる負担を軽減し、いつでも自由で最適な製品を利用できるようにすることで、個人・法人の空間的・時間的価値を向上させます。また、廃棄ロスの削減にもつなげ脱炭素社会づくりにも貢献していきます。

不動産仲介業務の接客に特化したSaaS(株式会社Facilo

Facilo(ファシロ)は「『暮らしに合わせて軽やかな家を住み替える世界』を実現する」をミッションに掲げ、仲介業務の事務作業や顧客とのコミュニケーションを、ブラウザ上で集約できるクラウドツールを提供します。不動産仲介業務の接客に特化したSaaSで、不動産取引の煩雑なやり取りを一元化・可視化。年間500件にも及ぶプロダクト改修のスピードと質の高さが売り物で、暮らしに合わせてもっと柔軟に家を住み替える社会を実現することを目指します。

オンラインで住宅・宿泊の予約が完結する集客プラットフォーム(matsuri technologies株式会社

matsuri technologies(マツリテクノロジーズ)は「テクノロジーで『たび』と『すまい』の形を変える」をビジョンとする、新しい空間活用モデルのパイオニアです。①無人で施設運営を可能にするソフトウェア群の開発・販売等を行う、無人管理ソフトウェア②オンラインで住宅・宿泊の予約が完結する集客プラットフォーム③空間の価値を顧客に届けるオペレーション/ブランド-という3つの事業を展開。テクノロジーを競争優位の中核として位置づけ、集客からカスタマサポート、清掃管理、数値管理までを行います。

IoTのデバイス選定からアフターサポートまでワンストップで提供(株式会社アクセルラボ

アクセルラボは「『空間』にテクノロジーを実装することで、『シームレスな世界』をデザインする。」をミッションに、スマートホームサービス「SpaceCore」とIoTエンジン「alie+」の提供を主力事業として展開しています。強みは、他のテック企業と違いプロダクトを提供するだけでなく、IoTのデバイス選定から導入支援、導入に係る設置工事、アフターサポートまでワンストップで提供している点で、2028年までにはalie+への100万デバイス接続の実現を目指します。

不動産業は買い手と借り手、売り手と貸し手の間に立って情報を透明化する必要がありますが、オープンデータの未整備が行く手を阻んでいました。こうした課題を官民で解消しようという一大プロジェクトが不動産IDです。オープンデータの整備は、新たな不動産テックの誕生を誘発することになるでしょう。

 

 

▼テーマリーダーProfile


デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

不動産・建設セクター担当

小池 俊光(こいけ としみつ)

大手不動産デベロッパーを経て、コンサル・IT企業・ 投資ファンドを巡り現職。デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて、事業再生、M&A、不動産/ホテル事業に関するアドバイザリー業務に従事。その後、東証上場2社(IT企業と不動産企業)の合弁企業取締役として、事業の立ち上げとスケールを推進。また、投資ファンドでは、不動産会社への投資、および取締役として事業スケール、DX化、子会社M&Aにかかる事業戦略立案、経営企画部長/事業部長の立場でけん引。

 

 

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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