この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、6 月27 日に開催した「FemTech(フェムテック)特集」です。
女性は生まれてから色々なライフステージを経験します。具体的には思春期の月経に始まって婦人系疾患に直面したり、人によっては妊娠・不妊を経験したり、産後のケアが必要なケースもあります。また、多くの不調を抱えることの多い更年期にも直面します。
フェムテックは、こうした女性の健康に関わるさまざまな悩みを、主にテクノロジーを活用して解決するサービス、ソリューション、製品群のことを指す言葉です。
世界市場は拡大傾向にあり、今後も継続的に成長すると予測されています。米国の調査会社によると2021年の規模は455億㌦。650社以上の企業が参入しており、25年には751億㌦まで拡大する見通しです。
フェムテックが成長を遂げている社会的理由は、医療界の男女格差に向けた是正の動きが進んだり、新興国の女性教育が進展したことによって、ヘルスリテラシーが世界的に向上していることです。経済的な要因としては、幼い頃からインターネットやスマートフォンが身近にあったデジタルネーティブ世代が妊活や育児に直面したことで、企業に働き方の多様性を求め始め、福利厚生サービスの充実などにお金を投じ始めたことなどが挙げられます。結果としてフェムテックに対する注目度は高まり、成長が加速しています。
国内市場も医薬品医療機器法(薬機法)の緩和などを背景として着実に伸びており、2023年は東京都が卵子凍結に係る費用の助成を開始したこともあって、前年比約8%増の695億円となりました。こうした動きに伴いフェムテックへの参入企業も年々増加しており、今後もさらなる企業の参入や消費行動を促進する可能性があります。
フェムテック系の製品やサービスといったソリューションは、思春期・成熟期・更年期・老年期といったライフイベントごとに直面する女性特有の悩みやニーズに応じる形で展開されています。国内のフェムテックは、これまで月経のケアや妊活が中心でしたが、現在は分野が枝分かれして製品とサービスも増え、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)などを含めた分野の解決策も提案されるようになってきました。
従業員の健康づくりを通じて企業価値を高める健康経営を掲げる企業が増えるなか、健康経営のキーワードとしても注目を集めています。女性の社会進出が進むなか、働く女性の心身のトラブルは企業経営に多くの影響を及ぼしているからです。
45~59歳までを更年期世代と考えると、女性就業者の3分の1が同世代に該当しており、更年期を理由に昇進を辞退した経験のある女性は50%、辞退を考えたことのある女性は17%。合わせて70%近くに上るとのデータもあります。経済的負担も大きく、月経を例にあげると、生理痛・月経前症候群などに伴う体調不良が引き起こす労働損失と、医薬品・通院にかかる費用など1年間の負担は約7000億円にのぼると試算されています。
このため福利厚生制度などを通じてサポートし、こうした影響を軽減するメリットは企業にとっても大きく、実際にフェムテックを活用して社員が安心して働ける環境づくりを行う企業が増えてきています。
フェムテックでは月経・避妊、妊娠・不妊、更年期、ヘルスケア/ホルモン、婦人科系疾患という女性のライフステージすべてを網羅する分野の課題を解決するため、多くのスタートアップが事業を展開しています。その中で特に注目する必要があるのはディープテック領域です。多くの企業がアーリーステージではありますが、技術系創業者の支援やさまざまな分野からの技術者の参画、資金投資などが活性化しており、これから拡大するのは必至です。今回は婦人科系疾患を除く4つの分野から5社を紹介します。
MamaWell(ママウェル)は妊娠生活とキャリアの両立を支援する伴走型健康管理サービスを企業や健康保険組合向けに提供しています。ウェアラブルデバイスと同社のアプリから取得されるデータに基づき、個々のパーソナル助産師が社員の健康状態を分析。最新の医学的エビデンスを踏まえ、適切な活動量を維持できるようにサポートを行います。企業は同社からの報告を通して、妊婦社員の健康状態や就労環境、身体負荷などの把握が可能となります。従業員数20人から1万人までさまざまな規模の企業に導入されています。
SUSTAINABLEME(サステナブルミー)は更年期を支援するための総合的な製品・サービスを提供しています。具体的には更年期に特有の身体・精神的な課題に対応するためのカウンセリング、健康管理プログラムを通じ、個々のニーズに応じたサポートを実現します。また、企業向けには健康経営支援サービスを提供し、従業員の健康維持と生産性向上をサポートします。職場環境の改善や健康促進活動の推進を通じて、企業の持続可能な成長と従業員のワークライフバランスを向上させることが目標です。
Lasiina(ラシイナ)は軽失禁(尿モレ)の不安を解消するセンシングサービスの開発を進めており、検知センサーデバイス、専用の尿もれシート、スマートフォンアプリの活用によってデータを蓄積し、個人の症状に合わせて漏れ状況を可視化します。ターゲットとなるのは若年・中年層の女性のうち、特に軽度の失禁に悩むアクティブな女性。自分でケアし、トイレ管理できるように支援します。すでに試作機は完成しており、モニターテストを実施しており、尿モレの量を高精度で検知する技術に取り組んでいます。
インテグロは、月経カップに溜まった経血の量、色、粘度を簡単に記録・管理できるアプリ「Oh My Flow」を開発しています。婦人科医との強固な連携と、コアな月経カップユーザーコミュニティを持つことが強みで、生理を可視化し、適切なセルフケアや病気の早期発見を促します。また、自宅で痛みなく行える点が従来の病院の血液検査と異なります。経血を活用した子宮頸がんなどの検査キットもあわせて開発を進めており、検査できる疾患の拡大を目指しています。
ノビアスは大阪公立大発ベンチャー。数本の毛髪から鉄、カルシウム、亜鉛などの不足しがちな主要ミネラルの摂取量を評価するサービス「MINE(マイン)」を展開しています。自身の体内ミネラルバランスを可視化することで、からだの状態に合わせた管理栄養士監修の検査レポートを提供し健やかな毎日に向けてサポート。食生活の行動変容を促し、栄養不良に起因する生活習慣病の予防につなげます。フェムテックのほか、ペット向けにもサービス展開を進めており、幅広いアプリケーションへの活用が可能です。
帝国データバンクによると、企業の管理職における女性の割合は増加傾向にあり、24年は10.9%と初めて1割を超えました。しかし、政府が2020年代の可能な限り早期に30%程度となることを目指しているのに比べると、低い水準にあります。
フェムテックは女性だけが考えるべきテーマではありません。自分の身近な家族、友人、同僚、上司や部下が抱えているかもしれない問題に目を向けることが、フェムテック産業の活性化につながり、女性のさらなる社会進出を促すというサイクルを構築することになります。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部 ヘルスケアユニット
中井 美奈(なかい みな)
国内外の金融機関、民放報道機関(ロンドン支局)にて従事、英国でNGOを立ち上げ、ロンドン大学にて開発学博士号を取得後、2021年9月より現職。前職では、EU・アフリカ・中東における報道制作や、ジェンダー関連分野を中心とした発展途上国の開発事業プロジェクト等に従事。現職ではFemtech・ヘルスケアの新規事業創出支援を中心に担当。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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