モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、5月23日に開催した「IoT特集です。

IoTのセキュリティに対する規制を導入する動きが活発化

IoTは「Internet of Things」の頭文字から取った言葉で、遠隔地から対象物を操作・計測・制御したり、モノ同士で通信を行うことが可能となります。主な活用事例としては①太陽光発電の発電量の監視②商用車の運行状況などの把握③降水量と過去データを照らし合わせて、自動で警報を発令―などが挙げられます。

IoTの機器数も着実に増えています。総務省によると2018年時点の世界全体の機器数は208.7億個でしたが、25年には440.2億個へと大幅に増える見通しです。

こうした中、各国が力を入れているのはIoTのセキュリティに対する規制です。英国では2024年4月、スマート家電やデジタル車載器、ゲーム機などを英国で販売する企業を対象にPSTI法を施行。サポート期間の明記などを義務づけており、違反した場合は、最大で1000万ポンドもしくは世界売上高の4%の多い方が制裁金として科されます。EUでは2026年以降、ネットワーク接続機器にサイバー攻撃対策を義務化したサイバー・レジリエンス・アクト(CRA)を段階的に施行する予定です。

米国連邦通信委員会(FCC)は24年3月、トラストマークに関するルールを採択しました。主に消費者向けの無線機器が対象で、製造者は消費者に製品情報を開示する必要があります。日本ではNOTICEと呼ぶプロジェクトが展開されています。IoT機器に外部からアクセスし、容易にログインできる機器を見つけると、プロバイダー経由で該当機器を使っているユーザーに通知します。

エッジAIに注目が集まる

IoTの領域では製品・サービスだけではなく、周辺技術の発展にも注目していただきたいと思います。特に高速通信規格の「5G」や次世代通信規格「6G」に代表される無線技術や生成AIと組み合わせることで、IoTの活用を考える必要があります。これから特に注目を集めると思われるのが、端末機器にAI機能を搭載するエッジAIです。

IoTの場合、デバイスで得た情報をすべてクラウドに集約化した上で処理を行うクラウドAIが、一般的にイメージしやすい技術です。これに対しエッジAIは、デバイスもしくはサーバー上でデータを処理し、加工した情報をクラウドに上げることができる技術です。これによって通信コストの削減やプライバシーリスクの低減を実現します。活用事例は製造業務の機械制御やモニタリング、映像配信、自動運転、遠隔手術など。エッジAIソリューション関連の市場規模は2022年で117億円でしたが、年率40%を超えるペースで成長し、26年には430億円に達する見通しです。

活用が進むとみられるデジタルリハーサル技術

そのほかの応用事例としては、遠隔制御によって農機の動きを誤差数センチ以内に抑えるスマートアグリや、自宅のベッドを病院のベッドのように活用できるバーチャル病棟などがあります。その中で、特に活用が進むとみられているのがデジタルリハーサル技術です。

リアルな空間の情報をIoTによって取得しサーバー空間上に再現、モノのシミュレーションなどを同空間上で行うデジタルツインを活用したもので、人流データと組み合わせることによって、人の動きまで同空間上で再現できる技術です。それをシミュレーションすることによって、例えば小売業界や交通施策などでマーケティングに反映させるといった活用が見込まれます。

大企業とスタートアップの協業については、IoTの活用レベルに合わせ幅広い事例がみられます。2021年ごろまではソフトウエアやアプリケーションの構築といったレベル3の領域で協業事例がみられたのに対し、22年以降はAIに対応したIoTを目指すケースが顕在化しています。エッジAIプラットフォーム「Actcast」を運営するIdein(イデイン)は大手商社のグループ会社と、駐車場機能の高度化に向けたソリューション事業の検討を進めています。今回は産業・消費者向け、プラットフォームという分野から6社を紹介します。

 

製造から小売り、日用消費財の管理・購入までをIoT・AIによって一気通貫で管理(株式会社タスカジ

タスカジは、家事代行マッチングプラットフォームを運営しています。これから新たに提供しようとしているのが、製造から小売り、日用消費財の管理・購入までをIoT・AIによって一気通貫で管理するサービス。消費財メーカーが顧客に直接アプローチできるリテールメディア(小売り広告)を展開する計画です。また、家電量販店などではIoTデバイスとともに、あらかじめデバイスがセットされた棚を販売。マンションデベロッパーやハウスメーカーと共同でサービスが最初から組み込まれた物件を開発する計画です。

受諾開発と自社製品の製造販売(株式会社346

346 (サンヨンロク)の事業は受諾開発と自社製品の製造販売という二本柱から成り立っている。このうち受諾開発では、デザインリソースの提供、技術開発、コンサルティング、部品調達といった総合的な支援を行い、メーカーの多様なニーズに応える形でサービスを提供。プロジェクト単位での受注により収益を得ています。今後はデザインと技術開発支援の提供に注力。クライアントの多様なニーズに対応するためのサポート体制を強化し、新規プロジェクトの獲得と既存顧客の横展開を目指す。

人と自然とテクノロジーが穏やかに調和した暮らしを実現(mui Lab株式会社

mui Lab(ムイラボ)は、人と自然とテクノロジーが穏やかに調和した暮らしを実現する、スマートホームコントローラー「muiボード第2世代」を提供しています。強みは、美しさと機能性を両立したユーザー中心型デザインと先端テクノロジーが融合している点。また、スマートホーム機器の世界的な共通規格である「Matter(マター)」など、オープンな技術プラットフォームのサービスを提供するほか、muiボードに代表される独自ブランド製品の展開を通じた世界観の確立を目指しています。

さまざまなソリューションを手軽に開発し運用(Idein株式会社

IdeinのエッジAIプラットフォームは、さまざまなソリューションを手軽に開発し運用できる点が特徴です。強みは安価なAIデバイスで高速実行する技術を保有していること。また、大量のAIデバイスを遠隔運用する技術に秀でており、2200店以上のファミリーマートで、24時間・365日にわたって運用中です。パートナーはハードウェアの開発や設置、施工、SI、コンサルなど170社を超えるさまざまな企業によって構成、大規模な事業にも応えられる国内最大規模のエコシステムを築いています。

ペットのようにだんだん家族になるロボット(GrooveX株式会社

GROOVE Xは、ロボット「LOVOT」を提供する。名前を呼ぶと近づいてきて好きな人に懐き、抱っこをねだり、抱き上げるとほんのり温かいなど、生き物のような生命感があるのが特長です。また、その愛らしい見た目からは想像できない最先端テクノロジーに込められた技術力が評価され、国内外問わず数々のアワードを受賞しています。ユーザーからの質の高い多くのフィードバックを得られており、30カ月が経過しても90%が有料契約を継続。他のロボットとは圧倒的な差がでています。

特定の建機メーカーに制約されず、後付けが可能な遠隔操作装置(ARAV株式会社

ARAVは建設機械をはじめとした各種機械・装置の遠隔操作・自動運転ソリューションを開発しています。遠隔操作装置「ModelV」は、特定の建機メーカーに制約されず、後付けが可能です。建設業界では2025年に技能労働者の数が90万人不足するとみられ、2024年4月に施行された働き方改革関連法の対応もあって、人材の確保だけではなく、効率的な作業現場の体制作りが求められています。ARAVのビジネスモデルによって、危険な環境での作業負担の軽減につながることが期待されます。

 

IoT機器は世界的に人手不足が深刻な、物流や建設、医療分野で導入が進むと予測されており、IoT系ベンチャーもこうした分野を中心に活躍の場が広がりそうです。

 

 

▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

ビジネスプロデュース事業部  

菱尾 晃一(ひしお こういち)

 

神戸大学経営学部卒。大手通信会社で、モバイル・IoT製品の事業企画を経験。キャンペーンの企画・運営、デジタルプロモーション、プロダクト価格設定を担当。現職では、テクノロジー・メディア・通信領域の大手企業向けの新規事業開発、オープンイノベーションの支援プロジェクトに従事。

 

専門性・実績
・官公庁:社会起業家育成プログラムの運営、起業家海外派遣・育成プログラムの企画・運営
・スタートアップ:Morning Pitchにおける、化学・素材領域のスタートアップの支援
・大手化学メーカー:脱炭素領域の市場動向・スタートアップ調査
・大手金融機関:エネルギー業界の脱炭素領域投資動向調査
・大手金融機関:脱炭素領域のスタートアップスカウティング

 

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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