モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、4月18日に開催した「エンタメ特集です。

グローバル市場ではデジタル領域の伸びが顕著

近年のエンタメ分野はVTuber(バーチャルユーチューバー)やeスポーツ領域の動きが活発で、国内ではスタートアップのIPO(新規株式公開)も相次いでいます。2Dや3Dのキャラクターをアバターに用い、ネット上で活動するVTuberのプロジェクトを運営する企業は2022年6月、東証グロース市場に上場。オンライン配信だけにとどまらず、オフラインでのライブや会場を貸し切った企画などのイベントも開催しています。

その翌年にはeスポーツ業界初の上場スタートアップが誕生しました。eスポーツ総合商社としてイベントの企画・運営や、プロゲーマー・YouTuberなどのマネジメント、eスポーツを活用した地方創生プロジェクトも進めています。東京・秋葉原ではeスポーツ専用施設も運営しています。

エンタメ、メディアのグローバル市場は拡大し続けており、特にデジタル領域の伸びが顕著です。最近の動向を見ると、デジタルプラットフォームに費やす時間が増えていることから、企業側はプロダクトの購入時だけではなく、継続的に消費者にリーチする傾向が強まっています。ゲームの場合、従来は一度ソフトを購入するとずっと遊べるといったパターンでしたが、現在は課金モデルのような形によって無料でダウンロードする方法が主流。継続的にアイテムを購入するという部分から収入を得るという形態が多くなっています。

コンテンツ産業のグローバル市場の内訳は、放送・キャラクターの占める割合が大きい一方で、年平均の成長率という観点では、アニメ・映画が高くなっています。日本経団連によると2020~25年の年平均成長率は30%近くに達する見通しです。

 

ポケモンのコンテンツ累計収入は900億㌦

コンテンツIP(知的財産)としては、ポケットモンスターやハローキティなどが累計収入の上位にあり、収入源としてはどのIPも洋服やぬいぐるみといった小売りがメインです。TOP25の約半分にあたるコンテンツが日本発で、最上位のポケモンの累計収入は約900億ドルに達します。

日本では、大企業がCVCを通じスタートアップとの協業を目指す動きが顕在化しています。大手ゲーム会社が2022年に設立したCVCは、同社のIPやエンタメ創出・IP価値の最大化に向けたノウハウと、ベンチャー企業の技術やアイデアを掛け合わせ、既存エンターテインメント事業の強化に加え、次世代のエンターテインメント事業の創出を視野に入れています。主な投資先はメタバース、ブロックチェーン、VR/AR、クリエイターエコノミー、ファンエコノミー、没入技術、AI等をキーワードとする領域です。

グローバルで展開可能な映画コンテンツの開発に取り組む

大手映画会社のCVCは、グローバルで展開可能なコンテンツや新たな制作手法の開発などに取り組むことを目指しています。また、バーチャルプロダクション手法の研究開発拠点としてメタバーススタジオを設立したり、アクセラレーションプログラムの運営も行います。

メディア・マーケティング領域はブロックチェーン、コミュニティ、AI、コンテンツ、XR、配信プラットフォーム、ビジネスデータなどで構成されており、今回はその中から5社を紹介します。

フォートナイトに特化したメタバース制作スタジオ(株式会社EbuAction)

Ebu Action(イブアクション)は米Epic Gamesが提供する人気ゲームの「フォートナイト」に特化したメタバース制作スタジオ「BORDER」を開発・提供しています。5億人のユーザーを誇るフォートナイトを通して、YouTubeと同じようにユーザーがコンテンツを投稿できるプラットフォームとなっており、次のSNSとして企業のZ世代向けマーケティングをサポートします。また、コーポレートブランディングとして利用でき、体験が非言語のため海外ユーザーも多いことから越境マーケティングでの活用が可能です。

ライブ・エンターテインメント企業の間接業務を共通化(株式会社リベリオンズ)

リベリオンズはライブ・エンターテインメント企業の間接業務を共通化する「Project R」を提供します。大企業に属さない独立系のプロスポーツチームやライブエンターテイメント企業を一つのグループとし、それぞれのチーム・団体の特徴を活かしながら、適切な資本投下によって間接業務を共通化、売上利益の増加を図ります。また、マーケティング・バックオフィス・間接業務でスケールメリットを創出し、質の向上、コストダウンを実現します。すでにプロバスケットボール、プロハンドボール、女子プロレスなどのチームが参画しています。

VTuberをサポートするプロモーションネットワーク(株式会社any style)

any styleは個人で活動するVTuberをサポートするため、熱狂的なファンコミュニティに向けたプロモーションネットワーク「my dear. nest」を提供します。企業向けに提携VTuberを起用したPR企画や映像の制作を行うほか、推し活アプリなどの関連事業も展開します。今後は、追加の資金調達を実施し、海外でも同様の戦略で事業を推進。長期的には提携するVTuberのグッズ販売を通じて、IPのプロデュースに注力していく考えです。

マーダーミステリーで町おこし(株式会社Sally)

Sallyは物語のある人狼ゲーム(会話と推理を中心としたパーティーゲーム)である「マーダーミステリー(マダミス)」というジャンルに特化した、ゲームの制作・投稿プラットフォーム「ウズ」を提供します。参加者は1人のキャラクターとしてゲームに参加できる点がマダミスの特徴です。既に18万ダウンロード数の実績があり、ユーザーあたりの平均通話時間も1週間あたり6時間50分と極めて長い。事業はtoCだけではなく、法人向けにIPコラボによるファンマーケティング、自治体には町おこし協力などを展開。中国や韓国での人気が高いため、自治体向けにはインバウンド領域の強化を図ります。

トレーディングカードの価格を可視化する鑑定サービス(株式会社コレクテスト)

コレクテストはトレーディングカードの価格を可視化する鑑定サービス「VALUE SCOUTER SERVICE」を提供しています。真贋鑑定におけるAI画像認証と、インターネット上の取引価格情報を元にリアルタイムで価格を解析する技術の双方で特許を取得。パッケージの機能面・デザインにも趣向を凝らしています。NFT技術の活用も検討しており、 今後はトレカ以外のジャンルやトレカ×NFT領域での展開を目指し、法人・行政と連携しながら多角的に事業を拡大していく方針です。

国内エンタメ市場の主役は漫画やゲームでしたが、Z世代を中心にスマートフォンで見る縦型のショート動画に対する人気も高まりつつあるなど、新たな動きも活発化しています。こうした新たなコンテンツの開発はスタートアップが積極的に行っており、スタートアップ企業が今後のエンタメ市場のけん引役を担っていきそうです。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

Innovation Solution事業部

田中 美咲(たなか みさき)

神戸大学経営学部卒。デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーにて、企業の買収、売却支援に従事。現職では、大企業の新規事業開発支援・スタートアップの個社支援・海外展開を担当。

 

 

 

 

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