モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、3月14日に開催した「睡眠特集」です。

睡眠不足に起因する日本の経済損失額は1380億㌦

毎年3月の第3金曜日は世界睡眠デーです。まだまだ知名度の低い取り組みですが、睡眠の重要性を伝えることを目的としたグローバルな呼びかけです。
Emergen Researchなどの調査によると2023年の睡眠ビジネスは、世界全体で約72兆円です。健康意識の高まりや睡眠研究の進歩を踏まえ、今後は年平均で6.3%成長し、2030年には110兆円規模に到達すると予測されています。特に顕著な伸びを示すと思われるのが、センシング・AI技術最新技術で睡眠の質を高めるスリープテック市場です。
経済協力開発機構(OECD)の発表によると、日本は、断トツで睡眠時間が短い国となっております。2021年の調査だと7時間22分。世界の平均よりも1時間以上、下回っています。加えて睡眠不足に起因する日本の経済損失額は1380億㌦とも言われており、国内総生産(GDP)比で見ると調査対象国の中では最下位です。
こうした現状を踏まえ厚生労働省は「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公表。昨今の睡眠科学の研究成果を踏まえ、年代別、性別、労働環境別にガイダンスを策定しました。関連スタートアップとしてはユニファや、リラックスした姿勢につながるマットレスを提供するブレインスリープを紹介しています。また、睡眠計測機器の日常的な利用について言及しており、将来的には体温計や体重計のような使い方を、睡眠測定デバイスでも進めていくべきではないかと提言しています。この領域ではSoxai(ソクサイ)やS’UIMIN(スイミン)など、複数のスタートアップが活躍しています。

睡眠領域のオープンイノベーションを目指したコミュニティが発足

民間企業主導による取り組みも活発化しており特にここ数年は、コミュニティの設立が相次いでいます。ZAKONE(ザコネ)とSleep Innovation Platformは睡眠領域のオープンイノベーションを目的として発足し、大手通信会社や寝具会社が参画しています。睡眠関連のスタートアップも、一連のコミュニティに大きく絡んでいます。睡眠ヘルスケア協議会は睡眠ビジネスのルール形成に向け、睡眠スタートアップのニューロスペースなどが立ち上げました。

航空会社と共同で時差ぼけ解決ソリューションを開発

大企業と睡眠スタートアップの協業事例も活発化しています。中心プレイヤーがニューロスペースです。通信会社と共同で睡眠ソリューションを開発しビジネスホテルチェーンに導入したほか、航空会社との間で時差ぼけ解決ソリューションを提供。宿泊・航空サービスのアップグレードに貢献しています。

睡眠スタートアップは、睡眠の測定から改善までを一貫して行うコンサルティング企業をはじめとして、測定や改善の領域や、子供や高齢者を対象としたモニタリングに関わる企業などで構成されており、今回は4社を紹介します。

装着リングで睡眠時間や心拍数などを把握(株式会社SOXAI)

SOXAI は、装着負担がなく睡眠・健康管理が可能なヘルスケアスマートリング「SOXAI RING」を提供しています。重さも約3㌘と着けていることを忘れさせるデバイスで、心拍数や血中の酸素濃度、バイタル(生体情報)、体表面温度のデータを取得。データを分析し、睡眠、体調、運動の3領域でスコアリングし、モバイルアプリに結果を表示するという流れです。睡眠領域ではスコアや合計の睡眠時間、呼吸数や心拍数など睡眠に関わる詳細な情報を把握することが可能です。今後は睡眠分析の高度化や血糖値モニタリング機能の搭載などを計画しています。

保育園児の睡眠を見守るセンサーで死亡事故を防ぐ(ユニファ株式会社)

ユニファは保育園児の睡眠を見守るセンサー&記録アプリ「ルクミー午睡チェック」を提供しています。保育園における死亡事故は、睡眠時に発生する割合が最も多い点を踏まえたサービスで、乳幼児に午睡センサーを取り付ければセンサーが体動を検知し、アプリが体の向きを自動で記録。体動が止まった際やうつ伏せになると、アラートが鳴る仕組みです。2018年のサービス開始以来、多くの午睡チェック業務をサポートした結果、累計出荷数・利用園児数・導入施設数で1位を獲得。現在までに3500施設で導入され、約4万人の乳幼児を見守っています。

脳波を測定し睡眠のステージを正確に判定し、改善アドバイスを行う(株式会社S’UIMIN)

S’UIMINは、 どこでも誰でも簡単に正確な睡眠計測ができる脳波測定デバイス「InSomnograf」を提供しています。睡眠の状態が変わると寝ている最中の脳波が変化しますが、InSomnografは脳波を測定し睡眠のステージを正確に判定。AI解析を通じ睡眠の質が詳細に分かるレポートを作成し、改善アドバイスを行います。また、健康診断や人間ドックのオプションとして睡眠検査を実施するヘルスケアと、サプリや寝具、医薬品等の試験を受託する研究支援という2種類のサービスを提供。今後は第三の事業として、医療診断事業を開始する方針です。

飲むと睡眠の質が向上する藻類サプリメント(株式会社アルガルバイオ)

アルガルバイオは、東大発ベンチャーが良質な休息のために開発した藻類サプリメント「Moneru」を提供しています。Moneruは同社が有する20年以上の藻類研究の成果を基にした藻類ライブラリーからクロレラ「AL-0015株」を使用したサプリメント。農薬を一切使っていない植物素材を使用し飲むと睡眠の質が向上、翌日の日中は眠気が起きにくい点が特徴です。短期的にはクリニックを中心とした販路を拡大し、導入数を増やしていきます。中期的には健康経営という観点から企業の福利厚生などへの活用事例も進め、ビジネスパーソンへの販売拡大を目指します。

コロナ禍を経て健康への関心は一段と高まっており、睡眠関連の市場が拡大しています。高級寝具に対する引き合いは強く、睡眠ゲームアプリがヒットするなど、睡眠に着目した商品・サービスは増加傾向にあります。矢野経済研究所によるとスリープテックの国内市場は、22年の60億円から27年には175億円と3倍近くまで拡大する見通し。睡眠系スタートアップが市場のけん引役を担いそうです。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部

梅澤 迪(うめざわ すすむ)

大学院時代、国際統合睡眠医科学研究機構にて睡眠について研究。現職では、民間企業へのスタートアップ協業支援、官公庁への政策実行支援を中心に担当。

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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