この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年11月30日に開催した中国ベンチャー特集です。
現在の中国は労働人口の減少、製造コストの上昇、米中摩擦、台湾問題などによりこれまでの成長が限界に達していて、経済成長率の鈍化は避けられないことになっています。こうした動きを踏まえ中国では、政府主導で内需型経済への転換を積極的に進めています。
内需回復の切り札となるのは設備更新や耐久消費財の買い替え促進です。それに向け、政府は補助金や税制上の優遇、資金供給などの産業支援策をあらゆる都市、地域産業に対して実施しています。
また、半導体や人工知能(AI)、5G、電気自動車(EV)や燃料電池自動車などの新エネルギー車、産業用ロボットなどを主要分野と定め、外資企業の投資拡大に向けた規制緩和策も推進しています。
中国では国内の都市を一線、新一線、二線、三線、四線、五線都市に分類しています。一線と新一線の間には明確な水平分業が行われていて、各都市は徐々に独自の産業エコシステムを形成し、スタートアップが急速に成長し、ユニコーン(企業価値が10億㌦以上の未上場企業)が続々と台頭してきています。
一線都市の代表が北京です。大学や高度人材が集積し、AIやディープテック産業が注目されています。中国最大の経済都市である上海には、金融センターという特性を反映し、フィンテックと医療企業が集積しています。中国のシリコンバレーと称される深圳市はEVのサプライチェーンが構築され、ロボットやIoTなど、ハードウェア領域に強い企業が台頭しています。新一線都市の代表格が、越境ECやメタバースなどアリババ社関連のITベンチャーが集積する杭州です。
このうち深圳市では、政府主導によって多数のインキュベーション施設が提供されており、多くのテック系スタートアップやベンチャーキャピタルが集結し、イノベーションが進んでいます。「時間はお金、効率は命!」をモットーとする起業文化が形成されており、「2階で研究、1階で起業、隣の建物で融資」というようなスピード感重視のエコシステムを構築しています。また、1990年代から外資を積極的に誘致しており、政府も多くの優遇政策を実質的に推進しています。
日中関係が決して良好ではない中、日本の大手企業が中国のスタートアップと協業する動きが相次いでいます。大手自動車メーカーは、SenseTime(センスタイム)と自動運転のAI技術に関する共同研究を行っているほか、大手商社は物流ロボットのスタートアップに出資。大手製薬会社は医薬品ネット通販のJDヘルスとジョイントベンチャー(JV)を設立し、認知症患者向けの健康サービスプラットフォームを展開しています。
また、中国にて蓄積した技術を生かして日本マーケットで横展開する事例も多くみられます。
今回は中国の小売り、流通、生成AI、医療、人材領域から5社を紹介します。
Cloudpick(クラウドピック) Japan は、AIシステムを使ったレジ不要の無人店舗ソリューションを提供しています。アプリによるQRコードで客が入店。退店時に自動決済される仕組みで、盗難リスクがありません。また、AIカメラによって訪れた客を解析、店舗のサイネージに表示される映像をユーザー属性に合わせたものにするほか、属性に合ったクーポンをリアルタイムで配信することも可能です。すでに19カ国500店舗以上の導入実績があります。今後は入店認証方式を拡充し、アプリだけではなくクレジットカードのタッチ機能などにも対応できるようにします。
PacPort(パックポート)は、集合住宅向けの宅配システム「Pabbit」を販売しています。伝票番号を打ち込むと通信でクラウドにデータが送られ、配達中となっているかどうかなどが確認されます。確認が済めば開錠されるため、不在時でもオートロックの中に入り、置き配や各戸専用のロッカーに配達できる仕組みです。インターネット通販の利用増によって、物流業界では宅配物の増加、再配達率の上昇が課題となっています。Pabbitはあらゆる業者に対応できる汎用性の高さ、設備導入の容易さ、荷物の伝票番号で入館できる操作性が優位性です。
Sparticle(スパーティクル)は生成系AIを活用した新しい顧客体験を創造するためのデジタルプロダクトを提供しています。翻訳ツールをはじめとした6つのプロダクトを展開しながら、独自の大規模言語モデル(LLM)の開発にも着手しています。生成AI導入の大きなハードルとなる「ハルシネーション」(誤った情報を生成する現象)を防ぐ検索拡張生成(RAG)技術で、国内有数の精度を誇る点が競争力です。国内大手企業と協業して生成AIを活用するプラットフォームの構築に取り組んでいます。
ワンメディカは、中国・海外の患者向けに日本の最先端医療サービスを届けるプラットフォームを提供しています。中国では医療が供給不足に陥っており、日本では需要不足にあるという状況をマッチングすることで解決します。具体的にはオンラインのセカンドオピニオンや手術のニーズに対して、病院および医師の予約、旅行行程のアレンジ、患者情報の翻訳、当日のアテンドから最後の支払いまでワンストップで支援。設立から1年で既に累計500件以上のプロジェクト数を達成しています。今後は中国側での医療機関との提携を加速させ、訪日患者の受け入れ実績を増やしていきます。
NGA(エヌジーエー)は、社会全体の人材流動を促すことを目指す日本初の第3世代AI採用サービス「HelloBoss」を展開しています。応募する側は、AIによる履歴書の自動生成、最適仕事の人材マッチング、チャット・メモ機能などがすべて無料利用可能であり、企業に対しては、企業データベースによる導入時の自動化から、求人情報のAI自動生成、最適人材のAI自動マッチングなどを低価格で提供します。独自のAIマッチングや画像生成AI技術、豊富な企業データベースを強みとし、中小企業でも利用できる日本の人材流動インフラを目指します。
中国の実質国内総生産(GDP)の成長率は減速しますが、 2030年代半ばには米国のGDPを追い越すとの見方もあります。有力なスタートアップが誕生し、ユニコーンへと成長するエコシステムを各都市間で加速させることが、世界最大の経済大国への原動力になるのは確かです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部
厳 諄(げん じゅん)
上海出身、京都大学在学中に外国人向け学習塾などで起業。外資系コンサルティングファームにて、流通系企業の大型基幹システム開発や日系小売企業のグローバル展開支援などを経験。現職では、Morning Pitch Chinaの運営、海外企業とのマッチング、中国スタートアップ企業の日本参入サポート等のプロジェクトに関わる。
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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