モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2024年1月18日に開催したCross Border Trade特集で、国際間の貿易、物流、電子商取引(EC)のことを指します。

日本のEC化率は9%で、世界平均の半分以下

日本貿易振興機構(ジェトロ)の2023年版「世界貿易投資報告」によると、22年の世界貿易(名目輸出額ベース)は前年比11.1%増の24兆2400億ドルとなり過去最高でした。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにエネルギー価格や食料価格が高騰し、貿易額を押し上げ、2年連続で20兆ドルを超えました。

日本は輸出・輸入ともに伸びており、直近の2022年では輸出入合計で前年比29.3%増の216兆円と、過去最高の水準でした。一方で、円安や資源高の影響を強く受け、輸出が20兆円の赤字と大幅な貿易赤字となっており、輸出額をいかに増やしていけるかが課題です。

輸出促進を図るうえで急がれるのが、EC化率の向上です。経済産業省によると2021年時点での世界の越境EC市場は7850億㌦。EC化率が60%を超えている中国をはじめ諸外国は、需要が高まっている越境EC市場にうまく対応しています。しかし、日本のEC化率は約9%。世界平均の20%に比べると大きく遅れており、十分に対応ができていない状況です。

日本産の食品や日用品、工芸品などは品質水準が高く海外ユーザーからの引き合いも強い。ただ、どんなに良い商品でもネットで展開していなければ購入することは難しく、商機を逃してしまっているのが現状です。

模倣によって商機ロスが顕在化している日本ブランドの製品

二点目の課題が模倣品対策です。流通額は約4600億㌦に及び、公正な経済活動の阻害要因となっており、被害総額は流通額の10倍に相当する約4兆6800億㌦に達しています。本来であれば海外で勝負できたはずの日本ブランドの製品が、模倣されてしまったことで、商機ロスにつながるという問題に直面しています。

三点目の課題は品質保証と国際標準です。輸出の際には世界的なスタンダードに基づく評価を踏まえたうえで、日本の製品の品質が確実に保持されている証明が必要となるため、この辺りの対応も不可欠となります。

国際標準ではこうした公平な物差しを通じ、グローバルでしっかりと品質を担保していくことが強く求められています。国際標準化機構(ISO)の代表的な規格は、品質管理に関するISO9001と環境関連のISO14001、企業の情報管理体制やリスク対策などを定めたISO27001です。この三つの領域は圧倒的に中国にリードされているだけに、国際基準への対応が急がれます。

 

イノベーションで輸出関連の課題を解決

輸出関連の課題解決に向けては、イノベーションが求められます。例えば品質保証と国際標準の動きに対応するには、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用したトレーサビリティー(生産履歴の追跡)の確保や、真贋の証明が必要になってきます。また、脱炭素や環境配慮型の貿易を進めるには自然エネルギーを活用した輸送が重要な役割を果たし、輸送速度を上げるには高速による2地点間輸送などが有効です。

課題解決に向けた大企業とベンチャーの協業も活発です。大手印刷会社はWebサイトなどの多言語表示サービスを手掛けるベンチャーと共同で、越境ECの支援を行っています。国内の大手航空会社は米国のスタートアップ「ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic)」に出資しています。同社は現在の半分の時間で目的地への飛行を可能にする、超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」の開発を進めており、計画が順調に進めば2029年の商用化が見込まれています。

ベンチャーマップは貿易と物流とECという3つの大きな軸で構成しています。新技術とのかけ合わせやさまざまな業界との連携が深まっており、新価値創造に向けて業界全体の課題解決が進んでいます。今回はこの3領域から、5社を紹介します。

世界中どこからでも車が購入できる中古車輸出AIプラットフォーム(otoz.ai Inc)

otoz.ai Inc(オートズエーアイ)は、世界中どこからでも車が購入できる中古車輸出AIプラットフォームを提供しています。取引の透明性を確保するウェブオークションや業務管理の効率化につながるタスクフォースなど、全部で6つの機能を導入。通常の自動車輸出入で発生する複雑な業務フローを効率化し、BtoB・BtoC間での中古車の相互取引を実現することができます。日本でリリースした後、わずか半年で、中古車輸出事業者の登録は7000台以上、バイヤー登録は6カ国以上といった実績を残しています。

ゲリラ豪雨の前触れなどを正確に把握し、気象災害による損害を抑制(メトロウェザー株式会社)

メトロウェザーは、いかなる場所・状況でも風を観測・分析し、最適なソリューションを提供する小型の大気計測装置「ドップラー・ライダー」を開発・販売しています。大気中にレーザー光を発射し、塵や微粒子からの反射光を受信することで風速・風向を観測。突風の可能性が高い飛行ルートやゲリラ豪雨の前触れとなる上昇気流などを正確に把握し、気象災害による損害の抑制が可能になります。国内だけでなく具体的なニーズが高まっている米国にも法人を設立し、現地雇用を含めた組織体制の構築を進めています。

地球上の2地点間を50分で結ぶ高速輸送機の開発に取り組む(将来宇宙輸送システム株式会社)

将来宇宙輸送システムは「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を宇宙でも。」をミッションに掲げ、宇宙に繰り返し打ち上げることができる往還技術をベースとした有人宇宙輸送機の開発・運用を手掛けています。また、地球上の2地点間を50分で結ぶ高速輸送機や、地球周回軌道上にある施設の建造や運営などを支援する宇宙輸送機の開発・輸送サービスの実用化を目指しています。輸送機は点検・整備を行えば1000回ほど利用可能で、これによって利用価格を抑制できる見通しです。

廃棄手数料を売り上げに転換するプラットフォーム(ユアトレード株式会社)

ユアトレードは、海外販売に取り組む事業者の入り口と出口をサポートする越境販売プラットフォーム「nomino」を提供しています。nominoは返品商品や余剰在庫品を検品した上で自社サイトや海外の複数ECチャネルで再販売する機能を持っています。返品や余剰在庫対応は煩雑で廃棄手数料が発生しますが、プラットフォームを活用すれば廃棄手数料がゼロになるだけではなく、売り上げに変換。経済的・環境価値を提供します。日本の事業者が世界中のECプラットフォームに簡単に販売できるサービスも展開します。

Web3.0に対応した鑑定証明システム(サイカルトラスト株式会社)

サイカルトラストは、情報資産にアクセスする人が許可された本人かどうかを認証できる「真正性」を保証した、Web3.0対応のプラットフォーム「鑑定証明システム」を提供しています。ブロックチェーンを利活用し、各社が導入している統合基幹業務システム(ERP)と連携することで、サプライチェーンの透明化を保証します。サステナビリティー経営や経済安全保障推進法の流れに伴い、トレーサビリティーソリューションの導入は至上命題で、サービスに対する注目度は高まりそうです。

経済産業省によると越境ECの世界市場規模は、30年に7兆9380億ドルと10倍に拡大する見通しです。日本の製品の品質が確実に保持されていることをきちんと証明できる体制を強化した上で、EC化率を大幅に高めていくことが喫緊の課題となります。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部 兼 ビジネスプロデュース事業部

曽我 修平(そが・しゅうへい)

商社にて鉄道関連の輸出入のプロジェクトマネジメントに従事したのち、新規事業企画・推進を担当。モビリティ領域における、ベンチャー×大企業での新規事業推進を経験。現職では、Morning Pitch運営、Morning Pitch Innovation Community運営、社内新規事業プログラム等のプロジェクトに関わる。大学院に在籍し、システムズエンジニアリングについての研究にも従事

 

 

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