モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、2023年10月12日に開催した「防衛特集」です。

2027年度までの5カ年の防衛予算は1.6倍の43兆円に

日本の防衛予算は2012年度から増え続けており、防衛力の抜本的強化を踏まえて政府が23~27年度までに積む5カ年の防衛予算は総額で、前回計画に比べ1.6倍の43兆円となります。特に防衛研究開発費の伸びは著しく、次期戦闘機などの開発を重視した結果、23年度は22年度比で3.1倍となりました。

こうした動きと並行する形で日本政府は防衛領域のスタートアップとのマッチングを重視しています。昨年6月には防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進委員会が立ち上がったのに続き、スタートアップ企業との意見交換を実施。今年に入ってからは防衛省と経済産業省がスタートアップに出資するベンチャーキャピタル(VC)4社と意見交換を行っています。

デロイト トーマツ グループも防衛関連で新たな動きを見せています。昨年3月には、宇宙・安全保障分野に関わる企業や官公庁へのサービス提供を行う「デロイトトーマツ スペース&セキュリティ合同会社」を設立しました。

防衛領域でのイノベーションは、先端技術の開発から既存品の調達までのあらゆる段階で実現可能で、最近のキーワードとなるのがデュアルユース(軍民両用)という考え方です。

従来は防衛や宇宙領域の技術を民間に転用するスピンアウトという形が、一般的な流れでした。インターネットや米航空宇宙局(NASA)の技術を活用した低反発の枕は代表的な事例です。これだけではなく民間で活用されている技術を防衛・宇宙領域に適用することにより、開発投資の低減や開発期間の短縮につなげていこうとするのがデュアルユースです。海外で事例として挙げられているのがAI関連や画像処理の技術などです。

 

NATOやCIAがファンドを通じてスタートアップに投資

デュアルユースの動きを支えているのがオープンイノベーションで、軍や諜報機関が投資を通じてかかわるケースが顕在化しています。北大西洋条約機構(NATO)は昨年、NIFというファンドを設立し、AIや量子技術、バイオテクノロジー、革新素材、次世代通信といった領域にかかわるスタートアップに投資しました。米中央情報局(CIA)もファンドを通して1投資先あたり50万~300万ドルの投資を行っています。例えば人工衛星から取得した高解像熱データを踏まえ、基地・設備、原子炉などの稼働状況を監視するスタートアップのソリューションが、デュアルユースとして提供されています。

アクセラレーション・プログラムで大企業と組み成長

アクセラレーション・プログラムを通じスタートアップが大企業と組んで、成長していくケースも海外では主流になりつつあります。有名なのは米ボーイングのプログラム。航空宇宙・防衛分野のサプライチェーンの強化などを目的としています。資金提供を行うだけではなくて、スタートアップが防衛産業に参入するための橋渡しをするケースも複数確認されています。

日本では、企業などに重点的な研究開発を促す防衛分野の技術ニーズをまとめた「防衛技術指針」を通じ(1)これまで見えなかったものを見える化する能力(2)未来の状況を予測して先手を打つ判断能力の強化(3)効果的・効率的にサーバー空間を防御する能力-など、12の技術開発テーマが共有されています。その中には量子コンピューティングやメタバース(仮想空間)など、一般的に知られている技術もあり、防衛産業だけに特化したものではありません。

 

防衛市場への参入によって確固たるブランドを確立

日本の防衛市場は、他の産業領域にはない特有の市場価値があります。長期契約を実現した場合には安定した納品先となり、厳しい基準をクリアした技術・商品は確固たるブランドを確立する可能性が高いからです。また、20万人以上の自衛官が所属していますが、それだけの人数が一つの組織に属していることはなかなかありません。その場を活用して事業検証を行えることは、新しい価値の提供につながると思っています。

今回はドローン、パワードスーツ、衛星データの解析、サイバー関連技術という領域から4社を紹介します。

 

2時間連続飛行が可能な自動航行無人ヘリコプター(株式会社プロドローン)

プロドローン(名古屋市天白区)は、最大で2時間連続して飛行でき、耐風性に優れた自動航行無人ヘリコプターを提供しています。平時はオンラインの診療・服薬指導や医薬品のドローン配送などを目指しており、携帯電話が通じなくなった際に無線基地局を搭載したドローンを飛ばし、地上にある圏外の微弱電波から要救助者を特定するという災害時を想定した開発を進めています。防衛関連の用途としては無人ヘリという特性を生かした広域監視のほか、将来的には空飛ぶ軽トラによる物資補給も視野に入れています。

重作業による身体的な負担を軽減するアシストスーツ(株式会社イノフィス)

イノフィス(東京都八王子市)は、重作業による身体的な負担を軽減する「マッスルスーツ」を提供しています。使い勝手の良さやリーズナブルな価格によって世界で最も売れているアシストスーツで、防衛用途でも活用されています。災害対応作業のマッスルスーツは最大補助力が25.5キログラム。電力が不要で防水防塵などの特徴から、過酷な現場でも高いパフォーマンスを発揮できます。装着者の健康状態を管理できるサービスの開発や、人工筋肉の技術を活用した製品開発といった観点からの協業を進めていく考えです。

衛星データコンテストのプラットフォームを提供(株式会社Solafune)

Solafune(ソラフネ、東京都渋谷区)は、世界中の開発者が衛星データや地理空間データにアクセスし、特定の課題を解決するためのアルゴリズムの開発を競う、衛星データコンテストのプラットフォームを提供しています。コンテスト形式によって、質の高いアルゴリズムを短期間に開発。アルゴリズムはクライアントに提供するほか、オープンソース化することでユーザーを広げながらマネタイズを行います。アフリカ地域・新興国での事業化に積極的に取り組んでおり、防衛領域でのソリューションの提供も検討しています。

イスラエル国防軍出身のハッカーが開発した次世代型サイバーセキュリティプラットフォーム(AironWorks株式会社)

AironWorks(アイロンワークス、東京都港区)は、イスラエル国防軍出身ハッカーが開発する生成AIを用いた次世代型サイバーセキュリティプラットフォーム「AironWorks」を提供しています。高まるサイバー攻撃の脅威に対抗するため、AIを活用して高品質な従業員向け訓練・教育を自動で実現。金融業界をはじめIT企業や、政府および自治体など、幅広い組織で使われています。今後は国防や経済安全保障といった観点からの導入も進めていきたいと考えています。

政府がスタートアップとのマッチングに力を入れる理由は、サプライチェーンの強靭化を推進し先端技術を取り込むことで、防衛の生産・技術基盤の強化を図るためです。また、防衛領域は衣服とか食事、簡単な事務作業も含まれた幅広い産業でもあります。スタートアップの活躍の場は意外に大きく、さらなる活躍が見込まれます。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

経営管理部

松岡 巌 (まつおか・いわお)

大手重工メーカーを退職後、大学内研究所、政府系シンクタンク、国際財団等を経て、技術開発関連のコンサルティング業務に従事。デロイトに参画後は、会社全体の経営管理を行う傍ら、テクノロジーに関わる業務をリード。主にディープテック関連の技術開発やサービス構築について、技術開発戦略の策定からスカウティングやPOC支援等を含めたオープンイノベーション全般についての支援を実施。京都大学大学院卒。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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