この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年9月21日に開催したEdTech(エドテック)特集です。
日本社会はコロナ禍や少子高齢化の進展、AIの台頭などによって不確実性・変動性が増し、将来的な見通しが難しくなっています。その結果、従来型の教育の在り方が再定義される時期に突入したと言っても過言ではありません。
政府も2023~27年度の教育行政の指針となる「第4期教育振興基本計画」で、人生100年時代に複線化する生涯にわたって学び続ける学習者の創出を目標として掲げました。主体的・対話的で深い学びや個別最適化学習、社会教育人材の養成など、様々な観点で新たな教育の形を形成していく姿勢を打ち出しています。こうした動きを踏まえ注目を集めているのが、教育(Education)と技術(Technology)を組み合わせた造語のEdTechです。
EdTechはテクノロジーを使用し、教育にイノベーションを起こすビジネスです。アメリカでは2000年代に誕生し、オバマ政権(2009~17年)時に発表した教育業界におけるテクノロジーの活用指針を契機に、本格的に立ち上がったと言われています。日本では2011年頃からEdTechベンチャーが台頭し始め、最新技術で問題を解決し、便利で快適な暮らしを目指す政策「Society5.0(ソサエティ5.0)」の実現に向け、急速に発展し始めました。学習データの管理・分析による個別最適化学習や、主体的・対話的で深い学びを促すアクティブラーニングなど、新たな教育に寄与することが期待されます。
多くの学習塾、自治体での導入が進んでいるのは、個々の理解度に合わせて学習内容を変えるアダプティブラーニングで、AIによる間違いパターンの分析を通して学習コンテンツや学習量を提案します。問題解決力をはぐくむことを目的としたSTEAM教育では、プログラミングなどの学習コンテンツを提供する会社が現れ、自治体との連携も活発化しています。アクティブラーニングは、オンラインを通じ海外の学生との研究に関する議論や交流を行うケースがあります。一般向けの大規模公開オンライン講座(MOOC)を活用すれば、実際に日本の大学の講義にアクセスし、統計学やAI活用など様々な学びを得ることができます。
米マーケットリサーチのHolonIQによると2022年の世界のEdTech市場は2950億ドルで、25年には約1.4倍の規模まで成長すると予測しています。また、25年時点で教育産業全体に占めるEdTechのシェアは約5%にとどまる見通しで、教育産業にEdTechが進出していく余地は非常に大きいことがわかります。日本では少子化によって顧客数の減少が懸念されますが、教育市場は拡大することが予測されています。教育への関心の高まりから、家庭の教育費が増加傾向にあるのが理由です。
EdTech市場の拡大とスタートアップの動向には密接な関係があります。米国では多くのEdTech系スタートアップが誕生し、2015年以降でユニコーンになった企業も複数存在します。こうした企業がけん引役を担い、教育市場全体の拡大が見込まれます。
日本でも、EdTechスタートアップと大手企業との協業は活発化しております。顧客ごとにカスタマイズした情報システムを構築する企業は英語のスピーキング力を評価するAIを提供するスタートアップを子会社化、教育業界に向けた新サービスの開発を進めています。自治体との連携も顕在化しており、プログラミング学習教材を提供するライフイズテックは、600の自治体へ導入しています。
また、学び直しであるリカレント教育や生涯学習が改めて注目されているように、社会人の教育にも焦点が当たり、実際に国からの社会人教育に対する後押しがあります。助成金では、人材開発支援助成金に「人への投資促進コース」が新設されました。また、人材を企業の成長の源泉と考える人的資本経営への取り組みが進み、経営戦略と連動した人材育成や働きやすい社内環境整備の方針について、有価証券報告書で公表することが義務付けられています。このため社員の学びを支援し、さらに可視化するということが今後加速すると考えられます。
社会人教育の分野でも大手とスタートアップの連携が進んでおり、通信教育の大手は社会人女性のリスキリング(学び直し)支援を行うWarisを買収、女性キャリアの自律支援に力を入れていく考えを示しています。今回はSTEAM教育や学習支援、学習コンテンツという領域の中から5社を紹介します。
BYSENT(バイセント、東京都新宿区)は子どもの心を育てるコミュニケーションアドバイス機能を搭載した子ども向け絵本アプリを提供しています。何人ものプロのナレーターによる読み聞かせ機能や、子どもの閲覧履歴から興味・関心があるものを蓄積してデータ化、親が子どもとより深い会話をできるようになるレポート・アドバイス機能などを搭載しています。今後は、国内のBtoCサブスクリプションでユーザーを広げながら、データを元にコンテンツの開発を行う予定です。
YAGO(ヤゴー、東京都港区)は、小学生向けオンライン・プログラミングスクール「マイプロ」を展開しています。小学生のカリキュラムでプログラミングが必修化されましたが、実際には授業でプログラミングを行うことはほぼありません。また、多くの親はプログラミングが分からないといった不安を抱えています。こうした実態を踏まえ、子どもに人気のゲーム「マインクラフト(マイクラ)」を用いて楽しく遊べる、子どもが飽きずに続けられるように独自の教材を提供しています。
Edv Future(エデュフューチャー、東京都新宿区)は、テクノロジーで教育効果を可視化するサービスを提供しています。10分間のアセスメントを行うことで、学校・学年・クラスごとに持つ教育ポリシーに合わせて教育効果を可視化するほか、生徒別の支援ポイントが教員にレコメンドされ、クラスや学年のポリシーに適したプログラムを構築できます。今後は、公教育に留まらず自己学習・人材配置・離職防止・与信に活用できるモデルを開発し、民間企業やコンシューマー事業への展開を構想しています。
Herazika(ヘラジカ、横浜市青葉区)が提供するのは、人間の怠惰性に焦点を当てたやる気を使わないオンライン自習室です。勉強領域と時間が似たユーザーでチームを組成し、勉強の様子を映し合うことで自習室を自宅で再現。チームが目標を達成すればインセンティブがもらえるようにしました。今後はリスキリングを推進する企業、資格専門学校や英会話スクールなど社会人の学習者を抱える法人にプラットフォームを提供し、BtoBtoCを展開します。
Co-Growth(コーグロース、東京都品川区)は営業に不可欠なコミュニケーション力を強化するため、DXサービスを提供しています。これまでに蓄積してきた良いコミュニケーションを標準化することなどで従来の問題点を解決。データ・アルゴリズムを活用することで、効率化、属人性の解消も実現しています。具体的には様々なコミュニケーションを動画で捉え、良い言動を抽出。良い点を言語化したものを集め、その要素を標準モデルとして再構築することをシステムがサポートしています。
日本ではデジタルトランスフォーメーション(DX)化の進展などを背景に、2030年には技術革新をリードできる専門職・テクノロジー領域の人材が170万人も不足するのではないかという試算があります。次世代型スキルへの転換は国にとって急務な課題で、学校教育からリカレント・リスキリングといった大人の学びに至るまで、EdTechが果たす役割は一段と大きくなりそうです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
イノベーションソリューション事業部
片岡 泰祐 (かたおか・たいすけ)
学生時代に、中高生向け勉強習慣化プラットフォームの立ち上げ・運営。就活支援NPO「encourage」にて、学生の就活支援及び大学1、2年生向け早期就活コミュニティの立ち上げ・運営。現職では、シード・アーリー期スタートアップの支援プログラム運営、ミドル・レイター期スタートアップの伴走支援
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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