モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

今回は、8月31日に開催した「AI特集」です。

AIは、「人工的な知能・知性」を意味し、計算とコンピューターを用いて知能を研究する計算機科学の一分野と言われています。現在は生成AIの「ChatGPT」がバズワードとなったことをきっかけに、第三次または第四次とも称されるAIブームが再来しています。

世界市場は、今後5年間で年平均40%近い伸びを示すとの見方も

第一次はAIの概念が登場した1950~60年代。コンピューターによる「推論」や「探索」が可能となり、特定の問題に対して解を提示できるようになりました。第二次は実用可能な水準に達した1970年代で、多数のエキスパート(専門家)システムが誕生しました。注目を集めたのは、IBMが開発したチェス専用のスーパーコンピューター「Deep Blue(ディープ・ブルー)」がチェス王者に勝利したことです。

第三次はAI自身が知識を獲得する機械学習が実用化された2010年代で、2022年にChatGPTがリリースされ、生成AIにより画像や文書、さらには動画まで生成できるという衝撃的なサービスがいくつも発表されたのが現在です。

世界のAIの市場規模は2022年に1000億米㌦を超えていると言われています。米国の調査会社である SkyQuestによると、今後5年間の年平均成長率は38.1%に達すると予測されており、2030年には1兆5000億米㌦を超える見通しです。

多くの業種が数パーセントから十数パーセント台の伸びが見込まれる中、予測とはいえ、これだけの高い数字は驚異的であると言えます。

生成AIを活用してコンシェルジュ業務なども自動化

日本企業では主に、需要や売り上げの予測に加え、顧客分析や在庫の最適化といった実業務の効率化や省人化につながる領域での活用が目立ちます。DXなどで進められてきたルーティンワークの自動化だけでなく、今後は生成AIを活用し、コンシェルジュ業務など個別事象への対応も自動化が進むと考えられます。

特に大手企業の間で、生成AIを活用する事例が活発化しています。

総合エレクトロニクスメーカーでは、グループ企業が開発した対話型AIを2022年4月に全社員導入したのに続き、7月にはグローバルで導入するなどスピード感のある対応をしています。食品会社は対話型AIの全社導入を意思決定から3週間で完了しました。

行政でも導入が進んでおり、東京都は全職員5万人に対して導入体制を整えました。都ではAIの利用ガイドラインも一般公開しており、国を挙げての整備が進んでいます。

スタートアップと連携してAIを活用し、新たな価値を提供

また、AIを導入するだけではなく、スタートアップと連携してAIを活用し、新たな価値を提供する動きも顕在化しています。カメラの販売やITソリューション事業などを展開する大手グループは、アウルと資本業務提携しました。同社は画像認識のコア技術を開発し、カメラのデータを端末側で処理するエッジAIソリューションを提供しています。映像とAIという両者それぞれの強みを生かし、小売りの店舗にあるカメラで得られた映像を解析、品出しやレジ対応などの店舗業務の効率化を目指すなどのソリューションを開発します。

AIの活用によって企業にもたらす価値については、日常業務の省人化や効率化に伴うコスト削減効果、業務完了までのスピードが向上するといった点は容易に想像できるかと思います。また、コミュニケーションを通して、個別の事象に対応できることもAI特性の一つですが、今後はシステムと人の関わり方が少し変化するのではないかと推察しています。

サーバー攻撃などに対する予測が容易になり、ブランドの信頼性が向上

今までは既存システムに人間の業務を最適化させるというのが基本的な考え方でしたが、これからは個人の体験を基点とし、システムが合わせていくという考え方に変化していくのではないでしょうか。また、複雑とされてきたサーバー攻撃などに対する予測・対策が容易になることで、企業やブランドの信頼性向上も期待できます。

ただ、AI自体のセキュリティや信用度についてはまだまだ課題が残っており、慎重に取り扱う必要があります。

AIは既に実用の段階に到達しており、企業の生産性向上のツールのみならず、我々の日常生活にも浸透し始めています。

今回は営業、教育・育児、見守り・介護、HR、ファイナンスの領域から5社を紹介します。

商談解析サービスを提供(株式会社ブリングアウト

ブリングアウト(東京都中央区)は、GPTを活用した商談解析サービスを提供しており、録音・録画データをアップロードするだけで、AIが商談をデータ化します。オンライン会議であれば、これらの操作すら必要なく、自動でデータ化してくれます。また、文字データは生成AIに自動的に投入され、商談のポイントが解析・蓄積されていきます。各社に合わせて商談の重要なポイントをカスタマイズしモデルを設計できる点が強みで、そのポイントに合わせ、顧客課題が何かを要約します。

子どもをいじめや犯罪、スマホ依存などから守るAIアプリ(Adora株式会社

Adora(東京都世田谷区)は、親子のスマホにアプリをインストールするだけで、子どもをいじめや犯罪、スマホ依存などから守るAIアプリを提供しています。1タップで子どもの各アプリの利用時間を管理でき、日本初の機能であるSNSでの危険なチャットをAIが自動で親に知らせたり、子どもの危険な自撮りをAIが検知できたりします。また、子どもがどこにいるのか分かるGPSマップや、子どもの歩きスマホを防止するなどの機能も用意しています。

24時間にわたって寄り添うAIコンパニオン(AI6株式会社

AI6(エーアイシックス、東京都中央区)は、独居老人向けの見守り・コミュニケーションサービスを展開しています。24時間にわたって寄り添い、緊急時には即座に対応でき、日常生活の支援などを行えるAIコンパニオンを活用。Wi-Fiのセンシング技術とAIによって深層動作を解析するアルゴリズムにより、30以上の動作を判定し、生活習慣病の予兆も検知します。介護施設で大規模なデータ収集と介護ノウハウの習得を進めており、医療機関との連携を進めています。

独自の機械学習の予測モデルを数分で作ることが可能(AND Solutions Pte. Ltd.

AND Solutions Pte. Ltd.(シンガポール)の代表プロダクトは、誰でもログインして独自の機械学習の予測モデルを数分で作ることが可能なノーコード自動機械学習プラットフォームです。従来のプロセスだと、機械学習の予測モデルをカスタムで構築するにはかなりのコストを要し、データサイエンティストがいなければ対応できません。しかしプログラムには、事前に基本的な機械学習のアルゴリズムが組み込まれており、投入データによって、どのアルゴリズムが最適かということが自動的に選択されます。

日本最大規模のAI人材コミュニティを運営(株式会社SIGNATE

SIGNATE (シグネイト、東京都千代田区)は、日本最大規模のAI人材コミュニティを運営しています。コミュニティ内ではAI開発コンペを行い、ソリューションを作っており、会員とともにさまざまな会社のDXプロジェクトを進めています。また、DX推進のための人材育成クラウドサービスを提供しているほか、組織・職種の情報から全社・部門・職種単位でChatGPTがもたらす影響度を算出し、業務効率化のポテンシャルを可視化する新たなサービスも開始しました。

日本企業は海外企業に比べて生産性が低く、日本生産性本部によると、2021年の日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国の中で27位でした。日本では労働人口が急減しており、生産性を向上させなければ国際競争力が一段と低下しかねません。こうしたシナリオを回避するためにも、AIの活用によるデジタル化のさらなる進展は喫緊の課題となります。

 

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部

打越 まどか(うちこし・まどか)

 

 

過去実績
・テック領域の海外スタートアップ支援、オープンイノベーション事業推進
・グローバルコンサルティングファームで、IT、DX関連の案件に従事
・テック系スタートアップでの新規事業企画・実行

デロイトトーマツベンチャーサポートでの実績
・生成AIを活用した大企業向け新規事業企画・立案
・大企業のDX課題をスタートアップとのマッチングで解決するピッチイベントの運営
・海外スタートアップの技術リサーチ  等

 

 

 

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