モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、8月3日に開催した「高専起業家特集」です。

高専界の甲子園である高専ロボコン

日本では、およそ9割以上が中学を卒業して3年制の高校に進学します。これに対して高専は5年制。5年間にわたって実践的に技術を身に付けることができ、15歳という若いころから実践的なものづくりを学び、経験することが可能です。

卒業後は技術職などに就職する方も多いのですが、大学3年から編入したり、高専の専攻科まで進学したりしてから大学院に進学するなどのパターンがあります。

高専は北海道から沖縄に至るまで全国に58校あり、その大半が国立です。特に中国・四国地方などでは高専進学者が多く、山口・島根・鳥取・香川は10%以上の学生が進学しており、関東や近畿圏などに比べると身近な存在です。

高専生は実践的な技術力で培った実装力を持ち合わせています。その象徴的な事例が「高専界の甲子園」ともいえるアイデア対決・ロボットコンテスト「高専ロボコン」で、今年で36回目を迎えています。自律移動型ロボットによる競技会のロボカップは世界大会も実施されており、大学生などに交じって、多くの高専生も活躍しています。

ハード面での技術以外でも、優秀なデジタル人材を輩出していることから評価も高く、情報処理推進機構(IPA)が若いIT人材の発掘・育成を行う「未踏IT人材発掘・育成事業」に採択されている高専生も多くいます。こうした実績を踏まえ企業からは即戦力人材として評価されており、一般の大学生を上回る高い就職率を実現しています。また、高専出身者により創業された上場企業も多数存在します。

神山まるごと高専では著名な起業家講師を起用

高専生を対象にした起業家教育も進んでいます。今年、話題を集めたのが、4月に開校した私立校「神山まるごと高専」(徳島県神山町)です。

大手エレクトロニクスやIT系など多くの企業の出資で設立された基金により、生徒の授業料を実質無料にするなど、産業界が運営を支援しています。これによって高専の特徴である「ものづくりの力」に加え、社会と関わる力を学ぶことができます

山間にある人口約4,800人というロケーションにも関わらず、著名な起業家講師が日常にいる環境を提供しており、高専の平均倍率が2倍のところ、約9倍の入試倍率を記録するなど、非常に人気な高専となっています。また、2028年には滋賀県立高専が新設される予定です。

国としても高専の支援に力を入れており、スタートアップ育成5か年計画では「高等専門学校における起業家教育の強化」がうたわれています。こうした動きに伴いスタートアップ教育の環境整備費として、高専一校当たり約1億円の補助が行われています。

ディープラーニングのコンテストも

高専生を取り巻く起業コンペも盛り上がっています。

ロボコンはハードウェアの要素が強かったですが、今年で4年目を迎える「高専DCON」(全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト)では、ディープラーニングの技術を軸とし、事業化までを企画します。その間、ディープラーニング協会や起業家のサポートなどもあり、プレゼンテーションでは投資家からの判断もあって、企業評価が数億円のビジネスも誕生しています。実際に1億円もの基金があり、出資を受けているスタートアップの実績もあります。この他、情報通信研究機構(NICT)による起業家甲子園などでは、ロボカップのように大学生チームに交じり、高専チームの方も多く出場し活躍されています。

一輪車の電動化キットで、みかん農家の負担を軽減

Morning Pitchに過去に登壇した高専起業家スタートアップのサービスも活躍しています。CuboRex(キューボレックス)は愛媛県のみかん農家に、一輪車に取り付けることで坂道や凸凹道をすいすい進めことができる電動化キットを導入しました。

みかんの収穫作業は負担が大きく、1日あたり約50~60杯の収穫カゴを畑から土手まで運びますが、一輪車電動化キットにより作業労力は半減、運搬時間は3分の1程度に短縮できました。

CtoCのフリマサービスの利用者が増加しており、モノの売買が手軽になった一方で、従来の買い取り価格の交渉が煩わしいと感じるユーザ―が増えています。こうした現状を踏まえフラーが開発したのが査定アプリです。中古品買い取り販売の大手を通じ展開し、アプリによってプロのスタッフによる査定を行えるようにしました。

今回は5社の高専発ベンチャーを紹介します。

宇宙で高性能半導体など無人の実験機会を提供(株式会社ElevationSpace

秋田工業高専出身の小林稜平代表が設立したElevationSpace(エレベーションスペース、仙台市青葉区)が開発を進めているのは、国際宇宙ステーション(ISS)に代わる、無人の小型人工衛星による宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」です。宇宙空間で実験したいものを搭載、それをまとめてロケットで打ち上げ、ELS-Rが地球の軌道を周回している時に、高性能半導体や光ファイバーなどにかかわる無人の実験機会を提供します。帰還後は、実験で使用したものを回収・分析することが可能です。

対面とオンラインの話し合いを見える化するクラウドサービス(ハイラブル株式会社

大阪府立大工業高専(現大阪公立大工業高専)出身の水本武志代表が設立したハイラブル(東京都豊島区)は、対面とオンラインの話し合いを見える化するクラウドサービスを提供しています。対面の場合は専用マイクと座席位置を登録。オンラインの場合は独自開発のウェブ会議システム活用することで、多言語や雑音の大きい環境でも正確に分析しリアルタイムでフィ―ドバックを実施できます。これまでに学校や企業の会議を対象に7万人を分析し、60件以上の学会発表があり、さまざまな受賞実績があります。

扱うことが困難だった不定形状の商品をつかむロボット(株式会社Closer

Closer(クローザー、茨城県つくば市)は長岡工業高専の樋口翔太代表が設立し、中小規模の食品・物流現場の包装・箱詰め領域の自動化を実現するロボット「PickPacker」を提供しています。独自開発のAI画像処理技術により、従来は扱うことが困難だった不定形状の商品をつかむことができます。また、最小1平方㍍のスペースで設置可能なため、既存ラインにそのまま導入して生産ラインの自動化・効率化を実現できます。

日本初の画像生成AIモバイルアプリ(株式会社AIdeaLab

株式会社AIdeaLab (エーアイディアラボ)は東京工業高専出身の冨平準喜代表が立ち上げた、AIに特化したスタートアップです。全国高専グランプリでの最優秀賞など数々の受賞歴があります。提供しているのは日本初の画像生成AIモバイルアプリ「AIピカソ」。一般消費者向けのモバイルアプリケーションで、テキストからの画像生成や、数枚の写真から自身の似顔絵を描くAIアバターの機能があります。高解像度の画像生成技術や、著作権を考慮した初のAIモデルも独自で開発しています。

水やりや温度など、全体の制御を自動化して持続可能な農業(株式会社トクイテン

岐阜工業高専出身の豊吉隆一郎代表が設立したのがトクイテン(名古屋市中村区)です。豊吉氏にとっては2度目の創業で、有機農業とロボット、AIを組み合わせたシステムによって持続可能な農業を実現しています。愛知県知多市に、実際に農地を所有し、水やりや温度など、全体の制御を自動化しています。収穫に関しては、トマトを画像認識し、色などを判別。適切な時期かどうかを判断し、一つずつ摘まんで収穫します。収穫ロボットは現在開発中です。

高度成長期の製造業の中核的人材を育成するため、高専は今から約60年前に産業界の要請を受けて誕生。重厚長大の産業だけではなく、地域産業の発展も支えてきました。IT社会となり産業構造が変わる中、電気・機械、化学、情報などものづくり関連の授業やプログラミング教育を行う高専は、デジタル領域の起業家の輩出拠点として、さらに注目を集めることでしょう。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

スタートアップ事業部 マネージャー

伊達 貴徳(だて・たかのり)

 

東京工業大学大学院、グロービス経営大学院 修了。東証一部上場電機メーカーにてシステム開発業務に従事した後、外資系コンサルティングファームにてテクノロジーコンサルティング業務に従事。デロイトトーマツベンチャーサポート参画後は、シード期からレイター期までのスタートアップを幅広く支援し、エコシステムの運営、ソリューションの導入支援、海外派遣プログラムの支援、アクセラレーター・メンター等に従事。データサイエンスに関するセミナー講師、機械学習に関する著書を有する。

 

 

 

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