＼イノベーショントレンド解説／

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

今回は、7月20日に開催した「観光・レジャー特集」です。

10月の訪日外国人はコロナ禍前の19年同月に比べ増加

観光・レジャー業界は世界的に2020年以降、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けていました。国際観光客の数でみると、2019年比で一時は7割減まで落ち込みました。しかし2022年頃からは、コロナ禍の収束や外国人の受け入れなどの規制緩和等によって、観光客は急速に再拡大してきている状況です。

次に、旅行消費額を見てみたいと思います。観光庁によると、2022年の日本人による国内旅行消費額は17兆1929億円。マイクロツーリズムの普及により、2019年と比較して8割近い水準にまで回復してきています。一方、訪日外国人の消費額は8987億円と、2021年比では約9倍まで回復してきていますが、最も大きかった2019年比では約2割の水準にとどまっています。ただ、日本政府観光局（JNTO）によると、10月の訪日外国人は251万6500人で、19年同月に比べ0.8%増となりました。高単価で長期滞在を見込める欧米豪からの訪日客の伸びが目立っており、回復の動きは力強さが増すとみられます。

旅行・観光開発指数の世界ランキングで、日本が初めて首位

こうした動きを踏まえると、観光・レジャー分野で重要なことは、日本人国内旅行をベースとしながら、さらなる成長が見込まれるインバウンド需要を狙うことだと考えています。

実際に、日本は世界から注目されていることが、データを通じて明らかになっています。世界経済フォーラム(WEF)が発表した2021年版 「旅行・観光開発指数」の世界ランキングでは、日本が初めて首位を獲得しました。調査は117の国と地域を対象に行われ、2007年の調査開始以来、首位になるのは初めてです。旅行や観光に関する112の項目が総合的に評価されました。特に交通インフラや文化資源などの評価が高く、鉄道サービスの正確さが1位、公共交通機関の本数も1位といった結果でした。

地方にも注目が集まっています。ニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2023年に行くべき52カ所」では、世界の都市の中から英ロンドンに次いで岩手県盛岡市が第２位に選ばれています。「大正時代に建てられた和洋折衷の建築物が街中に残る歩きやすい街で、東京からも新幹線ですぐ」というのが評価の理由で、福岡市もリストの19番目に紹介されました。

東京・京都・大阪はゴールデンルートとして知られていますが、日本人が今まで気づいてこなかった地方への世界的な評価は、観光魅力度のポテンシャルの高さを示していると考えます。

嗜好や趣味にマッチしたスポット情報が快適性を向上

旅行消費額の拡大につなげるために有効なのは、高付加価値化と滞在日数の増加、リピーター化につながる施策だと考えています。高付加価値化には、食やアクティビティといったコト消費に関するコンテンツの充実や富裕層の誘致といった施策がカギを握ります。具体的なサービスは、地域資源を活用した魅力的なプロダクトや宿泊体験です。

滞在や移動にかかわる快適性の向上・回遊性の創出、欧米豪などからの長期滞在旅行者をターゲットとした誘客強化は、滞在日数の増加に欠かせない要素です。言語問題をクリアして移動をサポートする機能の充実を図った上で、「自身の嗜好や趣味にマッチしたスポット情報を得たい」「他の人とは違った、貴重な体験をしてみたい」といったニーズに応えることが重要です。

愛媛県大洲市で１泊100万円の城泊

また、リピーター化にあたっては、旅マエでのPR・発信強化や旅アトでのファン獲得につなげる施策が必要となります。「友人・知人からのお薦め情報は特に参考にしている」「家族や友人・知人と、楽しかった思い出をシェアしたい」といった要望に基づくサービスが活発化するとみられます。

高付加価値化や滞在日数の増加という領域では、ベンチャー企業と大企業等との協業・提携も多数生まれています。

愛媛県大洲市は地銀やベンチャー企業が手を組んで、１泊100万円の城泊ができる「大洲城キャッスルステイ」事業を展開しており、国内外から注目されています。海外では香港発の現地体験予約アプリ「Klook(クルック)」と東南アジアで圧倒的な人気を誇るスーパーアプリ「Grab（グラブ、シンガポール）」が連携しています。

Grab上で、Klookが提供する数多くのツアー、アクティビティ、レストランを検索・予約することが可能となっており、アクティビティと移動サービスがシームレスに提供できております。

今回は旅マエ、旅ナカ、旅アトというフェーズで、5社を紹介します。どのベンチャーも、これからの観光・レジャー業界で、中心的プレイヤーとして期待されている企業になります。

イラストマップを高機能なデジタルマップに変換（ジオ・マーク株式会社）

ジオ・マーク（東京都豊島区）は、イラストマップを高機能なデジタルマップに変換することで、観光メディアをDX化し、地域の魅力をより効果的に伝えることができる制作管理ツールを提供しています。観光協会や観光地域づくり法人（DMO）など観光事業者をメインの顧客とし、電鉄・交通系事業者にもサービスを展開する。今後は、バス情報を利用した機能拡充とともに、NFTを活用し、思い出をデジタルコンテンツとして販売・保存するサービスなど事業の幅を拡大します。

360度映像の保存・編集・配信をクラウドで展開（ACTUAL Inc.）

ACTUAL Inc.（京都市中京区）は、見る人それぞれの解釈を育む「人をつくる記録」をテーマに、360度映像の保存・編集・配信をクラウドで展開するアプリケーションを提供します。ユーザー自身が撮影した動画や写真などのデータをクラウド上にアップロードし、作業することが可能で、これまでの映像編集ソフトに比べ、編集コストを最大4分の１レベルまで削減します。今後は、撮影編集の受託制作を含めて受注し、利用開始のハードルを下げます。

山梨県小菅村での事業化で人口は下げ止まり（株式会社さとゆめ）

さとゆめ（東京都千代田区）は、人を起点として地域に事業を生み出す伴走型コンサルティングサービスを提供しています。これまで50以上の地域で事業を立ち上げてきており、山梨県小菅村では、DMOの設立や商品開発、温泉施設の経営改善を行った結果、観光客が倍増。人口も下げ止まった実績を残しています。JR東日本との提携など大企業との協業に積極的で、NPO・コンサルフェーズを経た有望なプロジェクトを投資ターゲットとする「SATOファンド」の組成も目指しています。

ユーザーに合った飲食店や観光スポットをMAP上に提案（株式会社New Ordinary）

New Ordinary（名古屋市西区）は、AIで目的地を提案するデジタルマップアプリケーション「NOSPOT（ノースポット）」を提供しています。ユーザー情報をAIで学習し、その人にあった飲食店や観光スポットをMAP上に提案できる点が特徴で、東武鉄道とは、浅草～スカイツリー周辺エリアで、新しい観光スポットの提供や移動体験を実現。また、三菱総合研究所とは、モビリティサービス利用後の満足度やその理由を収集・分析する技術も開発しています。

既存の空間を活かしながら、空間の価値を最大化するプラットフォーム（株式会社GATARI）

GATARI（東京都千代田区）は施設に追加的な装置・設備の導入を行わずに既存の空間を活かしながら、空間の価値を最大化するプラットフォームを提供しています。スマホ1台かつノーコードによって空間を作成できる世界初のアプリケーションで、ユーザーがバーチャルセンサー内に侵入・退出したタイミングで演出を設定。遊園地のお化け屋敷や文化遺産、スマートシティ等で導入されています。目立つ観光資源がないと思われがちな場所に導入すれば、新たな観光コンテンツを開発できます。

国内の各地方都市では外国人観光客の受け入れ促進に向けて、ハード・ソフトの整備を強化する動きが相次いでいます。こうした都市間競争が地方に対する世界的な評価をさらに高め、観光魅力度ランキングで盤石な地位を築くことになるでしょう。

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部　

朽木 新（くちき・あらた）

早稲田大学卒。総合人材サービス会社、自治体・DMO向けコンサルティング会社を経て、現職。自治体・DMO向けコンサルティング会社にて、誘客促進に関するアドバイザリー、観光庁案件などでの行政案件のプロジェクトマネジメントに従事。エリアとしては、主に東北地方(宮城県)や信越地方(燕三条、諏訪・蓼科・八ヶ岳エリア)を担当。現職では、東京都「共存共栄を図るベンチャー育成事業(NEXs Tokyo)」にて、地域パートナー開拓等を担当。観光系スタートアップのハンズオン支援にも従事。

～イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ～

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