この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、7月13日に開催した「シェアリングエコノミー特集」です。
シェアリングエコノミー協会はシェアリングエコノミーについて、インターネットを介し個人と個人の間で使っていないモノ・場所・技能などを貸し借りするサービスだと定義しています。対象は多岐に渡り、車や自転車、民泊施設といった有形資産だけではなく、スキル・知見などの無形資産、人材マッチングも含めます。
シェアリングエコノミーが広がった背景には、大きく二つの要因があると考えています。一つ目は、スマートフォンで簡単に位置情報を共有できたり、決済システムが使いやすくなるなどテクノロジーのインフラが発展した点です。二つめは、持続可能な社会づくりへの関心の高まりを踏まえ、環境負荷の低減につながる「所有」から「共有」へのシフトが急ピッチで進んでいる点です。
経済規模の広がりは数値としても現れています。シェアリングエコノミー協会によると、国内の市場規模は2022年度で約2兆4000億円でした。新型コロナウイルスの感染拡大の影響にもかかわらず、この5年間で33%も拡大したことになります。今後、年間の平均成長率はさらに加速し、2032年度には最大、約15兆円まで拡大すると同協会では予測しています。
都心部を中心にシェアリングサービスで台頭が著しいのは電動キックボードです。2023年7月に改正道路交通法が施行され、16歳以上で最高速度20キロ以下であれば運転免許無しで公道を走行できるようになったことを受けて、より消費者が使いやすいサービスへと進化しつつあります。
シェアリングサービスのビジネスモデルについては、(1)スペース(民泊、駐車場)(2)モノ(フリマなどの売買、高級バッグ・洋服のレンタル)(3)移動(車・サイクルシェア、料理の運搬)(4)スキル(家事・育児、記事執筆)(5)お金(必要な金額が集まった場合にイベントを実施、株式購入)-と、大きく5つのカテゴリーに分類されます。多くのスタートアップが事業に参入しており、CtoCモデルが多く、資源・リソースの提供者が一般ユーザーというのが特徴です。
大企業とスタートアップの協業も進んでいます。傘のシェアリングサービス「アイカサ」を運営するNature Innovation Groupは、首都圏のすべての大手鉄道会社との連携を達成したのに続き、オフィスビルでのサービスを普及させるため「2030年使い捨て傘ゼロプロジェクト for ビルディング」を開始。日本では、毎年約8000万本のビニール傘が大量消費されており、この社会課題に取り組んでいきます。
今回は先ほど紹介した5分類の中から5社を紹介します。
Co-LABO MAKER(コラボメーカー、仙台市青葉区)は、研究開発を加速させるシェアリングプラットフォームを提供しています。研究者側が抱えるラボの立ち上げに要する時間・資金の問題、資金を得る手段がないというラボ側の課題を、双方のマッチング、実験のサポートによって解決に導きます。都内大学のラボをバイオラボとして立ち上げたケースでは、購入すると4000万円、立ち上げに半年間かかるラボを、月30万円の負担で即座に実験を行えるようにしました。
MINIMA(ミニマ、香川県高松市)は、月額2000円から家具家電一式のレンタルサービスを提供します。コストパフォーマンスの高い仕入れ・物流網が既に整備されており、リアル店舗を有していることから、小売店で買い取った中古品をレンタルできます。今後は、現在7店舗展開中のFCを50店舗まで増やし、実店舗・Web両面のサポート体制を全国に広げていくとともに、他企業との連携を通し顧客層を学生にも拡大していきます。
angle(アングル、東京都港区)は起業家とメンターのマッチングプラットフォーム「MentorMe」を提供しています。シリアルアントレプレナーなど1500名以上のプロ人材を抱え、シードステージの起業家から東証一部上場企業の新規事業立ち上げに至るまで、6000時間以上のサポート実績があります。また、メンタリングだけではなく、プロ人材がハンズオンでサポートすることも可能です。今後は、社内起業家の支援に力を入れてユーザー基盤を拡大しながら、海外の挑戦者への支援にも力を入れます。
ユアマイスター(東京都世田谷区)はハウスクリーニング・修理等のサービス産業をIT化する、日本最大級のマッチング型ECプラットフォーム「YOURMYSTAR」を提供しています。モノを大切にしたいユーザーと全国の職人をつないでおり、一般消費者向けに依頼できるサービスは80を超えています。事業者向けについては施設メンテナンスサービスや、提携企業の顧客を対象にした居住者向けサービスを展開しています。出店企業には技術力強化のため研修を実施し、評価につなげています。
イチロウ(東京都港区)は、要介護者・その家族の在宅介護をサポートする、オンライン型ホームヘルプサービスを提供します。特徴は、効率的なオペレーションにより、利用料は競合よりも30%低く設定しながら、介護士の時給は平均の1.6倍という魅力的なプラットフォームを実現していること。また、独自のアルゴリズムにより、最適な介護士を最短5分でマッチングし2時間で派遣できるようにしています。今後は、47都道府県の都市部で展開し、要介護者の5割が介護保険外で利用できるサービス提供を目指す。
シェアリングエコノミー市場は急速な拡大が見込まれるとはいえ、ビジネス上の課題は依然として残っています。まず法規制が全く追いついていません。また、資産の提供者が個人なので、人によってはサービスのばらつきが生じます。クラウドソーシングや副業に関しては、事故に巻き込まれないように品質の担保や損害の負担者を明確にするといった施策が必要になってきます。また、人によっては他人にものを貸すことに抵抗を感じるケースもあるので、PR活動も重要になってきます。こうした課題を克服してこそ、市場のさらなる発展につながるはずです。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
イノベーションソリューション事業部
金 成林(きん・せいりん)
日系SIer会社、FX事業会社、中国進出コンサルティング会社を経て、現職。大企業向けの新規事業開発、グロースアップ支援、PMO業務、各種調査分析を得意とする。
代表的なプロジェクト
・日系大手飲料メーカーの新規プラットフォーム事業構想策定
・米メガベンチャーにおけるGTM戦略立案
・日系SIer会社の新規SaaS事業立ち上げに関するアドバイザリー支援
その他実績等
・東京都主催起業家育成プログラム「ASAC」アクセラレーターを担当
・東京都主催スタートアップ支援プログラム「 X-HUB 」海外進出アクセラレーターを担当
・東京都主催スタートアップ支援プログラム「 NEXs Tokyo 」海外進出アクセラレーターを担当
言語スキル
日本語・中国語・韓国語トライリンガル
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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