モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

今回は、7月6日に開催した「大人の学び(リスキリング)特集」です。大人の学びを分類し、リスキリングと言われる人材の再開発を行う領域に焦点を当てて、その背景や事例を紹介していきます。

人的資本経営への取り組みで注目を集める

リスキリングという言葉の定義ですが、新しい職業に就くため、もしくは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する・させることを指します。主に企業主体で従業員が働きながら学んでもらうという概念を示すことが多いようです。

リスキリングが脚光を浴びたきっかけは、世界経済フォーラム(WEF)の2020年年次総会(ダボス会議)です。「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と宣言され、日本だけでなく全世界でリスキリングに対する注目度が一気に高まりました。

リスキリングが必要とされる背景の一つが、人材需給バランスのミスマッチが拡大しており、今後拍車がかかるとみられる点です。もう一つが、人材を企業の成長の源泉と考える人的資本経営への取り組みです。2023年3月期から、経営戦略と連動した人材育成や働きやすい社内環境整備の方針について、有価証券報告書で公表することが義務付けられており、企業としてもそういったものを定点的に測定し、開示する必要性が出てきています。

DX・GX化の進展で次世代型スキルへの転換が急務

ミスマッチの拡大が進んでいる要因は、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化とグリーントランスフォーメーション(GX)化の進展です。2030年には技術革新をリードできる専門職・テクノロジー領域の人材が170万人も不足するのではないかという試算があり、次世代型スキルへの転換が急務です。人的資本経営の取り組みでいえば、無形資産である非財務資産の中核が人材で、資源ではなく資本と捉え投資育成するというトレンドが、日本社会で起こっています。

 

産業の中身がどんどん変化していく中で、私たちに求められるスキルも変遷を遂げています。世界経済フォーラムによると、2025年までに需要が高まると考えられるスキルとして、「分析的思考とイノベーション」「能動的学習と学習戦略」などが上位にランクインしており、リスキリングの中でも特に、分析・テクノロジー領域でのスキルに需要が高まっています。

5年で1兆円規模を投じる計画

国も後押ししており、岸田政権は成長産業への労働移動を促すため個人のリスキリングなどに5年で1兆円規模を投じる計画です。さまざまな補助制度も導入されています。ITやデータを中心に将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野では、社会人の専門的・実践的な教育訓練講座を認定し費用を補助。ベンチャーが使いやすい仕組みになっています。また、キャリアアップ支援事業費補助金を通じ、在職者に対するキャリア相談・リスキリング・転職までを一体的に支援しています。

各企業でリスキリングを効果的に機能させるには、単にスキルアップの機会を提供するだけではなく、旧来型の人事制度の見直しや人的資本経営の費用対効果の検証、学びの主体化、業務機会への接続が必要です。こういった対策を的確に講じなければ、せっかくの投資が無駄になってしまう可能性もあります。ただ、こうした取り組みを各企業が内製化しゼロからスタートすることは大変なので、スタートアップとの連携が有効な手段だと思います。

50ほどの団体が連携し、あらゆる人のスキルをアップデート

積極的な連携を仕掛けているのは、社会人向け動画学習サービスも展開する通信教育の大手です。女性のキャリアアップを支援するWaris(ワリス)を連結子会社に迎え入れ、オンライン学習プラットフォームなどの事業基盤とWarisの知見・ノウハウを生かし、個人に対してはリスキリングを通じたキャリアシフト機会、企業に対しては女性管理職人材やDX人材の採用・育成・コンサルティングなどの複合的なサービスを提供。新たな形での「学ぶ」と「働く」をつなぎます。

また、UX(ユーザー体験)起点の事業成長・成果創出を支援するベンチャーとも提携。商品サービスやマーケティングにおけるUI(ユーザーインターフェース)/UX向上の支援と、自社社員のUX能力を向上させるため、リスキリングなどの施策も強化します。

大手ITグループの人材育成・研修会社は、IT技術者向けリスキリング支援サービス を運営するベンチャーと提携しました。システムインテグレーター(SIer)を中心とするIT技術者を対象とした、戦略的なリスキリング・人材育成の仕組みづくりを強化するのが目的です。

国や地方自治体、民間企業などが一体となり、地域や性別、年齢に問わず日本全国のあらゆる人のスキルをアップデートするリスキリングに取り組む「日本リスキリングコンソーシアム」も発足されました。80ほどの団体が協力・後援しており、社会全体での連携も進んでいます。

今回はDX・IT・先端技術や学習・育成サポートといった領域から、5社を紹介します。


1対1で話すテーマや問いの設定までをサポート(株式会社villio

villio(ビリオ、東京都港区)は、従業員のエンゲージメントを向上させる1対1型のSaaSとコーチングプラットフォームを掛け合わせた、「Talent Amp(タレントアンプ)」を提供しています。メンバーが手間なく業務の内省や困りごとを言語化でき、1対1にて話すテーマや問いの設定までをサポートします。また、管理職に対し現状の対話状況を可視化しコーチングを提供することで、対話スキルを向上させ、企業のマネジメントの質の強化に貢献します。

先端領域の世界的なトッププレイヤーと連携(スキルアップNeXt※登壇時の社名:スキルアップAI

スキルアップNeXt(登壇時の社名:スキルアップAI)(東京都千代田区)はDX/AI・GX人材の育成と組織の構築を支援するサービスを提供します。組織課題や人材戦略を受けて育成計画や具体的な研修カリキュラムを策定、人材採用のプランニングから行うことで企業の課題に深く入りこみ、実データを用いた研修を行います。また、先端領域における世界的なトッププレイヤーと連携することで、いち早く専門性の高い講座を開発・提供します。講座数は50を超え、5年間で650以上の企業・自治体に教育プログラムを提供しています。

KPIツリーの設計を体系化した世界初のトレーニングコンテンツ(株式会社プロフィナンス

プロフィナンス(東京都港区)は、あらゆる事業家のために進化し続ける動的経営シミュレーター「Vividir(ビビディア)」を提供しています。世界で初めてKPIツリーの設計を体系化したトレーニングコンテンツを用い、事業計画から予実管理まで一気通貫した仮説検証を体験ができます。予実管理機能では会計・CRMなど外部サービスとの積極的な連携によって利便性を向上させ、スイッチングコスト(乗り換え費用)を増大させています。東南アジア、インドでの展開も目指します。

データサイエンスが学べるビジネススクール(株式会社データミックス

データミックス(東京都千代田区)は、データサイエンスが学べる日本屈指のビジネススクール「datamix(データミックス)」を運営しています。卒業後は、副業を行ったり講師に就くことで、同社が作ったオープンラボやコミュニティ内で稼いでもらっています。入学者は1200名以上。カリキュラムを通じ個人のポテンシャルを引き出し、そのうち60%がデータ関連職へのキャリアチェンジに成功しています。法人向けサービスに関しては、導入社数120社以上、年間受講者は3000名以上にのぼります。

プログラミングの知識なしにオンライン教育システムを開発(株式会社Arts Japan

Arts Japan(名古屋市中村区)はプログラミング知識が一切不要で、最短でその日のうちにオンライン教育システムの開発を可能にするクラウドサービス「Revot(レボット)」を提供します。強みはノーコード開発、受講生とスクールの自動分析、離脱リスクを検知するAIサポートで、オンライン教育における受講生の入出金管理から、教育までのプロセスを全て提供できるサービスです。海外のスクールも利用しており、今後はベースとなる機能の拡充と多言語対応の品質向上を進めます。

転職が前提の国々と比べると、日本はリスキリングに対する意欲がまだまだ低いのが実態です。しかし構造化する人手不足を背景に社外から人材を獲得する動きは活発で、転職率も上昇しています。大転職時代の到来を背景に、リスキリングをめぐる動きはさらに加速しそうです。

 

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

ビジネスプロデュース事業部 Morning Pitchユニット ユニットマネージャー

永石 和恵(ながいし・かずえ)

学生時代からITベンチャー企業へ参画、その後大手ネット広告代理店と2社で計10年の人事キャリア。1社目のベンチャーでは、上場前メンバーとして人事採用チームの立ち上げを経験、上場後にHR領域マネジメントと経営企画IR業務を担当。現職では、スタートアップ個別支援や、イノベーションエコシステム構築に従事。ベンチャーと大企業の協業マッチングプラットフォームMorning Pitchの運営統括。

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

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