この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、6月22日に開催した「FemTech(フェムテック)特集」です。
女性は思春期の月経に始まって婦人科系の疾患に直面し、人によっては妊娠や不妊を経験、産後のケアが必要な女性も数多く存在します。このようにさまざまなライフステージがありますが、ステージごとに色々な課題と向き合いながら毎日を過ごしています。
また、多くの不調を抱えることが多い更年期も避けて通ることはできません。こうした女性の健康にかかわるさまざまな課題を、主にテクノロジーを活用して解決をしようというのが、女性(Female)と技術(Technology)を掛け合わせた造語のフェムテックです。
フェムテックの世界市場の規模は3.8兆円と言われており、2025年までには約5.5兆円まで拡大するとみられています。対象となる分野は月経、妊娠、産後ケア、婦人科系の疾患、更年期と幅広く、それぞれの悩みを解決する商品やサービスを、企業の福利厚生として取り入れたり、独自にサービスを展開する企業も増えています。
日本ではフェムテック市場の追い風となるような、政治や法制度の動きが顕在化しています。2020年には「フェムテック振興議員連盟」が発足し、当時の自民党幹事長代行だった野田聖子元少子化相が会長に就任。快適な生理期間と妊活の支援、更年期の諸問題解決という3つの柱を設定し、テクノロジーによる課題解決に向けた議論を進めています。
2021年には医薬品医療機器法(薬機法)が緩和されたことで、フェムテック製品にも大きな影響を及ぼすようになりました。緩和によって多くの製品が、「経血を吸収します」や「このショーツ、漏れません」といった表現で商品の効能を訴求できるようになったからです。こうした流れを踏まえ、新たな製品の開発が活発に行われています。
女性特有の悩みは精神的・経済的に負担になることが多く、それらを解決するためのフェムテック関連の製品・サービスは(1)専門家相談・サポート(不妊治療、更年期サポート、女性のヘルスケア相談)(2)簡易検査キット(卵巣年齢チェック、膣内フローラチェック)(3)健康管理・トラッキング(排卵日予測、基礎体温の管理など)(4)医療支援(受精卵の映像閲覧、痛くない乳がん検査など)(5)その他(卵子凍結、避妊ピル配達サービスなど)―といった5つのカテゴリーに分かれています。
今回は月経、ウエルネス、不妊・妊孕性(にんようせい=妊娠しやすさ)という3つの領域から5社を紹介します。
MEDITA(メディタ、東京都中央区)は、企業向けの健康管理システムと個々の女性の健康管理をサポートする健康支援システム「Aidy(エイディ)」を展開しています。具体的には、臨床心理の技法を応用した健康チェックや、健康診断を実施。個々の女性の健康状況に応じたパーソナライズ型の一般用医薬品(OTC)を提供しています。月経随伴症状による1年間の社会経済的負担は、労働損失とOTC医薬品費用を合わせて約6000億円にのぼるため、女性社員のパフォーマンスを最大化することで、社会負担の軽減につなげます。
Entale(エンテール、東京都港区)はLINEを利用した生理日予測・パートナー共有サービス「ペアケア」を開発しています。独自のAIで生理日・排卵日を予測し、LINEの間接的な表現提示し、恋人や家族・友人などのパートナー共有機能を無料で提供しています。2019年の公開時点では登録者が3万人程でしたがSNS・口コミでじわじわと広がり、2023年1月には50万人を突破しました。Z世代ユーザーが最も多く、パートナー共有率は20%を超えており、女性の健康を総合的にサポートするプラットフォーム化を目指します。
アークス(東京都渋谷区)は、不妊治療クリニックの現場課題である「胚、培養士の不足」や「手技成功率のばらつき」などを踏まえ、AIやロボット技術を活用し、生殖補助医療(ART)における作業支援・自動化デバイスを提供しています。培養士が顕微鏡をのぞきながら、ジョイスティックを操作して卵子と精子を一体ずつ受精させる顕微授精の自動化に取り組んでおり、超高精度な精子選別AI機能とマニピュレータ自動操縦機能という2つのソリューションを展開。「微細な力加減が要求される」などの課題解決を目指しています。
ルナドクター(東京都新宿区)は女性医療をオフラインとオンラインでサポート、ワンストップで健康問題を解決できる事業を展開しており、女性のための自宅検査キット「FEMCHECK」を提供しています。自宅検査キットの市場規模は、1100万人を超える巨大市場ですが、この市場は病院での検査の数。自宅での検査を普及することができれば、さらに市場は拡大すると予測しています。検査キットで陽性が出た場合は、同社が経営支援しているクリニックで受診できる態勢を整えています。
Dioseve(ディオシーヴ、東京都江東区)は不妊治療や遺伝病の原因究明など、これまで解決策のなかった課題に対するソリューションの提供を目指し、iPS細胞から短期間に大量の卵子を作成することができる独自技術「DIOLs(ジオール)」の開発を行っています。この技術を用いて健常かつ新鮮な卵子を作成できれば、患者の体質にかかわらず子供を持つことができる世界初の治療方法となります。今後は、英国で本治療の安全性を立証した後、欧米日を中心に事業を拡大する予定です。
従業員の健康づくりを通じて企業の価値を高める健康経営が重視されるのに伴い、フェムテックの動向に注目が集まっています。女性の社会進出が進む中、働く女性の心身のトラブルは、多くの企業に影響を与えており、経済的な負担も大きいからです。
仕事と不妊治療を両立できずに退職したり、不妊治療をあきらめた女性も多いのが現状です。また、45歳から59歳ぐらいまでの女性を更年期世代とすると、女性就業者の約3分の1がその世代に相当しますが、更年期を理由に昇進を辞退した女性は実に半分に上ります。女性特有の健康課題は女性社員のパフォーマンスの低下、離職、昇進の辞退などにつながり、企業経営にも大きな影響を及ぼすことは必至です。福利厚生の制度などのサポートによって、これらの影響を軽減させることは、各企業にとってもメリットが大きく、実際にフェムテックを活用した女性社員が、安心して働ける職場づくりを進める企業も増えています。
日本は海外に比べると、特に経済の分野で女性の進出が著しく遅れています。こうした現状を打破するための方策として、フェムテックの進化は重要な役割を果たすと言えるでしょう。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
インダストリー&ファンクション事業部 ヘルスケアユニット
中井 美奈(なかい・みな)
国内外の金融機関、民放報道機関(ロンドン支局)にて従事、英国でNGOを立ち上げ、ロンドン大学にて開発学博士号を取得後、2021年9月より現職。前職では、EU・アフリカ・中東における報道制作や、ジェンダー関連分野を中心とした発展途上国の開発事業プロジェクト等に従事。現職ではFemtech・ヘルスケアの新規事業創出支援を中心に担当。
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