この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年6月15日に開催した「モビリティ特集」です。モビリティとは文字通り、「動きやすさ」「移動性」などを意味する言葉で、今回はヒトの移動に焦点を当てています。
米国でのモビリティ部門の資金調達状況を見ますと、自動運転の米クルーズ・オートメーションや、高級EV事業を展開するクロアチアのリマック・アウトモビリ、電動二輪車を手掛けるインドネシアのゴジェックが上位を占めるなど、電気自動車(EV)関連の投資が多くなっています。配送ロボットの米ニューロに代表される、MaaS(Mobility as a Service、次世代移動サービス)関連の企業も台頭しています。
MaaS市場は、国内でも大幅な伸びを示すと見られています。矢野経済研究所が今年4月に発表した「国内MaaS市場予測」によると、2021年の市場規模は約4900億円。2035年には約2兆3600億円まで拡大する見通しです。
MaaSはCASEと呼ばれる、モビリティの変革につながる4つの技術の進化と密接にかかわっています。「Connected(コネクテッド=つながる車)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Service(シェアリング、モビリティサービス)」「Electrification(電動化)」という領域の頭文字をつなげた造語で、そのCASEの最新動向について紹介します。
Connectedの領域では、ネットワークとつながったコネクテッドカーの普及率が、ノンコネクテッドカーを上回るようになり、国内でもコネクテッド領域に強みを持つスタートアップと大企業の連携が加速しています。例えば車両データなどの統計解析技術を提供するスタートアップは、Web広告のテクノロジー事業を展開する大手と資本提携し、車両広告プラットフォームを立ち上げました。高速IoTプラットフォーム を提供するアプトポッドは、専門商社と提携し、遠隔運行管理システムを構築しています。
Autonomous領域を見ると、米国や中国を中心に海外で自動運転の普及が進んでいます。日本も追随しており、今年4月に施行された道路交通法の改正によって、バスや物流を対象に完全自動運転に近いレベル4の公道走行が解禁。今後、さらに普及が進むことでしょう。こうした動きに伴い、自動運転のEVだけでなく水上ドローン、自動配送ロボベンチャーの間で資金調達を行う動きが相次いでいます。
Smart Mobility領域は事業範囲が広いこともあって、協業が活発です。タクシーの相乗りサービスを提供するNearMe(ニアミー)は大手旅行会社と提携。観光地における二次交通の課題解決に向け協業を開始しています。また、16歳以上は運転免許が不要になるなど規制緩和が進んだ電動キックボード分野も市場の拡大が見込まれ、シェアリングサービス大手のLuup(ループ)と大手損害保険会社は、安全性の向上を図るため提携しています。
Electrificationの領域では、日本政府が2035年までに新車販売で電動車100%を実現することを目標として掲げていることもあって、EVの製造や充電インフラの整備の分野で提携が加速しています。空飛ぶクルマについても、2025年度の大阪万博に向け政府が規制緩和を検討しているのを受けて、大手商社が海外勢との提携を積極的に進めています。損保や電力会社を巻き込んで周辺インフラを整備する動きも活発です。
CASEの中から今回は、ConnectedとSmart Mobilityの領域で活躍する5社を紹介します。
SWAT Mobility Japan(スワットモビリティジャパン、東京都中央区)は、シンガポール発のスタートアップです。日本とシンガポールで特許を取得した、車両台数削減に強みを持つアルゴリズムを活用。自治体や交通事業者向けに、オンデマンドの交通運行サービスや物流の配送ルート最適化サービスなどを展開します。例えば名古屋市では、粗大ごみ収集ルートの最適化に貢献。ルートを作成する担当者が3時間ほどかけていた業務が約15分へと大幅に短縮しました。
米国に本社を置くPHION Technologies (ファイオン・テクノロジーズ)は、送電・変換効率がライバル他社に比べ2~3倍優れた、遠・中距離無線給電を実現するプラットフォームを提供しています。無線給電プラットフォームを通して配線がない給電環境をオフィスやモビリティに構築し、シームレスな給電サービスの提供を目指しています。現段階ではスマートフォンの充電を実現していますが、次期モデルではパソコンやドローンへの給電を可能にする予定です。
Pathfinder(パスファインダー、東京都渋谷区)は、出発店舗と返却店舗が固定された片道専用レンタカーのマッチングサービス「カタレン」を提供しています。日本では初めてのサービスで、コストの発生要因だった回送車両を旅行者など利用者に運んでもらうことによって、収益を生み出す車両へと変化させ、乗り捨て料金が不要な価格優位性を生み出します。短距離間での移動にも広げ、シェアサイクルや電動キックボードなど全てのモビリティを対象とする方針です。
Pyrenee(ピレニー、東京都中央区)は交通事故を防止するAIドライバーアシスタント「Pyrenee Drive」を提供しています。自動運転技術を活用した製品で、道路上の人や車などとの衝突リスクを予測してドライバーに前もって知らせることで、交通事故の最大の原因である見落としや認識ミスをなくします。後付けの車載デバイスとして、AIを活用し事故を防止する製品は世界初。新車だけでなく既に流通している車にも対応でき、競合優位性を生み出しています。
未来シェア(函館市)はAI便乗交通サービス「SAVS」を提供しています。タクシー(デマンド交通)と路線バス(乗合交通)を掛け合わせることで、AIによるリアルタイムな便乗配車を計算。ドライバーの空間移動と乗客の希望時間を同時に満たし、最適な走行ルートを瞬時に決定することで、都市レベルでの全体最適交通を実現します。これによって高齢者の免許返納や路線バスの赤字、ドライバーの高齢化といった、モビリティを取り巻く社会課題の解決に取り組みます。
21世紀の産業革命とも称されるCASEは、相互に密接に連携しながら、段階的に進化するという特性を備えています。これによって車を「所有」する社会から「利用」する社会へ移行し、MaaSが主流となる時代を迎えることとなります。MaaSが普及すれば膨大なユーザーの移動データが得られ、行動予測などにも活用が可能。交通体系を最適化しスマートシティの実現にも貢献します。
異業種とのさまざまなサービス連携により、モビリティ革命を起点とした都市のDX化を加速するため、CASE領域を中心としたベンチャーは重要な役割を果たそうとしています。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
スタートアップ事業部(東海オフィス)
石橋 誠剛(いしばし・せいごう)
■証券会社(投資銀行、経営企画)
○東海地区の上場企業向けの資金調達支援等を担当(自動車業界中心)
・CASE等で自動車業界の外部環境が変化する中、東海地区の自動車業界の未来について関心を持つ
○スタートアップ企業等の非上場企業のIPO支援を担当
○経営企画時代に新規事業の立ち上げ等を担当
■デロイトトーマツベンチャーサポート
○東海エリアにおけるベンチャー創出・成長のためのエコシステム形成支援を担当
○大企業向けの新規事業開発支援
○スタートアップ企業の伴走支援を担当
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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