モーニングピッチ

イノベーショントレンド

 

\イノベーショントレンド解説/

この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。

 

今回は、2023年6月1日に開催した「NFT特集」です。

社会浸透フェーズに移行

NFTは、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を基盤にして複製や改ざんを難しくしたデジタルデータのことを指します。ブロックチェーン上で識別番号を与えることによって唯一無二を証明できるため、コピーが容易であった従来のデジタルデータとは異なり、資産価値があると評価されるようになりました。

注目度が一気に高まったのは、高額販売や落札が話題となった2021年です。デジタルアーティストで最も有名な人の一人であるBEEPLE(ビープル)氏のアート作品が約79憶円で販売されたほか、ツイッターの創業者による最初のツイート約3億円で販売されました。ただ、2022年の6月以降、米国の利上げに伴う仮想通貨市況の低迷によって、取引価格が下落。NFTバブルの崩壊につながりました。

その結果、市場の7割ほどを占めていた投機・転売目的のプレイヤーが市場から撤退したことなどもあり、全体の流通額が減少。2022年前半には40億㌦(約6000億円)規模だったのが、ここ数ヶ月では5億㌦程度と、おおよそ8分の1の規模まで縮小しています。過度な期待フェーズが終わり、社会浸透フェーズに移行し始めたと考えています。

発行者と購入者の間でこれまでにないコミュニティを創出

NFTは、(1)インターネットの大部分を中央集権的な組織が管理・所有するのではなく、その所有権は構築者と利用者に分散(2)誰もが平等にWeb3に参加でき、誰一人として排除されることはない(3)暗号通貨を利用してオンラインでお金のやり取りをするWeb3型の決済(4)第三者に依存しない取引が可能-といった特性を備えています。

NFTを使うことで実現する特徴の一つが、発行者と購入者の間でこれまでにないコミュニティが創出されることです。二つ目は二次流通が可能である点。その際には、発行者がロイヤリティ収益を獲得できます。

サービスを売る場合、その後のリレーションは発生しません。例えばメルカリなどで二次流通されてもロイヤリティの支払いがなく、サービス開発者にメリットもないだけに、NFTの仕組みは革新的です。

こうした特徴を踏まえたビジネスの一つが、リアルアセットとの掛け合わせです。

既存産業では生み出しづらかった、NFTによるセカンダリーマーケットの創出が大きな特徴です。

NFT所有者は、リゾート地を自宅・ホテルとして利用

ホテルの開発・運営を行うスタートアップは、リゾートとNFTを組み合わせた事業を展開。NFT所有者は、リゾート地を自宅としてもホテルとしても利用でき、そのオーナー権を他の人に譲渡販売することが可能です。富裕層の中で人気が高く、20分で3億円分が完売しました。

例えば2004年10月の新潟県中越地震で甚大な被害を受けた、人口が約800人の新潟県山古志村では、錦鯉をモチーフにしたデジタルアート「Nishikigoi NFT」を発行。2カ月で約600万円の資金調達に成功し、デジタル住民の増加に貢献しました。NFTホルダーは、地域活性化のプロジェクト会議への出席や、デジタル村民選挙への投票などを行う権利を得ています。

大手企業とスタートアップの協業も進んでいます。大手金融機関はHashPortと連携し、ソウルバウンドトークン(SBT)と呼ばれる譲渡不可のNFTの開発など、新規ビジネス創出を目指しています。大手通信会社は、地方創生のふるさと納税NFT事業を展開する企業と協業し、納税者と自治体の関係性構築を支援するプロジェクトを開始しました。

今回はマーケットプレイス、ソリューション、ブロックチェーンその他の分野から、5社を紹介します。

クラウドファンディングやふるさと納税と掛け合わせ(MikoSea株式会社

MikoSea(ミコシー、東京都千代田区)は、NFTを活用して地方創生・関係地域を創出するプラットフォーム「MikoSea」の開発・運営を行っています。ファンコミュニティの創出に力を入れており、NFTとクラウドファンディング、リゾート、ふるさと納税を掛け合わせた3つのサービスを展開。サービスリリースから4ヵ月で掲載予定プロジェクトの総額は20億円を突破し、掲載予定プロジェクト数は20を超えました。最高齢ユーザーの年齢は85歳と、幅広い年齢層に利用されているサービスです。

子育てクーポンの配布をDX化(Digital Platformer株式会社

Digital Platformer(デジタルプラットフォーマー、東京都新宿区)は情報配信やポイントを貯める・使うなど、色々な機能を提供できるマルチウォレットアプリを可能としたプラットフォーム「SHIKI」を提供している。福井県では、本人確認済みIDを発行し行政サービスをプラットフォームで統合すし、子育てクーポンの配布をDX化。また、地方銀行と組み石川県内の一部自治体で、日本初の預金型のステーブルコインを発行しました。デジタル給与払いに活用できるとして、その他の自治体や金融機関とも話を進めています。

マルチチェーン型のマーケットプレイスを提供(株式会社COINJINJA

COINJINJA(コインジンジャ、埼玉県越谷市)は、ブロックチェーンが一つではなく多数存在するマルチチェーン型のNFTマーケットプレイス「tofuNFT」を提供しています。国内のNFTマーケットプレイスは、年間の流通量が大手でも年間で1億円程度。そうした中、tofuNFT は、200億円以上の流通量があり、月間平均のアクティブユーザーは44万人に達しています。また、多くの海外ユーザーと圧倒的な流通量という強みがあり、さまざまなチェーンで1、2位を獲得しています。

企業が保有する脱炭素に貢献する施設をNFT化(株式会社bajji

bajji(バッジ、東京都台東区)は環境貢献型NFT「capture.x(キャプチャーエックス)」を提供しています。脱炭素社会に向けた活動を世の中にアピールしたい法人と、環境貢献したい個人を繋げるプラットフォームで、企業が保有する脱炭素に貢献する施設をNFT化して個人に販売。個人は施設のデジタル上のオーナーとなり、日々のCO2削減量を確認できます。収益のうち、最大20%を環境貢献プロジェクトに寄付するスキームで、ふるさと納税と連携したビジネスモデルも構築しています。

二次流通に特化したモノ・権利のマーケットプレイスアプリ(株式会社チケミー

チケミー(東京都文京区)は、日本初となる二次流通特化型のモノ・権利のマーケットプレイスアプリ「チケミー」を展開しています。イベント入場券やアーティストグッズ、トレーディングカードなど、需要が多く供給が少ない商品の多くは転売され、公正価格での取引、発売元への還元は十分に行われていませんが、こうした課題を解決できます。また、チケミーという共通のマーケットプレイス上で、イベントチケットから農産物に至るまで取引を行えるため、さまざまな領域へ進出することも可能です。

地方創生プロジェクトが大幅に伸びている要因は、NFTの購入者に特産品の購入権や観光誘致を促して、その土地に足を運んでもらうインセンティブを作り、地域とのコミュニティを醸成、関係人口を創出しているためです。また、返礼品競争が激化しているふるさと納税の在り方にも、一石を投じる可能性があります。

 

地方創生を軸に、NFT系ベンチャーのサービスはさらに進化を遂げそうです。

 

▼テーマリーダーProfile

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

イノベーションソリューション事業部

中静 奎太(なかしず・けいた)

慶應義塾大学経済学部卒。学生時代にC向けアプリケーションの開発を行い、Apple Store, Google Play上でリリース・運営を行う。「Web3×就活」プロジェクト立ち上げの一人として従事した後、NFT発行サービスを開発。デロイト トーマツ ベンチャーサポート入社後は、Web3スタートアップ支援を担当。

 

 

 

~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~

—————————————————————————————————————————————-

Morning Pitchでは、上記のような各回テーマ概観の解説を

資料や動画にして有料会員様限定でお届けしています

 解説資料・・・Morning Pitch有料会員

 解説動画・・・Morning Pitch Innovation Community(MPIC)会員

—————————————————————————————————————————————-