この連載ではモーニングピッチ各回で取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信します。
今回は、2023年6月8日に開催した「Retail Tech(リテールテック)特集」です。
経済産業省によると、2022年の国内リテール(小売り)市場は約154兆4000億円。6年連続して拡大しており、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に伸び率は大きくなっています。巣ごもり消費という言葉が流行しましたが、旅行などで使われなかったお金が消費されたことも、市場規模を押し上げる要因となりました。
巣ごもり消費によって大きく伸びたのが、EC(電子商取引)市場です。10年前のEC化率は3%台に過ぎませんでしたが、2021年には一気に9%近くまで上昇、すでに10%を超えているとの見方もあります。
コロナ禍後には、消費者志向も大きく変わりつつあります。キーワードは(1)利便性(2)バリュー消費(コストパフォーマンス)(3)プライバシーとセキュリティー(4)顧客体験(5)顧客による選別(6)企業の存在意義-。こうした潮流に対応していくことこそが、小売業に求められています。例えば顧客体験を追求する動きに対しては、個別のニーズを踏まえ、他社には体験できないようなサービスに取り組む必要があります。
各社のIR計画や中期経営計画などを見ますと、一連の動きにはWho、What、Howの3軸で対応されているように思います。一つは顧客ターゲット(Who)の見直し。百貨店が戦略的に、富裕層へのシフトを明確に打ち出していることなどが該当します。
2つ目は提供商品・サービス(What)の見直しです。コンビニが自社商品開発へ戦略的に投資し、金融や保険、不動産に進出するなど、小売りでのアセットを活かしながら、小売り以外の収益拡大を目指す企業も増えています。
最後に提供方法(How)の見直しの部分ですが、店舗の新しい活用方法や店舗外の収益獲得など、各社の取り組みが非常に目立っています。このHowの部分がスタートアップとの連携に最も適した部分であり、さまざまな領域でスタートアップが台頭しています。
具体的には、店舗やECの売上拡大に貢献するリテールメディアやメタバース、ライブコマースなど、攻めの部分で活躍するスタートアップはもちろんのこと、データ活用や物流面の効率化、自動倉庫化といった、コスト削減・効率化の領域でも多くの企業が台頭してきています。なかでも注目しているのはリアル店舗。確かにEC市場は伸びていますが、9割以上は店舗で売れているのが小売りの実態だからです。その店舗も転換期を迎えており、新たな活用法に注目が集まっています。
もう一つは空き店舗・区画を活用し期間限定で出店する、ポップアップストアの需要が加速している点です。
百貨店や商業施設はコロナ禍で空き区画が急増し、テナントの撤退による賃料収入の減少が大きな課題となりました。一方、EC事業者はプレイヤーの拡大により顧客獲得コストが急増しており、これまでは非効率的と言われていたリアルチャネルでの顧客獲得が注目されています。また、消費者もオンラインでの買い物が増えた一方、実際に試して購入したいというニーズは引き続きあります。このためポップアップストアは、3者それぞれが絡み合い、注目されている領域となります。
大手企業とスタートアップによるオープンイノベーションも進んでいます。リテールメディア領域では、大手ドラッグストアが、小売業界のDXを推進する企業と提携し、広告配信や店内プロモーションの強化を進めています。
今回はデリバリー・買い物代行、ポップアップ・店舗マッチング、ライブコマース、店舗管理、自動倉庫という分野から5社を紹介します。
RENATUS ROBOTICS(レナトスロボティクス、東京都文京区)は完全無人の倉庫を実現する世界初のワンストップ梱包システムを採用した、次世代ロボット自動倉庫システム「RENATUS」を提供しています。アルゴリズムや群制御技術によりピッキングの順番や経路を最適化し、ベルトコンベアなどの設備を削減できるため、面積効率が大幅に向上。コンテナ100万箱以上を1拠点に保管できるようにしました。今後はピッキング・集約・梱包作業の効率化をさらに進め、「完全自動倉庫」の実現を目指します。
Tailor App(テイラーアップ、東京都渋谷区)は、ライブコマースを企画から配信までワンストップで完結させるコンサルティングサービス「LIVURU(ライブル)」を提供する。ゲームや生配信で商品を紹介するライブコマースは、商材に適したプラットフォーム選定、キャスティング、台本制作、撮影ディレクションなどを行い、低価格で効果的なライブ配信を実現します。日本での浸透率も高いインスタライブを活用することで集客率を上げ、ライブ配信時のコメントを含む視聴者データを吸い上げることが可能です。
THIRD(東京都新宿区)は、小売事業者の出店コストにかかわる課題をAIで解決し、工事原価を削減するSaaSサービス「工事ロイド」を提供します。工事の見積もりをアップロードすることで、AIが適正金額を算出する仕組みを搭載。約36万種類の電気・機械部材を網羅したリアルタイムデータベースに基づく査定を行い、コストコントロールの方法や工事手配サポートまでをワンストップで提供します。今後は、自社の管理ソフトとセットでの導入を加速。不動産業界だけでなく、物流、小売り・ホテルなどの事業会社向けにも展開します。
エニキャリ(東京都千代田区)は、ラストワンマイル配送サービス「エニキャリSDGs便」を提供します。EC配送と店舗からの即時配送という2つのサービスを展開。IT×自転車配送で物流のDX化を推進します。ゼロカーボン配送やCO2削減量の見える化など、環境に配慮した取り組みは、地域や企業によるESGへの取り組みを加速させます。今後は、地方自治体の買い物弱者対策として、地域の住民による配達インフラ機能の実装および全国主要都市への進出拡大を目指します。
COUNTER WORKS(東京都目黒区)は「SHOPCOUNTER Enterprise」というリーシング管理システムを提供します。リーシング情報の収集や報告、共有などがあるが、それらの課題を解決できるプロダクトです。同サービスのようなオンラインリーシングが一般化すれば担当者の負担も減らせ、より魅力的なテナント誘致が可能となるでしょう。リアル店舗はコロナ禍で大きなダメージを受けただけに、同サービスの普及に期待が高まります。
世界中にスマートフォンが普及したことで、越境ECの市場規模は年々拡大しています。今後も中国を中心に成長を続けるとみられており、リテールテック系ベンチャーのさらなる活躍に期待が高まります。
▼テーマリーダーProfile
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
ビジネスプロデュース事業部
野谷 祐史(のたに・ゆうじ)
■ 新卒で大手百貨店に入社。主に店舗戦略や投資計画・改装計画の策定、新規事業開発に従事。新規事業立案やテナントリーシング、イベント企画を行う中、様々なスタートアップ企業と連携。
■ デロイトトーマツ入社後は主に下記のプロジェクトに従事
I.大手企業に対する新規事業開発コンサルティング
代表的なプロジェクト
・大手ゼネコン様:新規事業開発支援(スマートシティ)
II.スタートアップ企業の経営支援
東京都から受託する青山スタートアップアクセラレーションセンターにおいて、アクセラレーターとして事業の仮説検証支援、事業計画策定支援、営業戦略策定支援等に従事
III.自社内での新規事業開発
デロイト内の新規事業開発部門における事業開発に参画(新規事業開発支援ツール、オープンイノベーション支援ツール等)
~イノベーショントレンドを定期的にキャッチアップされたい方へ~
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